雷の巨木
皮膚がチリつく感覚がした。
瞼の裏まで焼きつきそうな強い光が放たれる。
その光が俺の目の前に瞬時に辿り着くと同時に、空間が破れるような音が後を追いかけてきた。
目視してから回避に動くには遅い。
初動が遅れれば俺の足でも避けられない。
棒立ちのまま、スワンの警告が耳に届く。
「レスト危なっ………………い?」
俺の体を貫く——筈だった雷撃は旗に阻まれる。直前で振りかぶった旗によって。
旗の模様に雷撃が触れる。
直後、ズドンとあらぬ方向へと雷撃が放たれた。広げたもう一枚の旗から出てきた。
旗を持つ手に痺れは無い。
触れた雷撃はもう片方に全て出ていくようだ。
いける。
「雷が移動した……のか?」
「この旗、もう一つの旗に繋がってるんだ。スワン、痺れは?」
「あぁ、私は大丈夫だ。側撃雷は無いよ」
ぐい、とスワンが酒瓶を呷り、砂から体を作り上げる。
「スワン、あいつと何があった?」
「回復魔術で治療を頼まれてね。それで来たんだけれど……」
スワンの目線を辿る。花が散る場所の真ん中。そこにノヴァが胸を抉られて倒れていた。
「……」
やはり、という確信。どうして、という疑問が頭を埋め尽くしていく。
信じたくなかった。
あの旗に包まれた心臓はやはり。
ギリリと歯が軋む。無意識に歯を食い縛っていた。メニックが渡した旗だ。それがノヴァの胸を抉ったのだろう。
「汝が、汝らが、そうさせたのであろう?」
仮面の男が雷を全身に纏わせ、怒りを露わにする。
光と破裂音が絶え間なく男の全身から発生し、長い髪や重そうな服が風もないのにたなびく。
「そうなのであろう!?」
「っ!」
怒りに任せた雷撃が繰り返し放たれる。空気を切り裂き、俺たちへ走りくる雷撃を全て旗で受け止める。
「そのような布切れで防いだ気になっておると」
「事実防げてるぞ?」
少しでも受け損なえば終わりだ。それを隠して余裕の笑みをつくる。
ふは、と仮面の男が吹き出すように笑った。
その後、腹の底から煮えたぎるような憎しみが聞こえた。
「楽に、死ねると思うでないぞ」
「へぇ、っ」
その瞬間、全身の肌がピリつく。
仮面の男を中心に、まるで樹木のように雷撃が曲がりくねる。ありとあらゆる方向から俺へと吸い寄せられる。
「いつから計画していた?」
「ぐっ」
「何が目的だ?」
「っん、なもんっ、あるかっ!」
ほんの僅かな兆候を頼りに旗で受ける。
感覚、というよりもほとんど直感だ。
背後からも来る。
「私も居るのだよ」
振り返るとスワンが体を砂にして雷撃を掻い潜り、もう片方の旗を手にして雷撃を受けていた。
俺とスワンを見た仮面の男は不愉快そうに口を歪め、苛立ちながらも雷撃を無茶苦茶に放ち続ける。
「他に仲間がいるなら、全て吐け!」
「そうだなっ、ノヴァは俺の仲間だ、っよ!」
「……隠し立てすれば此奴のように地獄を見せてやる」
一際大きな雷の柱がある一点に落ちる。
ズドンと地響きし雷の通った後がパチリと弾ける。
そこに横たわっていたのは一般人らしき男の死体だった。
服は弾け飛んだようにぼろぼろだ。肌は雷が伝ったのか、葉のような模様の赤い火傷が出来ている。口からは血を吐き出し、頭は骨が折れたのか陥没していた。
その死体は手に旗を巻いていた。
「見覚えがあるのではないか?」
「悪いが無い」
「……ない」
まずい。来る。
頭の芯まで瞬時に警報が伝わる。
「訳が」
「スワンっ!」
「あぁ!」
すぐさま距離を取り、旗を建物の壁に押し付けて穴を開ける。スワンは手元の旗に入り俺の目の前に現れた。
二人穴に入り、壁に隠れたその瞬間。
「無かろう」
何もかもを破壊する音と光が町を満たした。




