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異世界の政治家(例の人)について

 その日、区役所は静かな熱気に包まれていた。

 ヤマトとトリアルが、ヤマトリアル連邦としてまとまることが発表されたのだ。

 これは両国で住民投票した結果、より強い協力を希望するという意見が多数派だったことを受けてのことである。

 正確にはトリアルは五つの自治領からなる連合国で、その一つにヤマトが加わるということになる。わざわざ国名を変更するのは、それもヤマトの名を先に冠するのは、それがトリアルにヤマトが併合されるのでは無く、二つの世界は対等であるという演出的なものであろうとロロルトは冷静に分析していた。ヤマト以外の地方が日本から独立しても、加わりやすくする心理的効果も狙っているに違いない。

 異なる世界の国が出会って一年で合併するには、他にも外的要因があった。

 現在、ヨーロッパではコフュースから進出してきたヤードゥ神国によって既にフランスが侵略されている。核ミサイルで攻撃したイギリスとアメリカは、転移魔法で自国に核弾頭を返却されて機能不全状態に陥っていた。魔法の存在により、今までの戦術が役に立たなくなったのだ。また中国は巨大な結界に囲まれて音信不通状態だが、これもコフュースのテンク皇国によるものと見られている。

 二つの世界で友好関係にあるのはヤマトとトリアルだけであり、ヤードゥやテンクが地球で手に入れた軍事力を活用しないという保証がない以上、ヤマトとトリアルも魔術と科学技術の両方で自分達を守る必要があった。外敵というものは、いつだって内部の結束を高めるのである。


「それにしても、凄かったよね」

 いつも利用している喫茶店の片隅で、美由紀はしみじみとロロルトに言った。

 本来なら今日も交流会の予定だったが、ヤマトリアル設立の準備作業の為に中止となり、長い残業からようやく解放されたところである。

「生で見るファラステラちゃん、本当に可愛かったなぁ」

 美由紀の感想に、ロロルトは密かに眉をしかめた。てっきり合併の話かと思ったら、予想の斜め上の話題だった。

 ファラステラというのはコフュースから初めて日本に転移してきた五人の冒険者の一人である。トリアルてもトップクラスの回復魔法の使い手で、冒険者ギルドでも大きな発言権を持つ実力者だ。梅田龍事件で辺り一面が更地になった中、某家電量販店のビルだけが無傷で残っていたが、これが奇跡ではなくファラステラの防御呪文の成果だと知れば、彼女の凄さがわかるだろう。

 日本に来てからは政治的な交渉も一手に引き受け、ヤマト独立の立役者とも言われている。

 地球で最も有名なトリアル人であり、日本人の取り込みに一番執着しているのも彼女だろう。

 そんな時の人が区役所に現れ、自らヤマトリアル設立について発表したのである。いかにも政治家らしい、念の入った根回しだとロロルトは分析していた。

「念のために言っておきますが、あの人は我々より遙かに年上ですよ」

 ちゃん付けで呼ぶのに違和感を覚えた訳では無い。美由紀以外にもそう呼ぶ人がいることをロロルトは知っていたし、トリアルでも似たような扱いをする人は少なくなかった。

「そうらしいけど、でも実際そうは見えないし……やっぱりトリアルの人って若く見えるよね」

 トリアル人が若く見えるというのは、あまり正確では無い。魔法で健康状態を保っているからか、老化の速度は確かに緩やかで、八十代でも地球基準では五十歳くらいに見えるトリアル人は多い。だが成長の速度はほとんど同じで、三十代まではそれほど変わらないのだ。

「あの人が異常なだけで、一般的なトリアル人はああじゃないですよ」

 ロロルトがどことなく苦々しく言う。

 ファラステラの外観は、ふわふわのハニーブロンドと碧く大きな瞳の、まるで十代半ばのような少女である。日本の古い世代からは「フランス人形のような」という形容で呼ばれることが多い。美由紀がちゃん付けするのも無理はない。だが実際には十代半ばの子供の母親で、その精神は年齢以上に老獪である。見た目にだまされて痛い眼を見た者はトリアルでも多い。

 トリアルではその見た目の為に軽く扱われることも多かった彼女だが、日本に来てからはその姿のおかげで多くの支持者を得ていた。それはもう国民的アイドルというレベルだ。

 その影響力を彼女が意図的に駆使しているのは間違いない。

 ロロルトですら今日まで知らなかったヤマトリアル設立の台本を書いたのは、ファラステラしかいないだろう。

 ヤマトとトリアルが一つの国になるということは、ロロルトとしても歓迎すべき事態である。それでも素直に喜べないのは何故か、ロロルトにも薄々わかっていた。

 ヤマトとトリアルの友好関係について、自分はまたしても遅れていたのだということを見せつけられたような気がしたのである。

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