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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
盲目性偏執狂ノ傾慕

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 椛と楓ちゃん。


 タマさんは二人の関係性、その問題点をズバリと与えてくれた。


 どうやら見抜いたというよりは、知り合いの知り合いの知り合いの親戚に、似たような話があり、それでピンときたようである。


 小学生のときからずっと引きこもっていた女の子。親戚に預けられると、たった半年で自らの意志を口に出し、自然に喋られるようになったようだ。学校にこそ行けていないが、家事の一切を取り仕切るまでに成長し、今やその家は彼女なしでは成り立たないようである。


 なぜ彼女がそこまで成長できたのか。実に興味深い話だった。


 楓ちゃんが学校に通えているのなら、必要ない話かもしれない。それでも聞かずにはいられなかった。


 その話は、椛に必要なときがくるかもしれないと。 


 そしてそのときは、やはり訪れてしまった。


「大事なのはね、楓ちゃんが戻ってきたとき、椛がどう接するか」


 かつてのタマさんのように、椛の両頬を掴まえ、こちらを無理やり向かせた。


「さあ、貴女の気持ちを聞かせて?」


「え?」


 生真面目なわたしの顔に、椛はただ狼狽える。


「椛が今までやってきたのは、ただのこれ。こんなことをされたら、楓ちゃんだって言いたいことも言えないでしょ?」


「あ……」


 かつてのわたしのように、椛は自らしてきたことの意味を知った。


 椛を開放しながら、わたしは続けた。


「楓ちゃんはさ、喋る行為そのものが苦手なだけなんだよ。ほら、教室にいけなくなった理由が、あれじゃない」


 何ヶ月もまともに会話をしなかったせいで、吃った言葉を発してしまった。それをクラスの男の子にからかわれた。


 お母さんを亡くして塞ぎ込み、それでも乗り越えんとした矢先でそれだ。喋ること自体が嫌になってもおかしくない。そして家族とも満足に会話をしないのだから、声帯は衰える一方だ。いざ声を出そうにも、満足に動かせない。


 そうやって肉体的にも精神的にも、会話をする能力を失っているのだ。


「上手く喋れないから、伝えたいことが伝わらない。それがわかってるから、楓ちゃんは始めから話し合うのを諦めてたのよ」


「なら、交換日記でもしたらよかったのかしら?」


 椛はしかつめらしい声色で言った。冗談ではなく、本当にそうするべきだったかもしれないと考えているのだろう。


 同じ過ちを繰り返したくない。その強い意思がそこには感じられた。 


「文字という点はいいかもだけど、ちょっと古風すぎ。楓ちゃんはパソコンが得意なんでしょ? なら楓ちゃんの伝えたいことは、スマホで受け取ればいいんじゃない」


「スマホで?」


「椛が喋る近くで、楓ちゃんはキーボードをカタカタ叩くの。もしかしたら通知が鳴り止まないくらいに、次から次へと意思を叩きつけてくるかもよ」


「なんか、凄いシュールな光景ね」


「スタートは扉越しから。そこからなんとか、一言二言の返事くらいは、声に出して貰えるようにすることね」


「それはまた……腰を据えた長期戦になりそうだわ」


「必要なのは、将来を見据えた優しさだけじゃない。目の前の階段を一段一段、手を取って登らせてあげる甘さ。それで一年後に間に合わなくても、二年後のためになるかもしれない。小学校から変わらなかった人が、半年で大きく変わるかもしれない」


 タマさんの知り合いの知り合いの知り合いの親戚の子は、どうやらそれで大きく成長したらしい。楓ちゃんほどの神童なら、成長する環境さえ与えればいくらでも伸びるだろう。


「楓ちゃんを大学に行かせるにしても、現役合格に拘る必要なんてある? その前に社交性を身につけるのに、時間を与えてあげてもいいんじゃないかな」


 警察や政治家の官僚を目指してるのならともかく、一年や二年くらいの遅れ、大学では珍しくもなんともない。


 大学はあくまで、これからの人生の通過点。学んだ先で、見識や交友関係などを広げ、次のステージへ向かう準備を整える期間にすぎない。学力以上に、その整える能力こそがなによりも大事なのだ。


 そしてそれは、これからの人生を生きていく上で、一生必要とする能力である。学力だけは足りているからと進む前に、まずはその能力をじっくり育てることこそが、これからの十年、二十年後のためになる。


 かといって、今この瞬間の一年、二年もまた軽いものではない。当人だけではなく、その介助者の時間を奪うことになるのだ。


 巻き込まれただけの人災なら放っておきたい。法が許すならそれこそ火元を直接絶ちたいだろう案件だ。


 けれど、


「だって椛は、将来の自分のためになんとかしたいんじゃない。自分で立てるようになることが、一番楓ちゃんのためになる。そう思っているから、なんとかしてあげたいんでしょう?」


「ええ。あんな生活は、いつまでも父さん(あのひと)が許すわけがないもの。楓にはなんとかして、自分で立てるようになって貰わないといけなかった」


 それは違うと椛は大きく首を振った。


 今回、楓ちゃんを追い詰めた強硬策。それに準ずるものがいつ起きてもおかしくないと、椛自身が一番わかっていた。だから楓ちゃんには、再び社会(がっこう)へ戻って貰わなければならなかった。


「色々と世話を焼いて優しくしてきたつもりだったけど……全部、独りよがりだったようね」


 自らの過ちを椛は自虐的に笑う。


 楓ちゃんとの意思疎通の図り方を間違えたものだから、上手くいかなかった。なにを間違えているのかもわからない。そんな状態だったのだ。


「まずはちゃんと楓と話し合えるようになる。それが当面の、私の目標ね」


 自身に言い聞かせるように椛は言った。


 わたしは思った。椛に一番足らなかったのは、融通ではないかと。人に対してではない。自らの生き方に対してだ。


 人間は自らの価値観と、知識だけでしか物事を測れないし、その範疇から逸する物を生み出せない。


 社会のレールを一度も外れることなく、背くこともなく、椛はその上を走り続けてきた。だからその手には、楓ちゃんを部屋から引っ張り出す術が備わらなかったのだ。


 なにが間違えていたのか知った今の椛なら、もうその心配はないだろう。なにせ人に見られないところ以外は、完璧人間な才媛だ。同じ過ちはもう繰り返さない。今度こそ正しい形で楓ちゃんを導くことができるだろう。


「まどか」


 けれど、その導く相手は行方不明。


 問題点がわかったところで、問題はいずれとして解決していない。


「ありがとう。あんたがいてくれてよかったわ」


 それでも椛は、一つの山場を乗り越えたように笑いかけてくれたのだ。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
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― 新着の感想 ―
なにが問題って、楓が未来をもうすでに諦めてるところなんだよね 現代社会という名の楓にとって眩しすぎる光で生きることを恐れて逃げている だから、まずはそれを聞けないとどーにもならん 寄り添うにしても、導…
[一言] しかしいざ連絡取れて、やり取りできるようになったところで出てくるのはレナファルトである。ネットの荒波に晒されてたくましく生き延びた猛者である。純粋培養お嬢様である椛さんがはたして相手になるの…
[一言] けど、楓ちゃんみたいな子って、何かしらの感情が爆発した時って普段しゃべらないのが不思議なぐらいしゃべるんだよね。 ベッドの上で愛が大爆発したらずっと「ちゅきちゅき」言いまくるとか(体験談)
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