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IronShell 白き灰のアイリス —自衛隊×AI×メカオタク。人類の反撃は一滴の洗剤から始まった—  作者: 須田唯屋
物流倉庫(遭遇)編

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009 意外な戦果

 先行していた仙川の偵察車両(ビークル)は急転回(ドリフト)しながら横道に入り、車1台がやっと通れるような狭い畦道(あぜみち)に滑り込んだ。


畦道(あぜみち)は、水田の真ん中で倉庫方面まで続いている。

仙川からの応答は無いが、狭すぎる畦道にビビりながら涙目で運転しているに違いない。


遅れて、八代の1番機が続く。

脚の遅い2足歩行型ではそのままでは追いつかれてしまう。

スモークを追加発射して攪乱(かくらん)し、なんとか足止めに成功した。

畦道の先には、倉庫を背にライフルを構える楓(かえで)の2番機が待っている。


舗装もされていない狭い畦道では1番機の重量は支えきれない。

大きな足跡が畦(あぜ)を踏み潰し、水田用の水路を壊して水飛沫(しぶき)を上げていく。

脚を取られそうになりながら、八代の1番機はどうにかバランスを取って駆け続ける。


(この田んぼの農家さん、大事な田んぼ潰して本当に申し訳ない・・・)

八代の祖父が農家で、田んぼや畑をどれだけ大事にしていたか、ふいに思い出していた。


スモークグレネードの白煙に包まれ、ラプトルは一瞬目標を見失ったかに見えた。

が、すぐにその細長い体躯(たいく)を翻し、水田のそばの民家をなぎ倒しながら八代達に迫る。


しかし、ラプトルは水田の状態など知る由もなく、まっすぐ田んぼの中に勢いよく飛び込んだ。

途端に泥濘《ぬかるみ》に足を取られて動きが鈍化していく・・・

それでも、水田の中を前に進もうと必死でもがく。


 その様子を見た楓(かえで)がすかさずラプトルをレーザーロックし、指揮車両《キャリア》の葉月に指示を出す。

「02より05、目標ロック完了。支援攻撃用意!使命!」


一瞬の空白の後、葉月の返答が返る。

『05より02、準備OKィ!』


「撃てーッ」


 楓の合図で、倉庫敷地内に待機していた指揮車両から、上空へ向けて多連装小型ミサイルが飛び出していく。


 ミサイルは短い上昇のあと、ゆるやかな放物線を描きながら目標であるラプトルへ着弾したが、やはり白い結晶のような障壁に阻まれ、弾かれる。


弾かれたミサイル群は田んぼの中に突っ込み、目標の周囲で連鎖爆発した。

爆発の勢いで、水田が大きな水飛沫(みずしぶき)を上げ、沢山の稲穂が宙を舞い、舞い上がった土壌が目標に降り注いだ。


さらに楓の2番機が50ミリライフルを目標に向けて発射する。

弾丸はまっすぐラプトルの身体に命中するも、白い結晶に阻まれて跳弾した。


仙川は楓の待つ畦道の端まで辿(たど)り着くと、楓やカイたちを避けてラプトルと距離をとり停車した。

遅れて八代も辿(たど)り着き、1番機の巨体を翻し50ミリライフルをラプトルに向けた。


 一方、ラプトルも思うように動けないでいる。

進もうとするたびに、両脚はさらに泥濘(ぬかるみ)に沈み込む。

長い尾を何度も泥濘(ぬかるみ)に叩(たた)きつけ、前へ進もうとするが完全に後脚は泥濘にはまり、じたばたともがき続けている。


前脚の肩の突起から反撃の棘(とげ)を発射するが狙いが定まらず、中空や泥濘の中へと定まらぬ方向へ飛んでいく。


ついには前脚も完全に泥濘に沈み込み、長い体躯(たいく)の半分が泥濘にはまり、全身がほぼ泥にまみれた。


泥にまみれた身体のあちこちで、バチバチと白い結晶が弾けている。

それでもなお、細長い体躯をくねらせもがき続ける。


 八代は、泥だらけの鈍く赤く光る頭部に狙いを定めてライフルを発射した。

バチン!と音を立ててまとわりついていた泥がはじけ飛び、破片が飛び散った。


『あれ?・・・いま当たらんかった?』

楓が驚いて声を上げた。


「・・・当たったな」

撃った当人の八代も、驚いている。


 ラプトルは尚も泥の中でもがいている。

バチバチと弾けていた白い結晶は、泥にまみれ、やがて見えなくなった。


「ウェポンズ・フリー!撃て撃て撃て!」

八代の号令が飛び、1番機、2番機がライフルを連続発射した。

泥だらけの目標に、次々と弾痕がついて泥と破片が飛び散っていく。


 少し遅れて、葉月の乗る指揮車から発射されたミサイルが着弾し、爆発と共に大きく破片が飛び散った。

爆散した破片や撒(ま)き上げられた泥が、ぼたぼたと音を立てて水田の中へ落ちて行った。


「撃ち方、やめ!」

八代は号令を出して、目標を観察した。


 広い青々とした水田の中に、爆発でぽっかりと大きくえぐれた穴が出来た。

まだ黒煙が燻(くすぶ)るその中心では、原型を失った残骸が泥濘の中に散らばっていた。


『当たったな、なんで?泥のせい?』

楓は目の前の結果を信じられないでいるようだ。


「もともと泥ハメして動けなくするだけだったんだろ?」


『せや、あのサクラってコがこの時期の田んぼなら足止めできるってゆーてきてん』


 「なるほどな・・・」

八代は意外な結果に考えを巡らせていた。


 これまで、あの未確認物体(アンノウン)はどんな攻撃も効果がなかった。

現に先ほど道路で射撃したときも、白い結晶に弾かれて傷ひとつ付けられなかった。

それが水田にハメた途端、攻撃が当たるようになった。


「やっぱ、泥か?」


『雨降ったら止まるし、泥かぶったら弾当たるねんて、なんなんやろな、隊長』

楓も半ば呆(あき)れるようにぼやいた。


「まあいい。状況終了。引き続き警戒を厳とし、一旦倉庫前まで撤退するぞ」

残骸を回収して調査すべきだろうが、まずは民間人の安全確保が先だ。

八代は視線の先の残骸を静かに見つめていた。

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