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炎と溶岩の浮島バーンラヴァ・アイル

 空飛ぶドラゴンの上。現在、ドラゴンレース真っ只中にも関わらず、湯気が立ちのぼる紅茶をゆったり優雅に味わう若い男性がひとり居た。


「あぁ……なんて気持ち良い空なのだろう……なぁ、ハロー?」


 金糸で装飾された豪華なセダンチェアに囲まれ、彼は満足そうに目を細める。彼が呼びかけた先は、自身が乗っているフロストドラゴンだ。


 名を呼ばれたフロストドラゴン——ハローは、霜を発生させながら、背に乗る相棒へと振り返る。


「グルルル……ル……グ?」

「ピリッとしたスパイスに香ばしい香り。そして肌に触れるハローの霜……」

「グッ! グルッ!」


 彼は目を伏せ、ゆっくりとカップを傾ける。

 ふぅ、と一息つけば白い吐息が顔を伝い、後ろに流れていった。


「グッグルルル!!」

「いくら金をつぎ込んだとしても、こんな体験得られやしな……おい、騒がしいぞハロー」

「グッ! グッ、グルッ!」

「何だ。また後ろで絨毯が絡まったのか?」


 彼は苛立ちのため息と共に立ち上がり、セダンチェアのカーテンを乱暴に開く。


 そして背後の光景を目にした彼は、カップ片手に固まった。


「な…………な、ななな……」

「……これこそ、生命の神秘……ん?」


 ハローの尾の付け根のあたり。


 絨毯を弄り倒している途中の不審者——もとい金髪の青年が振り返った。


 ***


 以前読んだ論文によると、フロストドラゴンの尾の付け根は凍りつかないような特殊な仕組みがあるらしい。


 俺がフロストドラゴンの蠢く霜を観察していた時だ。ふと、人の気配を感じて振り返った。


「……ん?」


 振り返って見ると、フロストドラゴンの中央の金ぴかド派手な小屋から人が出てきていた。


 寒さ対策で厚着しているが、中身は細身で小柄な若い男だ。

 見たところ、このフロストドラゴンの相棒の選手だろう。


「あ、お邪魔してます」


 着膨れしてもこもこの彼は口を戦慄かせ、俺を凝視している。カップを持つ手は震えており、飲み物が溢れている事に気づいていない。


「おっ、おおおおおおお前っ! 誰だ!? というかハローに何してる!?」

「あ、悪い。俺が座った途端に紐が外れたんだ」


 本当にタイミングが悪かったんだ。俺がフロストドラゴンの背に乗った時、丁度俺の体のサイズが戻ったのである。そのせいで紐で留めていた絨毯がめくれてしまったのだ。


 なので外れた紐を結び直そうとして……少々苦戦していた。

 …………まぁ、なんだ。紐でくくって……フロストドラゴンの氷の皮膚を隠してしまう前に観察をと……絨毯をめくって見ていた時間が少し長かった……の、かもしれない。


 けど、ほんの少しだけなんだ。時間は見てないから俺の体感だが、きっと誤差の範囲に違いない。


 ドラゴンを知るために観察は必要だからな、うん。


「このフロストドラゴンはハローって名前なのか、良い名前だな」

「呼ぶな! とっとと出てけ! 降りろ降りろ!」


 彼はカップを空に放り投げ、短剣をがむしゃらに振り回して俺へと向かってくる。しかし足元が覚束ない上に体幹が無いのか、何度も足を滑らせそうになっている。


「待った待った! 暴れると落ちるぞ?!」

「誰のせいだと思ってい……っお前のドラゴンはどこだ」


 立っていられず四つん這いとなった彼は、苦々しい表情に変えた。


「俺にドラゴンの相棒は居ないぞ」

「嘘をつけ。ならココにどうやって乗り込んだ!?」

「そりゃもちろん、俺の相棒に乗って」


 俺は胡座の上でくつろいでいるグラフォを視線で示す。グラフォは暇そうに俺が持つ紐を突いて遊んでいた。


「…………は!?」


 グラフォを見た彼は直ぐに目を釣り上げて大声で喚き散らかす。


「舐めているのか!? そんな鳥ごときでこのバーンラヴァ・アイルを飛べるとでも思っているのか!?」


 彼が空の下を指差す。見ればそこには真っ赤に燃え盛る火の塊が近づいていた。


 あそこが、ひとつ目の浮島。

 炎と溶岩の浮島バーンラヴァ・アイル。

 遠目から見て溶岩の塊はまだ動いてない。このまま動かないでくれよ。


「俺たちはひとつ目の浮島は飛ばないんだ」

「っ、お前まさか! ハローにゴールまで乗ってようったって、そうはいか……」

「いや、俺はソルが欲しいんだ」


 俺は冷却魔術付き外套をしっかり整える。

 短かった休憩は終わりだ。


「グラフォ、ちょっと上で待機しててくれな」


 グラフォをひと撫でして空へ飛ばせる。


 フロストドラゴンのハローが振り返り、四つん這いの相棒を気にかけていた。

 なにせ、炎の島はもう目前だからな。さて。


 訳がわからないとでも言いたげな彼に告げた。


「俺は走るから——それじゃ、先に行く」


 驚きと困惑の悲鳴を背に、俺はひとつ目の浮島へと飛び降りた。

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