第五話
(今日、やめとけばよかったかもな……)
今日の気温は10度以下。屋上はいつもより風が冷たい。
「じゃあ、今日もコーラ頼むで」
「今日くらい温かいのにしません?」
「ええやん、いつも通りで。めんどくさいし」
先輩はコンクリートに寝転がったまま、目を細めて言う。
(俺は……あったかいコーンポタージュにしようかな)
自販機で買ってきたものを渡すと、先輩はコーラを受け取り、一口飲んで小さく息を吐いた。
「寒っ……ちょっと交換せえへん?」
「だから言ったじゃないですか」
俺が持っていた温かいコンポタを渡すと、先輩は満足げに受け取り、代わりに冷えたコーラを押し付けてきた。
「僕も手が冷たくなってきました……」
「じゃあ、手ぇ出してみ?」
そう言われて、ためらいながら手を差し出す。
「こうすれば、ちょっとマシやろ」
先輩の指が不意に触れた。
冷たいはずの指先なのに、なぜか一瞬だけ熱が伝わってくるみたいで、胸が大きく跳ねた。
「……冷た」
「先輩の方が冷たいじゃないですか」
「あ、バレた? はぁ……めんどくさいけど、こういうんがええんよ」
先輩は目を閉じたまま、ぼそりと続ける。
「ウチもあと少しで三年か……早いもんやな」
「先輩がいなくなるのは、想像できませんね」
屋上が、先輩がいなくなる屋上が、急に色褪せて見えた気がした。
「なんや急に。愛の告白か?」
「そんなんじゃないですよ」
少し頬が熱くなるのを、冷たい風で誤魔化す。
「こんな気だるいイイ女、なかなかおらへんで?」
「……そうですね」
「やっぱりなんか変やな。後輩くん、女タラシになってしもうた!?」
「そんなわけないじゃないですか」
先輩は小さく笑って、コンポタの容器を両手で包むように持った。
「そやったわ。後輩くんは友達、一人しかおらんのやったな」
「え?」
「あ、ウチやろ? その一人」
「あ……そういうことですか」
「否定せえへんかったってことは、ぼっち確定やな?」
「……ッ!?」
予想もしない角度から刺されて、言葉に詰まる。
「図星やろ? ウチは悲しいわ、後輩がぼっちなんて……」
「うるさいですよ? そろそろ本気で帰りますよ?」
先輩はあっけらかんとした顔で、
「なんや、冗談やん。はぁ……ウチがいるんやから、ええ やろ」
そう言って、冷たい風が吹く中、ゆっくり体を起こした。
透き通る冬の空の下、俺は小さく息を吐く。
(……これからも、よろしく頼みます)
少しだけ、心が温かくなった気がした。
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