表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
盲目性偏執狂ノ傾慕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/118

13

 タマさんへの想いはますます高まるばかり。それに比例して、この恋が叶わないかもしれない恐れもまた強まるばかり。


 でも、このままではいられない。


 いつまでも足踏みしたくはない。


 覚悟は扉を開ける前に決めてきたのだ。 


「そういえばタマさん、クリスマスはお仕事ですか?」


 意を決して、わたしはついに本題を切り出したのだ。


 異性にクリスマスの予定を聞くというのは、その意図が伝わりやすいもの。切り出し方もちょっと突拍子もなかったし、『その日はあなたと過ごしたい』とこの想いが伝わってしまったかもしれない。


 タマさんは頬を緩ませると、


「いや、クリスマスは有給を取った」


 未来の楽しみを口にした。その顔は訝しげにするものもなければ、わたしの心を察したものでもなかったのだ。


 恋は盲目であるわたしであれど、『君のために』なんて含意があるとは信じていない。


 クリスマスに予定はもうできている。そう言っているのだ。


 早速出鼻が挫かれた。


 そんな落ち込みよりも前に、そのクリスマスの予定が気になって気になってしょうがない。


 きっと、友人とか、家族とか、なんかイベントとか、そういった外せないなにかだろうと思う――


「ついに性の六時間デビューだからな。当日どころか、二日続けて取れたのはほんとでかかった」


 と自らへ言い聞かせていた途中の慰めは、あっさりと切り捨てられた。


「タマ、それセクハラよ」


「あっ」


 マスターにぴしゃりと指摘され、タマさんは慌てて口元を抑えた。こちらを横目で伺うその様は、わたしを不快にさせたかもしれない心配。同時に、恥ずかしいところを見られたというそれである。


 ハラスメントになるかもしれない失言。タマさんが普段からその気遣いをしてくれていたのは、この一年でよくわかっている。


 だからタマさんは、それほどまでに浮かれていたのだ。それこそこポロっと漏らしてしまうほどに。


 性の六時間。


 その意味をわからぬほどわたしは純情ではない。


「た、タマ、さん……彼女、さんが……おられる、んですか?」


 喘ぐように切れ切れに言った。


 引きつってまでいるこの顔を、失言への不快、それに堪えているように映るかもしれない。タマさんのほどの男性だから、すぐにその顔は申し訳ないそれに変貌する。


「彼、女……?」


 そう信じ切ってさえいたのに、タマさんはキョトンとしていた。彼女とは一体なんなのか。そんな禅問答に出くわしたかのような顔だ。


「そういえば俺たちの関係って、なんなんだ……?」


 タマさんは肘づえをつきながら、拳で口元を抑えた。


 わたしそっちのけで自問自答を始めたタマさんは、すっかり自らの世界に入り込んでいく。


 性の六時間。その時間でなにが行われるかは今更言わずがな。


 では、一般的にどのような相手と楽しむかとすると、夫婦や恋人だ。それ以外の相手とすることは、社会は健全と捉えず、むしろ不道徳とすら断ずる。


 タマさんは独身。かつ彼女を相手にするのはないとすら言っている。かといって専門のお店に行く感じでもない。そして自問自答するその様は、ただの遊び相手だとも到底思えない。


 一体どんな相手なのか。


 問わんと口を開こうとすると、


「タマ、今日は飲みすぎよ」


 マスターが窘めるように言った。


「変に口を滑らせ後悔する前に、今日のところは帰ったほうがいいんじゃない」


 今日の天気も晴れなのね、くらいの何気ない口ぶり。


 タマさんはハッとしたような顔をすると、後ろ手で頭をかいた。バツの悪そうなものではない。それもそうだなと、素直に忠言を受け入れたものだ。


 コートをあっという間に羽織ったタマさんは、


「ガミにこう言われちゃ敵わん。今日のところはお暇するよ」


 と言い残し、あっさりと帰っていた。出ていくときのマスターへの目配せは、気を利かせてくれた友情、それに対する感謝を示しているようであった。


 ポカンとしながら、タマさんが出ていった先から目を逸らせずにいる。


「クルミちゃん」


 だからマスターに声をかけられなければ、いつまでもそうしていたかもしれない。


「金曜日の早い時間に来るのはもう止めなさい」


 今日の天気の次は、明日の天気を告げるくらいの語りかけ。傘の必要性を説かれ、思わず『わかりました、そうします』と頷いてしまいそうだ。


「なんで、ですか?」


 でもそうなることはなく、わたしの目は丸くなるだけ。明日は快晴なのに、雨傘を持って行けと言われれば誰だって狼狽える。


「知りたい?」


「え?」


「一緒にクリスマスを過ごす相手が、タマにとってどんな子なのか」


 マスターは真っ直ぐとこの目を見据えてくる。まるでわたしの覚悟を問わんとしているようだ。


 咄嗟に首を振れなかったのは、悩んだからではない。覚悟を決める時間を要しただけ。


 唾を飲み込んでから口を開くと、


「……はい」


「堕ちるときは一緒だぞ。そんな台詞を差し出して、背負い込んだ子よ」


 マスターはあっさりと答えを差し出してくれた。


 堕ちるときは一緒だぞ。


 死がふたりを分かつまで、なんて安いレベルではない。その先も一緒だという宣言だ。


 恋する乙女として、そんなロマンチックな台詞を差し出されようものなら、メロメロのメロメロなんてものではない。ロミオとジュリエットのような未来がその先に待とうとも、迷いなく全てを差し出せるだろう。


 ……ただし、その台詞を差し出されたのはわたしではない。


 それを意味するものは言うまでもない。


「クルミちゃんも、ほんと男運がないわね」


 マスターは同情するように言った。


「よりにもよって、タマなんかに恋をするなんて」


 この身に宿った恋心。今日までマスターは触れてこなかったが、とっくにお見通しだったのだ。


 恋の遍歴は全てマスターに語り尽くしてきた。


 だから五度目の正直。初めてまともな人に恋をしたというのに、タマさんには既に相手がいた。そんな叶わぬ恋をしていたことに、ようやく掴んだまともな恋が潰えたことに、こうやって哀れんでくれているのだ。


「あんな男とくっつこうものなら、輝かしい未来が台無しになるところだったわよ。ろくでもない者同士がくっついていたおかげで、そうなることはなかったけど。……そういう意味では、クルミちゃんはあの子に救われたみたいなものね」


 おかしそうにしているその顔が、そうではないと告げたのだ。


 あんな男。


 ろくでもない者同士。


 タマさんへの恋は、五度目の正直でもなんでもない。今回もまた外れを引いた。黒歴史になるようなろくでもない恋だと言っているようだ。


「タマさんが……ろくでもない?」


 およそタマさんには似つかわしく表現に、わたしはただ困惑した。


「……驚いたわ。ろくでもない様をあれだけ見せつけられておいて、気づいてなかったの?」


 マスターは信じられないものを見たように目を見開いている。まるで宇宙人を目撃をした……いや、マスターのことだから、そのくらいでは狼狽えないだろう。


 だからこそ、こんなマスターを見るのは初めてである。


「キッカケがあれだから、タマへの恋は事故として片付けるにしても……ストックホルム症候群でもここまでじゃないわよ」


 顎に手を当てながら、マスターはマジマジとわたしの顔を覗いてくる。


「恋は盲目とは言うけれど、こんなに酷いとは思わなかったわ」


「そ、そんなに酷いですか?」


「てっきり不良を好きになる感覚で、タマを見ているのかと思ったもの。真面目くんとは違う、悪いところに魅力を感じるってね」


「悪いところ……」


 価値観の違いを見せつけられたかのように唖然とした。


「タマは非の付け所がないほどに、ろくでもない男よ。それこそあなたの恋の遍歴、過去の男たち全員がかかっても太刀打ちできないほどのね」


 世界の真理を諭すようにマスターは言った。


 信じられない例えをされ、口を開くもこの喉は音を鳴らせない。


 わたしの黒歴史。全て足してもタマさんに届かない。


 だって一年だ。週に一度とはいえ一年もの間、わたしはタマさんを見てきたのだ。沢山言葉を交わしてきたのだ。どれだけ思い出を辿っても、タマさんに悪い部分は見つからない。歯に衣着せずズバズバと語る様は、まさに他の男とはひと味もふた味も違うのだ。


 マスターはそんなタマさんを、ろくでもない様を見せつけてきたと言い表した。


 恋は盲目。


 五度目の正直、初めてまともな恋を手にしたと思ったが、


「タマはあれで、何千人もの足を引っ張り、何百人もの人生を狂わせ」


 結局、今までとは変わらない。


「人を死に追い込んでおいて、ざまぁ見やがれって笑っているような男なのよ」


 偏執的なまでの贔屓目は、真実を真実のまま見られていなかったと知らされたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
i000000



『センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?』書籍版、発売中!
i000000
― 新着の感想 ―
うんそいつはマジでろくでもねーの間違いない あれとくっつこうものならろくでもないことになるの間違いなし まあそんなん知らねとばかりに同居しちゃってるマジやべー子いるけど…
[一言] 最高
[一言] これのためになろう登録した
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ