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レースの訓練

 浮遊都市フューシャデイジー。

 なんて素晴らしいところなのだろうか。

 まるで夢の世界だ。


 転移陣のある施設から外に出ると、そこは空に浮かぶ島の上だ。


 島の中央には建物が密集している。中央に近ければ近いほど重要施設なのか、頑丈そうな造りが遠目でも見える。


 島が浮く場所は標高が高すぎるせいか、雲の隙間から覗く地上は色の変化くらいでしか判別出来ない。


 落ちないための対策は島の端には少し低めの柵があるくらい。柵の向こう側は空の下だ。


 有って無い程度の柵なのかもしれないが、それがなければ俺は即座に空の下へと真っ逆さまだ。俺は他の観戦者と同じく、柵の隙間から足を空に放り出し、頭を出して、島の外を眺めていた。


 今いるフューシャデイジーの外にも空に浮かぶ島がいくつもある。


 そして何頭ものドラゴン達が空を自由に飛び交っていた。


 レースに向けて訓練しているのだろう。


 島から島へと速さを競うドラゴンもいれば、障害物のない場所で色んな飛び方を練習しているドラゴンもいる。


 そんな中で一際目立っているドラゴンが二頭いた。

 一頭は普通のレッドドラゴンに見えるものの、大きさは段違いにデカい。

 そして動きが他のドラゴンよりも俊敏で美しい軌道を見せつけていた。


 そしてその巨大なレッドドラゴンに喰らいつくように追いかける小型の黒いドラゴンがいた。


 どうも二頭で速さを競い合っているようだ。


 近くにいる観戦者のおっちゃん達もその二頭の競い合いについて話をしている。


「あの黒チビは誰だ?」

「大きさからしてありゃクリアウィングか……いつもの粘着質野郎じゃねぇな。今年の新人じゃねぇの?」

「今年の飛行式にあんな竜騎士居たっけかなぁ……」


 クリアウィングは普通のドラゴンよりも小型のドラゴン種である。


 巨大なレッドドラゴンと小さなクリアウィングが互いに螺旋のように絡み合い、飛行している。背に乗る騎士が振り落とされかねない動きだ。


『誰だか知らねぇがっ! もっと楽しもうぜ!』

『……』


 地面に置かれたスピーカーから飛行訓練中の竜騎士の声が聞こえてくる。訓練でも本番と同じく騎士達は通信機器を使用しているらしい。


 その通信をおっちゃん達は勝手に拾ってるらしい。ファンの気合いは凄いな。俺はまだまだだ。


『消えたかっ、相棒!』


 クリアウィングが透明となり姿を消す。

 このドラゴン種は姿を透明にして狩りを行うのだ。


 クリアウィングが見えなくなった瞬間、レッドドラゴンが炎を吹いた。


 炎は何かに見えない壁に防がれ、平たく広がる。

 それを見たレッドドラゴンは飛行進路を即座に変更し、ひとつの島の森へと飛び込む。


「あの新米? 動きが良いな」

「今年、どのコースになっても上位にいけるだろう」


 確かこのドラゴンレースは運営側で毎年コースの見直しを行なっているらしいのだ。


「おっちゃん! 確か、確かさ、毎年コースが変化するんだよな!?」

「おう、兄ちゃんレース見るの初めてか? 最近は難所コースの島が少なかったから、今年は難易度高ぇのがバンバン見れるかもしれねぇぞ? ラッキーだな」


 今年は特に参加者も多いのだ。

 盛り上げるために、多い参加者をふるいにかけるために難しいコースになると予想されている。


 そのため、訓練する選手達も頻度も今年は多いのだとか。


「最高だ」


 様々なドラゴン種が飛び交う。

 なんて素晴らしい光景なんだろうか。

 俺はただ目の前の風景に魅せられていた。


 ***


 風が冷たくなってきた。

 日も沈みかけているから、というのもあるだろう。


 一緒に観戦していたおっちゃん達は、かあちゃんに怒られちまうから、と皆それぞれの家に帰ってしまった。


 今ここで見ているのは俺とイースくらいだろう。


「最高だ……俺ここに住む」

「レスト、この後テスさんに修理依頼の手紙渡すんやで? それ終わったら一旦帰るからな?」

「もうちょっとだけ……あとあのレッドドラゴンが一周したら行くから」

「それさっきも聞いたがな。こんくらい、いつでも見れるやろ」

「今この時間帯で! 今この時期は! 今この瞬間だけなんだよ! あぁぁ……ノヴァの周り飛んでる写真機ひとつ借りたら良かった」

「次ここ来た時に撮ったらええやん。ほら行くで」


 俺が柵にしがみついたところで、圧倒的なパワーの前では無駄だったようだ。イースに首根っこを引っ掴まれてずるずると引き摺られる。


 あぁ……柵から、ドラゴンから遠ざかってしまう。


「待ってくれ! 夜の飛行も気にならないか!?」

「気にならへんなぁ。夜になる前に僕は帰りたい」

「ぐ、うぅ……ううぅぅぅ……ま、また会おう……ドラゴン達よ……」

「そんな唸らんでも」


 だって、今の飛び方を見れるのは今しかないんだって。誰かが記録に残してるなんて訳ないんだ。見逃したらと思うと悔しいだろ。見逃して後悔する夢を見るに違いない、絶対。


「まぁ分からんでもないけどな、レースまであと63日やろ? もう日ぃあらへんから、はよ装具士さんに連絡つけなあかんがな」


 昨日、ゴーランがビルノアの壊れた翼を修理するために専属の装具士であるテスさんにデバイスで連絡を取ったのだが、すぐには返事が返ってこなかったのだ。


「テスさんはレースの運営スタッフとして協力してるって聞いてるし、忙しいってのもあるんじゃないか?」

「トラブルちゃうと良いんやけどな」


 イースは何か感じているのだろうか。

 口を真一文字に結んで街の中心を見つめている。


 フューシャデイジーの街は何故か明かりがついている家が少ない。街の風習なのか、それとも今の時期だけなのか。


「……夜なら家に帰ってるだろうし、行こうか」


 俺は足腰の土を払い、イースと二人で街へと足を運んだ。

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