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落ち葉に隠されたひみつ

登場人物

わたし(幼少期)ゆずちゃん(幼少期)

私(紗香) 羽田猫子(友人) 天王戦乙女(風紀委員)

 神社の鳥居に黄金色の落ち葉が落ちていくところでした。木漏れ日が差した陽だまりをつくるキラキラの、苔むした階段をのぼろうとすると、彼女はわたしをおいてさっさと上りだしてしまうので、なんとなく嬉しいような悲しいような、そんな気持ちに駆られる気がして階段の上を仰いで「まってー」と叫ぶのでした。

 彼女は振り返って白い歯を見せて笑っていました。肌も顔も本当に絹のような白さだと思います。髪の毛は陽だまりにとけるような金色でとても輝いて見えるのです。

 やっとの思いでたどり着くと彼女は涼しげな表情で「おっそーい」と言うのでわたしは本当に体力がないのだと思うのでした。

 何かと弱いわたしを見かねたのか茶目っ気にあふれた様子で彼女はこう言うのです。

「ねえ、さやかちゃん、やすむ? それともあそぶ?」

 ええ、やすむ、もちろんです。これ以上うごいたら息が続かないですし、せんべいみたいに干からびてしまいます。わたしは額の汗をぬぐいながらお賽銭箱に向かって歩こうとする彼女の背中に向かって言いました。

「ゆずちゃん、からだつよいね」

「さやちゃんが弱いんだよー」

 にべもないことを言うゆずちゃんだったので少しほっぺを膨らませて怒ったふりをすると、つかつかとわたしの方へ歩いてきてくすぐったそうな笑みを浮かべて、何を思ったのでしょうか、くちびるに指をあてて「しー」と言うのです。

 するとおおげさに手を叩いて赤い箱をわたしに差し出すのでした。

「たんじょうびおめでと! ぱちぱちぱち!」

 ああ、そうでした。わたしの誕生日でした。気後れしながら箱を受けとって「あけていいの?」とたずねるとゆずちゃんは「もちろん、はやくはやく」と急かすので、箱を開けるとそこにはかわいいうさぎ柄の口紅があって、わたしは今にも飛びあがりそうな勢いでゆずちゃんに抱き着くしかありません。本当にに嬉しかったのです。

「さやかちゃ、おもいーー」

 気がつくとわたしはゆずちゃんを押したおしてしまっているのでした。わたしとゆずちゃんは少しくすぐりあいをしておたがいけらけらと笑うまま、いつまでも時間が過ぎていきました。楽しい時間でしたのに突然くすぐるのをやめた彼女が悲しそうな表情を浮かべるのです。

 さら、さら、枯れ葉がゆずちゃんの顔に落ちていくと、彼女は少し涙を浮かべて言いました。

「わたし、転校しないと」

 その言葉はとても重いもののように思えました。転校だなんて思いもよらない言葉にわたしも泣きそうになるのです。

「ねえ、さやかちゃん、わたしのヒミツ知りたい?」

 その謎めいた言葉をいうゆずちゃんの目はきれいにうるんでいました。

「ほんとうはね、わたしは――」


 男なんだ。

 そこで日記は終わっていた。

 鉛筆で綴られていた小学校の思い出はそこで途切れていた。私はなんとなくその日を思い出そうとするがゆずちゃんはいつまでもかわいくて、綺麗で陽だまりの中でほんわかキラキラ輝いているような。懐かしいな、ゆずちゃんはいつも体育強かったし、勉強もできたし、たしかに男っぽいところはあったけれどいつも明るいから人気者だったし、そんな彼女が私の友達だったからいつも嬉しかったように思う。

 そんなことを半ばひとり微笑ましく思い出に浸っていると「紗香にゃ、見て見て」と猫みたいな声が図書室にひと鳴きするので頬杖をついた長机から顔をあげる。そこには満面の笑みを浮かべて、図書室の引き戸を開けて顔をのぞかせている友人がいた。しなやかな身動きで手を振っていた。何とも嬉しそうというか勝ち誇った勝利の女神のような表情なので、何ごとだろう、日記を閉じて扉まで行くと、ばっと私の前に紙が突き出される。どれどれ、拝借と指でつまんでまじまじとそれに見入ってしまう。

 はてさて名前は見た通り羽田猫子はねだねここなのだけれども、吾輩は猫である、と言いたげに胸を張って見せてくれたのは、模試の結果だった。

「どや! レベルアップしたにゃろ」

 胸を張っている猫子の瞳は何故か不思議な瞳で、左右の色がルビーとサファイアのような、お人形さんに宝石箱に添えたような。そんなきらびやかさがあるのだけれども、その目に向かって私は言うほかない。

「さすがだね! ねこちゃん」

 オッドアイをみるみる輝かせて首丈まで抱きついてくるものだから、ほんとうに甘えん坊で、なんだか私の方が飼い主さんになったんじゃないかという気分になってしまう。やっとのことで猫子の抱擁から解放された私はその小さな背格好の彼女にどんな力が宿っているのだろう。今一度まじまじと見ると「恥ずかしいにゃ」と言うから可愛らしい。でも可愛らしいだけではなくて、その努力の結果は何物にも代えがたいも賜物で、だからこそ友人として誇らしい。そこまで考えて私は閃いてしまう。

「ケーキでも食べようよ。お祝いに」

 彼女は私の身長すら超えそうな勢いでジャンプして、両手万歳でやっぱり抱きついてくるから何だか懐かしいような気持に駆られてしまう。ゆずちゃんにこうして抱きついていたな、そういえば彼女はいつもゆずという名に相応しいいい香りがしたな、とまた思い出の方彼方へ私は飛んでいくような錯覚を覚えていたのもつかの間、猫子に押し倒されてしまっていた。

 どうにもこの子は本当に嬉しさを体で表現しないと気が済まない性格らしい「紗香ぁ、おごってー」と言うからには現金でもあるけれど。

 そうやってしばらく猫子に頼み倒されて仰向けになっていると、威風堂々とした影が差したのも気のせいではくて、丁度仰向けになった私の目と鼻の先に黒いハイソックスとローファーがすっと下ろされてまるで今から敵将の首でも落とさんばかりの勢いがあるし、足から伸びる姿はさきほど鬼の首でもとってきたかのような勇ましさで満ち溢れている。ややもあってから厳しい口調で私たちをとがめる。

「女子生徒同士たるもの、節操をもて。公然の場で何しているのだ」

 凛と佇む風紀委員長の天王先輩がいた。私は生唾を飲んでしまうのだけれども、猫子はそれをやめないものだから私のせいだと思われたのかもしれない。いつの間にか風紀委員長が私の顔に青みがかった黒い髪の毛を垂らして、屈んでいるのだった。天王戦乙女てんのうせのとめ先輩はやっぱり何というか険しい表情だけど、目鼻立ちは整っているし唇は桃色で、目見麗しく風紀委員長の肩書さえなければ、羨望の視線すら浴びたのではないかとさえ思えるのに何だかもったいない役回りをさせられているように感じて、私は彼女のことをそれほど嫌いになれないのであった。しかし、天網恢恢疎てんもうかいかいにして漏らさずという言葉通り、天王先輩は今をもって悪を見つけ、どうやら私たちは網にかかったようで次は俎上そじょうの鯉のようだった。

「貴様ら、けしからんぞ」

 私の鼻につんと指を指している。

 はっと思って私でさえ頬が熱くなってしまう。それを悟られまいと「ごめんなさい」というだけなのに、猫子は何を思ったのか「女子同士のどこがけしからんのですにゃ」と馬鹿も通り越して天才的正直に言い当ててしまい一瞬間が空いてしまう。

「け、けしからんものはけしからんのだ」

 そっぽを向いて、堂々たる戦乙女先輩が廊下の奥へと消えていく。どうやら猫子は爪楊枝一つで鬼の方ではなく桃太郎を倒してしまったようだ。私たちの滑稽なやりとりにもやっぱり終わりは訪れる。

 お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったのだった。


キマシタワー

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