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IronShell 白き灰のアイリス —自衛隊×AI×メカオタク。人類の反撃は一滴の洗剤から始まった—  作者: 須田唯屋
偵察 編

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016 弔い

 八代と楓(かえで)は、それぞれが専用の機体に乗り込み、大破した3番機を搬出していた。

鋼鉄の巨体が指揮車両後部のコンテナの両脇に立ち、主を失い動かなくなった3番機を抱え上げる。


 抱え上げられた3番機は、胸部から頭部にかけて欠損している。

喪ったパイロットを抱えだす為に胸部装甲を強制的にパージした為である。


 右腕のマニュピレータは歪(ゆが)み、左腕は肘から先がちぎれ、内部のアクチュエーターが露出している。

 右足の装甲は剥(は)がれ落ち、内部のシリンダーがむき出しになっていた。まともに残っている左脚ですら、激しい衝撃を物語るように傷だらけだった。


 ふたりは動かなくなった3番機を、架台から持ち上げた。

3番機の背面を掴(つか)んで起こし、そのまま上半身のフレームを支えて抱え上げると、両腕、両脚が力なくだらりとぶら下がった。

二人はそのまま両脇から肩を貸すように3番機を抱きかかえると、架台から下ろして隣のアスファルトの上へゆっくりと横たえた。

二人からすれば、横たわる3番機は巨大なモニュメントのようにも見えた。

戦って散った仲間の鎮魂の彫像として。


 架台には、まだもうひとつ荷があった。

殉職した笹木(ささき)の亡骸を収めたボディバッグ。

そして楓(かえで)や葉月の耳に、いつになく厳かな口調の八代の命令(こえ)が届く。

『01より全隊、これより03の埋葬を行う。全員下車して集合』


——倉庫会社の裏に、小さな墓所があった。

 江戸時代末期にこの地で疫病から農民の命を救うために奔走した医者を祀(まつ)った墓所であるという碑文が置かれ、自然のままに遺された墓所だった。


 先ほどの戦闘の際、楓がカイに案内されて倉庫会社裏手から水田へ向かう途中で見かけた場所だった。


 墓所と畦(あぜ)の間の、埋葬できそうな場所を見つけると、3人は円匙《えんぴ》でがむしゃらに土を掘り返した。訓練で鍛え上げられた彼らにとっては、それほど重労働ではない筈(はず)だが、円匙(えんぴ)を地面に突き立てて掘り返す動きは精彩に欠け、掘り返す土の音だけが響き、ただ時間が静かに流れていく。


 ようやく胸の高さまで掘り終えた3人は、仲間の亡骸をゆっくりと横たえた。


 代表して八代が中に降りて、ボディバッグを開けた。

生気を失った仲間の安らかな顔を眺めてもなお、現実を受け止めきれずにいる。


 墓の傍で、楓は両膝をつき、俯(うつむ)いて肩を震わせた。

葉月は歯を食いしばり、色を失った笹木(ささき)の顔をじっと見つめた。


「啓介、俺より先に昇任すんなや。ずるいだろが、よぉ」

八代は遺体の頬(ほお)をそっと叩(はた)き、涙を堪えた。


 暑苦しい奴だったが、ムードメーカーだった。

考えてみると、入隊してから無駄に付き合いの長い奴だった。


 八代は手を合わせ、短く黙祷(もくとう)を捧(ささ)げた。

「じゃあな、また呑(の)もうや」

八代は、戦友に最後の別れの言葉伝えた。


——笹木を埋葬し終えた頃に、民間人5名が墓標を訪れた。

 女将さんは枕飯を載せた盆、紗綾(さあや)、アキラは植え込みの花壇から集めて作った花束を抱え、徳川と上田がミネラルウォーターのペットボトルと缶ビールのパックを携えてやって来た。


「ご苦労様でした。本当にありがとうございました。お線香あげられんでごめんね」

女将さんは震える声で語りかけ、墓標代わりに突き立てた彼の小銃の前に両膝をついた。

そして茶碗(ちゃわん)に山盛りのご飯、一組の箸を垂直に立てた枕飯の載ったお盆を起いて、そっと手を合わせた。

 女将さんは振り向き、後に立つ徳川から缶ビールを受け取ってプルタブを開けた。飲み口から炭酸の小気味よい音が漏れ、白い泡が溢(あふ)れ出す。

「ビール好きじゃったろ?徳川さんたちに頼んで探してもろうたんよ、ゆっくり呑(の)んできいね」

そう言って、缶ビールをそっと墓標に備え、手を合わせた。


 紗綾(さあや)に支えられたアキラが、女将さんの隣にしゃがみ、花束を供えた。

アキラはぼろぼろと大粒の涙を流しながら、声をあげて泣き崩れた。

紗綾はアキラの両肩をやさしく抱いて、泣き崩れる小さな身体を支えた。


「あーちゃん、ありがとうっていわんとね」

女将さんも涙声でアキラの背をさすりながら声をかけた。


「ありがとう・・ごめんなさい」

手を合わせ祈る紗綾に倣って、アキラは嗚咽(おえつ)を漏らしながら震える手を合わせた。


 アキラにとって、彼に助けられて今ここにいるという現実は、11歳の子供には重すぎた。

それでも、最後にお礼を言いたいと言ったのはアキラだった。


「あきらくん、お礼いえたね。偉いよ。もういいから、そろそろ中に戻ろうね」

紗綾に支えられて、二人はとぼとぼと来た道を戻って行った。


 二人に代わり、徳川と上田も墓標の前でしゃがみ、手を合わせた。

ひとしきり祈りを捧(ささ)げた後、3人はゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げた。


 八代は、号令をかけた。

「全隊、整列!」

「戦友であった笹木啓介少尉へ、哀悼の意を表し、敬礼!」

(じゃあな、笹木)

八代たち3名の隊員は、敬礼し静かに黙とうを捧げた。

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