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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
非遵法性享楽主義者ノ人生論

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02

 タマ。幼き頃から一度も教室を違わなかった腐れ縁。


 放課後を共にすることはあまりなかったが、学校では共にする機会が多かった。付かず離れずといった立ち位置で、いなくても困らないが、いても邪魔にならない。私にとってタマはそんな存在だった。


 そんなタマをタマと呼ぶようになったキッカケは、小学校五年生のとき。


 本屋で欲しい物を鞄に入れたとき、タマに目撃されたのだ。それこそ目と目があうほどに。


 一度もヘマをしたことがなかっただけに、これまでの人生で一番焦った瞬間だった。


 どう口止めするか。言い訳するかを考えた先で、


「あ、すみません」


 タマは近くの店員を呼び止めたのだ。


 終わった。


 このままチクられ、警察沙汰になり親も呼ばれる。そう思った矢先、


「これの新刊って、もうないんですか?」


「ああ、これね。ここにないなら売り切れかな」


「はぁ……わかりました」


 店員とそんなやり取りをして、あっさりとその場から離れていったのだ。


 もしかして私を庇ったのか。


 そう思ったが、とても残念そうなその声色。子供心にそれが咄嗟の演技とは思えなかった。庇うにしても、あの状況で店員を呼び止めないだろう。


 その真意がわからず、その背を追って外で声をかけた。


「お、おい。田町(たまち)


 すると振り返ったタマは、


「ん? おう、明神(あけがみ)じゃん」


 奇遇だなと言わんばかりの顔を浮かべたのだ。


 確実に目があったというのに、この白々しい演技。つい目を丸くしてしまった。


 「今暇か」と誘うと難色を示されたので、「ジュースでも奢るぜ」と続けるとすぐに釣れた。タマは昔から現金な奴なのだ。


 店から少し離れた公園。自販機で好きなものを選ばせた先で、本題を切り出した。


「田町さ。さっきのあれ、なんだったんだ?」


 特に脅しかけるつもりもない。タマの行動の意味がわからず、その答えを純粋に求めたのだ。


 雰囲気や声色から、タマもそれを受け止めたのか。特に恐れることもなく、


「俺はなにも見ていない。それでいいじゃんか」


 あっけらかんとそう言った。


 あまりにもあっさりとしているその様に、こちらのほうがまた呆気にとられた。まるでおまえのやっていることに、興味がないと告げられたようだ。


 それだけでタマの行動がわかった。


 悪行を見なかったことにして、自分のやろうとしたことに戻った。ただそれだけ。


 ではなぜ見なかったことにしたのか。


 面倒事に巻き込まれたくない。


 その顔はそう書かれていたのだ。


「なら俺があんなことをした理由も、聞いてこないわけ?」


 大人たちならまず、それを聞いてくるだろう。


 なぜこんなことをしたんだ、と。


 悪いことをしているとわかっていながら、なぜそんな非行に走ったか。そこに深いなにかがあると信じて、問わんとしてくるのだ。短絡的な子供にそんなもの、そうそうないだろうというのに。


 目をパチパチとさせたタマは、


「そこに物があるからだろ」


 1+1の解答をもたらすように答えたのだ。なぜそんな簡単な問題を、今更出してくるのかと不思議そうにすらしながら。私の万引きの動機を、こうも簡略的に言語化したのだ。


 なぜ、物を盗むのか。そこに、物があるからだ。


「俺は登山家かよ!」


 確かにその通りだと、死ぬほどギャハハと笑ったのだった。


 その日初めて、私はタマという存在と向き合う。いや、興味を持ったのだ。


 私は学校では問題児である。けれど教室の人気者という立ち位置を確立し、周りを扇動し巻き込み、微笑ましい子供の悪戯、とは言い難いことを散々やってきた。教師から死ぬほど怒られ、親を呼ばれるような事案は珍しくもなんともない。


 だからこそ、タマの凄さを思い知らされた。


 危険な臭いを嗅ぎ取ったら、しれっとその場からいなくなる。騒動が終わった後に、またしれっとグループへ戻ってくる。周りからずるいぞと文句が出るどころか、あんときいなくてラッキーだったなと言わせるほど。なにせ私ですら、そのときタマがいたかどうか自信を持てなかったくらいだ。 


 タマは全部混ざっておきながら、常に自分は知らぬ存ぜぬを貫いていた。場合によっては私たちを売っていたらしく、責任を全て押し付け回避したのだ。実はあのとき、と再会後に悪びれもせず白状してきたのだから、それにはもう笑うしかなかった。


 自らの立ち位置を守り抜くその様は、まさに保身に走ることに関しては、他の追随を許さなかった。


「明神。俺はおまえのやったことを見ていない。だからこれからも、なにかあっても俺はその場にいなかった。それでいいだろ?」


 自分のこれまでの立ち回りを語った後、タマはそう提案した。


 脅しでも交換条件でもなんでもなく、そういうことにしておいても、互いに困ることはないだろと。


 互いにあだ名で呼び合うようになるのは、それからすぐのことである。


 過去を振り返ると、年相応に笑ったことは珍しくないことであり、満足行く学校生活を送ってきたかもしれない。


 けれど私に腹を抱えさせ、死ぬほど笑わせてくれたのはいつだってタマくらいなもの。後、妖怪人食い唐揚げか。東京を恐怖のどん底に陥れた、あのバカみたいな事件の真相には、過呼吸で死にかけた。


 良くも悪くも、子供の頃は多感な時期。酸いも甘いも噛み分け、社会の闇を体現するほどに、悪事を働く大人へと成長した。あの頃の私にはもう戻れない。腹を抱えてバカみたいに笑うことはないだろう。


 そう信じてすらいたのに、


「自宅警備員を雇用することになった」


 生真面目な顔でそんなことを報告されたとき、つい笑ってしまい、


「しかも巨乳JK美少女だ」


 次にもたらされた台詞に耐えられなかった。


 女の擬態にも慣れて、ふとしたことで男の顔を見せることはない自信はあった。それがかつての自分を取り戻し、腹を抱えて何度もカウンターを叩き、死ぬほど笑ったのだ。


『トラブルが発生して店に戻れんくなった。事情は後で説明する』


 前日にこんな連絡を貰い、説明に来た矢先にこれである。


 保身に走ることに関しては、他の追随を許さないと自認している男が、なにがあればそんなトラブルを抱え込むのか。


 面白すぎてしかたなかった。


 店なんて開けてる場合じゃない。


 根掘り葉掘り聞き出しながら飲んだ酒は、間違いなく人生で一番の美酒であった。


 そうして改めて思い知った。


 私を死ぬほど笑わせられるのは、この男くらいなものなのだと。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
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― 新着の感想 ―
悲報[ガミさんは登山家]
[一言] 妖怪人食い唐揚げってなに? すごい気になるんですけどw
[一言] 妖怪人食い唐揚げとはいったい何なんだろうか…
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