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時間、もう少し止めといてよ

「彼奴は怒ったりはせん……説教ならよく聞いたが」


 その時のことを思い出したのか、口角を上げて苦笑いをしていた。

 確かに、ノヴァは怒ったりするより、こんこんと優しい口調で言い聞かせるイメージがある。


 雷獣が何かした時は、きっと根気強く伝えていたんだろう。


「思えば……儂は彼奴しか見ておらんかったな。彼奴は、儂も、出会う人も、世界も……全てを見ておった」


 ノヴァは目を細めて空を見上げた。


「どんな景色、なのだろうな」


 時が止まっているから、風は無く、雲が空に浮かぶままだ。


 どんな景色、か。

 俺はほんの少しの時間、目を閉じて想像してみた。色んな場所を冒険して、まんじゅうを広めて歩いてるんだ。森の中で野営をする時はイースが石を組んでイノが薪に火を灯していて。そんなイノにちょっかいかけた雷獣をノヴァが言い聞かせているんだ。その横では、スワンが早くも酒盛り始めるんだろう。アールは体力が無いから俺が運んで来て、皆んな集まって火を囲む。そんな有り得た筈の風景を。


 胸が温かくなると同時に少し締め付けられるような寂しさを感じる。

 もっと見ていたいという思いを振り払い、目を開く。


 ノヴァは鋭い視線を空に向けていた。

 そこには夥しい数の黒蝶が居る。その黒い色は空にとどまり青い色を汚していた。


「時を動かしたら、彼奴はまずアレを一匹残らず消し去るだろうな」

「あぁ、ノヴァなら放ってはおかないな」


 彼奴の言葉を見つける、か。とノヴァは口角を上げた。


「儂は見つける。必ず」


 ノヴァは差し出した仮面を受け取ろうとする。


「もう少し時間、止めといてよ」


 カチリ、と金属の爪のなる音が響いた。不快さを隠そうとしない引き留めの声だ。


「っお前」

「……何奴だ?」


 見覚えのある人物、メニックがそこにいた。

 こちらの反応もまるでお構い無しにメニックは苛立つよう爪を鳴らす。


「ねえねえねえ、時間を動かせばどうなると思う? 分からない? 分からないよね?」

「お前、何が言いたい?」

「あはは、あはははは。だってさ、だってね? そこの君が刻んだ人が泣き叫びながら"エクリプス様にやられた"って口々に言うだろうね。それは嫌だろう? あ、でも君ならちゃーんとトドメを刺してしまうかい? するんだろう?」


 メニックはケラケラと笑った後、ピタリと無表情となり首を傾けた。


「君がその姿でしたのだから」


 わざとなんだよね?

 スイッチを入れた機械のように、再び笑顔になる。


 ……コイツ、分かってて揺さぶってきているな。目的はまだ雷獣なのか、それとも時間を止めておく事か?


「……皆、殺してはおらぬ」

「ノヴァ、アイツは駄目だ。言葉を聞くな。スワン」

「任せてくれ、あれくらい傷も残らず完治出来る」


 頼もしい限りだ。スワンは腰を落とし、メニックを睨みつけていた。


「殺さないの? エクリプスを殺した彼みたいに? へー、優しいんだね。でも、ここに目撃者も居るよ?」


 メニックの方に歩いて来たのは明らかに一般人だった。

 時が止まっているにも関わらず動いている人なんていたのか、と思ったが様子がおかしい。メニックに肩を叩かれて、不明瞭な呻き声が漏れている。肌はよく見れば人では無いモノのツギハギだ。


「おめでとう! 君のせいでとーっても大切なエクリプス様に酷い汚名がついちゃうね! エクリプス様でも、流石に死者の世界で恨み言の一つでも吐いてるんじゃないの?」

「っ……儂、が……」

「辞めろ! 聞くな!」


 ノヴァの全身から地面へ、雷が何度も落ちる。ノヴァは動揺を隠せずに胸を握りしめていた。


「あぁ、ごめんごめん嫌だった? じゃあどうすれば良いかって? 君は時を止めておいてくれれば良い。僕が被害者も目撃者も全て片付けてあげようじゃないか。報酬については彼らから貰うから大丈夫だよ。君は見ないふりしてくれれば良いんだから簡単だろ?」


 分かってきた……メニックはこの時が止まったままの状況が欲しいのか。


「報酬を貰う……お前は何をする気だ」

「何をするってこうするんだよ?」


 止める間もなく、メニックは隣に立っていたツギハギだらけの一般人に何かを押し付ける。直後、人が腹から爆発して真っ二つになった。


「な……ぁ……お、お前っ!?」

「あ、しまった。貴重な成功被検体なのに潰しちゃったぁ」


 うっかりしたなぁ、と言いながらもメニックは人だったのモノの体から魔石を取り出す。

 爆発した人の体の中身は一部が機械で出来ていた。それだけじゃ無い。紫がかった謎の臓器までもが人の体内に詰め込まれていた。


「あはは、まぁいいか。コレだよこれ。チマチマ攫ってくるの本当に大変だったからしたく無いんだよね」


 血に濡れた魔石を爪で挟んで見せびらかしてくる。まるでおもちゃを手に入れたばかりの子供のように。


「そうだ、一人だと大変だし手伝って……」

「すると思うか?」


 笑顔のままのメニックへ向かって駆ける。

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