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パージュ・テレス

 結論から言うと、テスさんの自宅兼工房はもぬけのからだった。

 しかも、ご近所さんによるとテスさんは一週間も家に帰ってないのだという。


 俺もイースもこのまま帰る気にはならなかったのでもう少し探してみる事にしたのだ。


 他に残る心当たりといえば、レースのスタートとゴール地点付近。


「ドラゴンポート」


 目の前にはだだっ広い空間があった。

 しかしただ広い場所なんかじゃない。走り回ったら楽しそうではあるが、ここはドラゴン達が離着陸する場所、その名もドラゴンポートだ。


 簡単に言えばドラゴン達の空の港の事である。

 そして浮遊島飛行レースのスタート地点とゴール地点でもある。


 ドラゴンポートの地面には敷地いっぱいまで伸びるストライプが幾つも見える。それぞれの幅は意外と広く、その色合いで硬さが異なっている。これは色んなドラゴンが離着陸出来るように設計されているのである。


「ここでドラゴンが勢いつけて飛んだり、不安定な飛行の時は柔らかい地面に着地するんだ」

「……うん、滑走路やなぁ」


 一番柔らかいのはふさふさの芝生が生えた地面。

 地面の隣には普通の茶色い石がランダムに敷き詰められた石畳だ。

 そして石畳の隣にはグレーで分厚い謎の合金。この合金は調べても配分は不明で、表面はざらざらした質感になっている。

 そしてなんと、謎合金の隣には魔晶石が並んで敷かれている。魔晶石なんて削れる筈がないと思われていたのだが、特殊な加工技術で実現可能となったらしい。


 しかも謎合金と魔晶石にはドラゴンのデザインが彫られているらしい。いつか開放して近くで見せてくれないだろうか?

 ちなみに謎合金の方だけは、飛び立った時に出来る爪痕があるらしい。ドラゴンファンとしては傷付き謎合金を販売して欲しいところだ。


 ちなみに魔晶石はドラゴンの爪でも傷一つ付かないらしい……それを加工出来るなんて本当に凄い。


 そんな凄いものを間近で見れないので、今はフェンスに等間隔で乗っかるドラゴン像を愛でるしか出来ない。


 ……にしてもこのドラゴン像はカッコいいな。


「これ作った人に俺の家と別荘も建ててくれないかな」

「建てるなら料理店にしようや、ドラゴンは無しな」

「えー、こんなに良いドラゴン像だぞ? 門あたりでお出迎えしてくれるんだぞ? 気分が上がるだろ!?」

「魔晶石をようここまで加工出来たなぁ……えらい精巧やん。お、逆鱗まで彫られとる」

「すっっっっげぇ! 早く中入ろうぜ! 出店申請した場所はシンプルだったけどさ! こっちは中も絶対ドラゴンだぞ! きっとあちこちドラゴンだぞ! ドラゴンドラゴン!」

「……はいはい、いくわな」


 向かうのはドラゴンポートの中……ではなくその隣の建物だ。


 ドラゴンポートには大きな建物が二つ隣接している。その二つとは、世界ドラゴン保全機構の本部と浮遊都市フューシャデイジー騎士団庁舎である。


 浮遊島飛行レースの主催が世界ドラゴン保全機構なのだ。


 ここに来れば何か分かるだろう。


 段差の低くて面積の広い階段を早足で駆け上がり、エントランスに入る。


 シン、と静まり返った広い空間だった。


「は? ん? んんん? クオン様がってか?」

「先ほどからそう言ってますが? パージュ殿?」


 男性二人、妙にピリついた会話をしていた。


「? なんや?」

「……言い争い?」


 外見でも目立つ二人だった。


 パージュと呼ばれた人物は全身に鎧を着た体格の良い騎士だ。髪は短く黒い、顔は四角顔で悪い顔で笑みを浮かべている。


 もう一人、クオンと呼ばれた人物は白いシャツにベストとスラックスと綺麗めな服装の背が高い男性アンドロイドだ。天然パーマの長めの茶髪に短い顎髭で軽薄な印象だ。

 そして特徴的な点として、アンドロイドの蛇が彼の体をシュルシュルと這い回っている。蛇は騎士の男を警戒している様子だ。


 簡単にいうと、ゴツい騎士がチャラいおっさんにイチャモンをつけている。……ように見える。


「ふーん? 羽も腕もねぇ超劣化細長ドラゴンを這わせてる奴に飛行レースの設営ぃ? どうせ碌なもんが出来ねぇだろ?」

「実行委員会が声をかけたのは私ですが? 委員会の決定に何か異論でも?」

「はっ! 前見て飛べねぇ奴らの人選ってか? へーへーへぇー?」

「はっきり言ったらどうですかな? パージュ殿」

「いーや? クオン様々と志を同じにする恩方がいるなんて思いもよらなかったもので。……あー、実は来年度から蛇レースに変更する計画が立ってたりすんの?」


 パージュは手を宙でくねらせ、シュールシュルと嫌味な口ぶりでクオンを嘲笑う。


 クオンの蛇がパージュへ噛みつかんばかりに威嚇していた。


 ……。

 まずは俺たちの事情を済ませよう。


 俺とイースは静かに受付へ声をかける。


「あの、すみません。テスさんを呼んでいただけませんか? レースの設営スタッフだとおもうのですが」

「設営スタッフ、ですか」


 受付のお姉さんが言い争いをしている二人をちらりと見やった。


 嘘だろ、アレのどっちかが知ってるってか。


 ……すっげぇ行きたくねぇ。


 そんな俺の胸を内を知るはずないだろうに、何故かパージュと目がバチッと合った。


 俺にニヤリと笑いかけたのは気のせいだろう。

 パージュはクオンの肩を強く叩きデカい煽り声を耳元で発する。


「クオン様はこんな所で油売ってないで、さっさと仕事をしてはどーだねぇ? 実行委員会お墨付きなんだろ?」

「いやぁ、パージュ殿直々の"ご指摘"の方が大切でしたからな」

「「ははははは」」


 全く楽しくなさそうな笑いを二人して重ねた後、お互い冷たい目線を合わせる。

 そしてクオンは早足でエントランスを横切り外へと向かう。


 通り過ぎる時、クオンは俺たちに鋭い目を投げかけながら、首に掛かった月のネックレスを指で軽く触れた。癖なのだろうか?


 うん? 何か、月に模様が彫られている……?


 少し目を凝らす。

 逆さに咲いた薔薇と、その花弁から溶け出して羽ばたく蝶。それと、何かの動物の引っ掻き傷が三本斜めに——


 俺の思考は背後からの低い声で中断された。


「それで、俺の優勝祝い予定の酒はどこだって? 記憶喪失くん」


 見た目と発せられた単語で目の前のゴツい騎士が誰か分かった。


 勇者パーティーのひとり、竜殺しの竜騎士パージュ・テレスが面白がるような目つきを俺に向けたのだった。

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