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 俺はその日、「戦場」のど真ん中に立っていた。










=教室戦争 Ⅰ=










「やっと着いたか…ねむ…」



 札幌から新幹線で何時間かかっただろうか。

 多少の疲労感と共にこのでかい車体が止まるのを感じた俺は自分の上半身と同等の大きさぐらいの荷物を抱え、東京の地に足をつけた。

 やはり札幌の駅よりでかい。気がする。

 いやでかいな。まだホームしか見えてないからなんとも言えんが。



「やっぱ飛行機にしときゃよかったかな…」



 小さい頃(4歳くらいだったか。妹がまだ2歳だったとき)に親との家族旅行で初めて飛行機に乗り、あまりの耳の痛さに13年経った今でもトラウマものだったので、今回の父さんの転勤による札幌~東京間の移動も家族の中で俺だけは新幹線をセレクトした訳だが。


 …いや、もう着いたし過ぎたことは気にしないのが一番だって誰か言ってたな。うん。



「えっと次は…」



 とりあえず通過点である東京に着いたはいいが父さんの転勤先は神奈川。

 4歳以降北海道から出たことがなかった俺なので、



「…川崎行きの切符はどれを買えば」



 初歩の段階でつまずいていた。


 いや待て落ち着け俺大丈夫だ道産子といえども札幌生まれ札幌育ちだ何年間札幌に住んでいたと思っている路線図くらいそれなりに詳しい筈。はず。

 それに考えてもみろよ見た目的にも年齢的にもでかい荷物を持っていることも全てふまえて周りの何も事情を知らない一般ピーポーからしたら俺は上京したての高校生っぽいじゃないか。そんな見た目の奴が「すいませーんどの切符買えばいいんですかー」なんて聞くのはあまりにも恥ずかしすぎるいやお前等がどう考えていようと少なくとも俺は 恥 ず か し い。

 どうしたものか。


 俺は駅の中にあるファミマにてジャンプを立ち読み(するふりを)しながら一人脳内戦争をおこしていた。

 するとその時。



「あれ?らぎじゃない?」



 俺の後方左側から突然聞き慣れない声で名前を呼ばれた。気がした。

 しかし俺は「らぎ」なんという痛々しいあだ名を持った覚えはないのだがと考えたところでそうういえば数年前そう呼んでいた奴が約一名いたなと考え

 とりあえず後ろを振り向いてみる



「……………………どなたですか」



 知らない人だった。

 正確に言えば見覚えのない人だった。



「?君、霧ヶ崎くんじゃないの?霧ヶ崎柊君でしょ?」



 確かに親から授かった一生付き合ってかなければならない相手一号はそれで合っているが話しがかみ合っていない



「だから俺はあんたが誰だって聞いて「やっぱらぎじゃんなんだ」



 人の話を遮るな



「あたしの事忘れちゃった?咲晴だって、五月咲晴。」



 ……………さつきさくは…………?



「……!…もしかしてさくはか…?小六の時転校した、…五月…?」

「だからそう言ってんじゃん。まじで忘れられてたか」



 いや、忘れてたわけでは…





―五月咲晴。

 札幌南区のマンションに住んでいた霧ヶ崎家の隣に引っ越してきた家族の一人娘で所謂俺の幼馴染みに該当する人物である。

 2歳下の俺の妹とも仲が良く、放課後や休日は俺、妹、咲晴の三人で遊ぶことが多かったように思う。

当時の咲晴の髪型といえば、肩にかかるかかからないかくらいのベリーショートで、顔つきも性格も俺より男らしかったという記憶が残っている。



But現在。





「お前……髪のびたな…」



 咲晴の髪は腰までのびており、側頭部で直径約10センチ程のリボンで結ってあった。

おいおいイメチェン成功しすぎだろ。渋谷でもあるいていれば20歩ごとくらいにどっかのモデル事務所にスカウトされてるんじゃないかこいつ。



「そう?…あぁ、もう君と会わなくなってから五年も経ってるんだから、そりゃ髪ものびたくなるって」

「髪が意志を持ったのかというつっこみはおいといて、何故お前はここにいる?今日は日曜だし通学ってわけでもないだろ?」



 服装からしてこのカジュアルな服が制服でないかぎりこれから学校ということはないだろう。



「え、だって昨日東京来るって言ってたじゃん。お迎えよお迎え」



 なんと。

 知らぬ間に俺はこの幼馴染みに東京行きの事実を告げていたらしい。



「…ちょっと待て。五年間声すら聞いていないような奴にどうやって言えると…」

「だから、昨日チャットで言ってたでしょって」

「チャットだと?」



 札幌で通っていた高校に小学校からの知り合いはいない。つまり奴にこのことを告げられる奴はいない。

 こいつと文通でもしていたかと思ったがそんな心当たりもない。妹にもそんなそぶりは見られなかった。

 そうなるとチャットしかあり得ないことは確かなのだが、最近顔をだしているチャット相手に女はいなかったように思える。



「でしょうね。あたし男のふりしてたし」

「なんの為に…」

「男のほうが色々と便利なのよ。変な奴に絡まれることもないし」

「HNは?」

「紅竜」



 あの厨二臭かった人か。お前だったんだな。

 ていうかあの名前こうりょうって読むのか。中国人みたいな名前ですね。



「細かいことはいいじゃん。なんだっけ、高校あたしと同じとこだよね?家も川崎?」

「あ、おう」

「切符は?もう買った?」



まだで悪かったな



「怒るなって。じゃああそこの券売機で買ってきなよ。どうせいらない羞恥心で人にも聞けなかったんでしょ?」



うるせえ










 という課程を経て現在自宅周辺。




「ん?」

「あ?」


 

 目の前にはただの一戸建て。

 その左隣には立派な一戸建て。

 そして咲晴はただの一戸建ての左隣を指さして



「あたしんちここなんだ。また隣じゃん」



 笑いながら上京したての高校生みたいな奴に向かってそう言った。

 ていうか俺に言った。

 何故だ数年前は同じマンションに住んでいただろ格差社会か。



「お母さんがデザイナーやってるのは知ってるよね?…二年くらい前にちょっと成功したらしくてさ。まぁあたしには関係ないんだけど」



 関係大ありだろ。資本主義社会に感謝しろちくしょうめ。

 東京で一戸建てを買えたってだけで俺の家だってかなりの金持ちだと思ったのだが甘かった。上には上がいるもんなんだと思い知った17の春である。



「…うん、とりあえずその荷物置いて、今日はもう引っ越しの片付けに徹したら?明日から学校来れるんだよね?」

「あぁ。というか、父さんから行けとの指令がでているんだ」

「…そっか」



 そう言って咲晴は自らの衣食住の場を見つめながら、晴れ渡る空の下の桜の様な顔で笑った。

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