異世界人の堂々巡り
日本とトリアルの架け橋となるべく奔走しているのは、自分一人では無い。でもその第一集団には入っているという気負いがロロルトにはあった。少なくとも区役所の中では誰にも負けていないと思っていた。
それが美由紀の言葉で揺らいでいた。
ロロルトに好意を抱いて参加している女性がいた……それに比べて自分はどうだ。
仕事に熱中して恋愛どころではなかった、本当にそうだろうか。
コフュースと地球が次元を超えた門で繋がってからそろそろ二年。ヤマトとトリアルは急速に距離を縮めている。しかしこの繋がりがどれだけ続くのか、それは誰にも分かりはしない。
明日になればもう門が使えなくなっている、その可能性を誰も否定できないのだ。
ヤマトとトリアルの密な関係も、永遠の別れが来る前に少しでも多く相手の良いところを吸収しようという焦りの現れと見ることも出来る。
もし門が閉ざされれば、異世界を訪れている者の価値は大いに下がる。魔力の供給を絶たれたトリアル人も、持ち込んだ機械を修理出来なくなった日本人も、異世界では役立たずだ。
その可能性を飛び越えて、一気に相手を恋愛対象と見なしてくる。そんな人達がこの区役所に何人もいた。それを自分は美由紀に指摘されるまでまったく気付いていなかったのだ。
本当にそうだろうか?
無意識のうちに自分は彼女達の存在を無視していたのではないのだろうか?
無意識というのは自分で意識していないから無意識であり、そんなことを悩んでも結論なんて出はしない。堂々巡りになるのが落ちであるが、だからと言って一度気付いたことを無視できないのがロロルトである。
ロロルトは母親と死別している。
死者すら蘇生させてしまう回復魔法だが、前にも説明したとおりそれは絶対のものでは無い。どれだけ精度を高めるように準備をしても三万回に一度は失敗する。
そしてコフュースを襲った魔力大崩壊の直後では、被害者の数に対して魔法師の数も質も圧倒的に不足した。そのせいで蘇生魔法の失敗率は普段より遙かに上がっていた。
当初は冒険者の出動も遅れ、人々はどこに逃げていいかも把握できないうちに魔物に囲まれて命を落とした。世界中に魔物が溢れ出るなんて事態を誰も……あらゆる情報を分析する統計管理局ですら予測していなかったのだ、対応が遅れたことを誰も責めることは出来ないだろう。
各地に死体の山が築かれ、寄せ集められた回復魔法師達が必死になって働いた。統計管理局が把握しただけでも、蘇生失敗による死者数は一万人を超えていた。蘇生呪文を覚えたての魔法師すら動員されていたのだから、その数字は仕方が無い。魔法師の到着が遅れ、蘇生の期限の三日を過ぎた死者はその倍もいたのだから、例え失敗したとしても呪文をかけられただけ幸運だったのだ。
理性ではそう分かっていても、百にも満たない年齢の者と死別するなんてことを想定していなかったトリアル人にとっては、受け入れがたい悲劇だった。
ロロルトは仕事に打ち込むことで心の隙間を埋めようとした。
異世界との門が開いて、自衛隊が救護に駆けつけてくれた時には真っ先に補佐役に志願したし、異世界への先発隊に参加するのも躊躇しなかった。
その行動に、母の死という現実から眼をそらす意味があったことを、ロロルトは否定できない。
それと同じように、自分に好意を向ける人達から無意識のうちに眼をそらしていたのでは無いだろうか。
本当にそうだろか?
自分はもっと大切なものから眼をそらしていたのでは無いだろうか。
恋愛対象、今のロロルトがその言葉で思い浮かべるのは一人だけである。
当然、美由紀だ。
異世界に来てから一番接触時間が長いし、深く意見を交わしている。推理小説だって彼女のお勧めだ。
仕事に熱中していて恋愛に興味が無かった? それどころか美由紀と少しでも長く一緒にいる為に、無意識のうちに交流会を利用していたのかも知れない。だとしたらとんだ公私混同である。
自分がこんなに動揺したのも、彼女から恋愛関係の話題を振られたからではないのか。しかもあまり自分に脈がない感じで……
仕事に熱中して恋愛感情は二の次だった、そんなことはただのごまかしで、本当は自分の好意を美由紀に否定されるのが怖くて無意識のうちに気づかないふりをしていたのではないだろうか。
堂々巡りに堂々巡りを重ねた末に、ロロルトの意識はそんなところに着地していた。まあロロルトなので仕方が無い。それがロロルトというものなのだから。




