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防御魔術は三枚まで

 ひとつ目の浮島、バーンラヴァ・アイル。


 この浮島はどこからどう見ても、島が丸ごと燃えているようにしか見えない。


 訳がわからないのだが、実際に丸ごと燃えてる。


 なので俺が飛び降りた先ももちろん、真っ赤な炎のド真ん中だ。


「っふ!」


 着地は燃える草木をクッションに。

 ごろごろ転がり着地する。


 炎が薄いところを狙って落ちたが、いざ島に降り立つと非常に暑い。


 滝のように噴き出した汗を拭う。


「グラフォを連れて来なくて正解だったな」


 冷却魔術付き外套をきっちり着込んでてこれとは……のんびりしてたら俺が外套ごと燃える。


 立ち上がった途端、ぬるり、と全身が滑り、体勢を崩した。


「うぉっ、と……すっげぇ油の量」


 俺の臨時クッション、燃える植物イグナリーフの油だ。


 靴底、それに外套にまでベッタリ付着している。悠長にしている暇は無いのでささっと靴の裏地面で拭う。


「よっ、と。ソルの場所へ急がないと」


 俺は他の選手とは違い、一つだけ優位な点がある。


 何処にソルがあるのか知っている事だ。


 ドラゴンレースでは、各チェックポイントとなる浮島は公表されるが、ソルの場所までは選手たちが自力で見つける必要がある。


「確か……アールは火山洞窟の中、それも溶岩滝の裏のすぐって言ってたな」


 浮島の地図や周辺情報はノヴァの写真と、スワンが調べてくれた情報を叩き込んである。


 ちらほらと燃えるイグナリーフの葉が爆ぜ、火の粉が音を立てて舞い上がる。その真横で俺は地を蹴る。


 走り始めてすぐ、イグナリーフが生い茂る真ん中から、水蒸気が勢いよく吹き出す。


「おわっ、間欠泉か……っ!?」


 噴き出したその直後、弾ける音が四方八方に散らばり、いくつかが俺の頭上や背中を掠めて飛び去った。


「……っあぶな!?」


 俺の体に穴が開くところだった。


 振り返ると、本体まで燃えて黒焦げになったイグナリーフが地面に倒れていた。間欠泉の蒸気に曝された株は、皮膜のような油を完全に剥がされたらしい。


 結果、素肌をさらされたイグナリーフは子孫を残すために種が弾けたようだ。


「襲ってくるのは自然もか」


 全方向に注意を払い先へと進む。


 火と蒸気の合間をすり抜け、熱風を置き去りに走り抜ける。


 ようやく目的の場所が見えてきた。


 溶岩滝。赤黒くサラサラな溶岩が遥か上の崖から滝のように流れ落ちていた。


「あの裏かっ!」


 溶岩が大量に落ちてあちこち飛び跳ねている。

 俺は外套を体に巻き付け溶岩の飛沫を防ぎつつ、そのまま滝の裏の隙間へと突っ込む。


 滝の裏は薄暗かった。

 例の穴の位置は——少し上。


「これなら、余裕っ!」


 出っ張りだらけのゴツゴツした岩壁に脚を引っ掛け、穴の中へと飛び入る。


 俺の目に飛び込んで来たのは——。


「これがソル……」


 足元に星々のような光だ。

 ぷかぷかと幾つも浮いている。


「落下の軌道分は取れるっ……後は!」


 落ちただけでは取り切れない分は壁を蹴って回収しよう。


 体を広げて光を掴もうとした途端。


「——っ!?」


 ぞわり、と全身が警報を鳴らした。

 咄嗟に全力で防御魔術を張った瞬間、バリバリバリと、それらが割れる音がする。


「ぐっ!」


 俺は張った防御魔術の角を蹴り上げ、壁にぶら下がる。


「チッ、一枚二枚なら貫通したのに……勘のいい奴」


 女性の舌打ちが聞こえ、さらにドラゴンが毒の霧を吐くのが視界の端に見えた。


 素早く外套で顔を覆い隠して壁にしがみつく。


 しばらくして周囲を見渡すと、空っぽの空間だけがそこにあった。


 俺の三枚の防御魔術は太い針のようなものが刺さったまま、ただぽつんと存在している。


 外側の二枚分はヒビだらけだ。


 まずい事に、俺が使える魔力はもうすっからかんである。


 それよりまずい事に。


「……くそっ、全部取られた」


 初手でソル全部を奪われてしまったのだった。

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