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出店まんじゅう屋

 ブルーローズの宿屋のアールの部屋にて。

 レストが部屋を出た後、アールは宙に浮く天秤を眺めている。


「……」


 二つの皿を鎖で吊るす天秤ばかりは実体が無く、神々しさを放っている。

 それを見つめるアールは顔つきは晴れない。


 天秤のふたつの皿の上にはそれぞれ金髪の青年の顔が浮かんでいた。

 あまりにも見た目が違う二人だが、同一人物だという人もいるだろう。


 その二人はアールの協力者達だ。


 測られているのは協力者の貢献度。

 天秤の傾きは——二人の貢献度には圧倒的な差があった。


「今後の見込み含んでコレか……これじゃ消滅は免れんゾ」


 アールは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「時間稼ぎも、いつまで持つカ」


 それはレストの知らない、アールの悩みの種。


「時間稼ぎをしつつ、レストにアイツを超える世界の貢献をさせる……何か救世主らしい事件はないカ」


 アールは眉間に皺を寄せて天を仰いだ。


 世界中ありとあらゆる場所に目を向け、シュミレーションによるあり得る未来を観測する。


「まぁ……無ければ……起こせば……フム? 近い、丁度良いのがあるじゃないカ」


 驚いた、とアールはぱちりと目を開く。


 その直後、トントドンッ!

 と、部屋の扉がノックされる。


 ノック音の強弱はバラついていた。

 ……というより、ふらついたのか体が扉にぶつかった音が混ざっていた。


「おおーい、あーるあーる」


 舌がまわらない呼び声が扉越しに届く。

 酔っ払ったスワンだ。


 アールが扉に目線を投げかける。

 鎧の腕で指をひょいと動かすだけでカチリと部屋の鍵が解錠された。


 きぃ、と扉がひとりでに開く。


 スワンは勝手に開く扉を面白そうに眺めながら、入り口付近でもたれ掛かった。


「ひっく、下でおもしろいことになっててね。よびにきた」

「あぁ、今行こうとしていた所ダ」


 にたり、とアールは笑みを浮かべたのだった。


 ***


 世界中の人々は知っているのか?


 俺は初めて知った。


 こんなにも興奮するイベントがこの世に開催されていたなんて。


 まんじゅう屋店内にて、俺はゴーランにまんじゅうをすすめつつ。そして、はやる気持ちを抑えながら聞いてみる。


「じゃあさじゃあさ、色んなドラゴン種がさ、ばーっと空一面に広がる風景が見られるって事なんだよな? だよな!?」

「あ、あぁ……見れる。全部が全部ドラゴンって訳じゃないが……レストはドラゴンが好きなのか?」

「もちろん! カッコいいだろ!?」


 ドラゴンはカッコいいに決まってる。


 ホワイトドラゴンやレッドドラゴン等々、種によって異なるが、炎をはく時の反動の強さで爪の形や長さが違っていたり、生息域や飛行時間によって少しずつ羽の形だって変わっていたりするんだ。


 ドラゴンといえば圧倒的な強者というイメージを持つだろう。しかし周囲を取り巻く環境や外敵の種類によって違いが出ている。それが面白くてカッコいいんだ。


「まぁ茶ぁ飲んで落ち着きや」


 俺がドラゴンの良さについてを語っている最中、イースがお茶を机に置く。


 気づけばゴーランがかなりのけぞっていた。

 しまった。近づきすぎた。少し体が机を乗り出していたようだ。落ち着かないと。


 まんじゅう屋店内にはほとんど誰もいないが、大声で話すのはお客さんに迷惑がかかるからな。


 ゴーランは居住まいを正し、一つ咳をする。


「こほん、今回は特別に大きい大会になりそうだからね。観戦はお勧めだよ」

「特別に大きい? 何か記念の年なのか?」

「——そりゃ記念になるだろうなァ」


 振り返ると少し顔色が良くなったアールと酒瓶を煽るスワンが階段から降りてきた。


 丁度良かった、アールに相談したい事があったんだ。


「アール! ドラゴンのレースが浮遊都市フューシャデイジーであるらしいんだ! 見に行かないか?」

「見るだけだと勿体無イ。だロ?」

「? 勿体無いって言っても、見る以外に何するんだ?」


 アールはとても良い笑顔でまんじゅうを取り出して食べる。


「大会の側でまんじゅう屋を出店するんだヨ」


 ……アールの奴、何か企んでいないか?

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