赫月
地響きが収まったかと思えば
辺りを見渡すと、 先程まで白く輝いていた月が
人の血色のように染まっていた
焦りを抱きながらどうしようと慌てていると
不気味な雄叫びが聞こえてきた
ユースとルナは直感で異常を察知し
大樹を後にして自分たちの家へ逃げようとする
「今の聞こえたか?」
「う、 うん。 変な雄叫びのような声だったよね」
「なにかヤバい!すぐに帰るぞ!」
ユースは直感で事の異常さを悟り
ルナの手を握り全速力で家へ駆け出した
「俺は自分の家に行くつもりだけど、 ルナはどうする!?」
「私は自分の家が心配だから、 そっちに行くよ」
「分かった! ルナの家が見えるとこまで一緒に行くよ」
ルナの家が見え、 この一直線を進めば帰れるという所で、 ルナと別れユースは自分の家への走り出した
「お父さん!お母さん!」
両親の事を叫びながら勢いよく玄関の扉を開けると
ユースの両親はリビングの椅子に座っていた
「ユース!!無事だったのね!良かった、、、」
「ルナちゃんはちゃんと送り届けれたか?」
安堵の姿を見せる母のあと、 ルナを無事に送れたかと父が心配してきた
「それは大丈夫! それより父さん! 月が真っ赤に染まって、 森の方で人じゃない何かの雄叫びが聞こえたんだ!」
「月が赤色に?それに雄叫びだと?」
ユースの話を聞いた父が母と共に玄関の扉を開けて確認しようとする
「本当だ、 なんだこれ何で月が赤色に」
「今までこんなこと無かったのに不気味ね、、、」
生涯の中でこんな現象初めて見るといったように2人が驚きと気味の悪さに駆られていると直後、
カンカンカンカンカンカン、 と甲高い音が連続して何度も響いた
それは異常事態を周囲に知らせる小さな鐘を鳴らす音だった
「何が起こってるの!? お父さん!お母さん!」
「まずいなモンスターだ、 お前は母さんと逃げるんだ! 馬を使ってとにかく隣町まで急げ!」
鐘が鳴り響いた直後、 ユースの父はそそくさと防具を着用しながら、 ユースと妻に隣町まで逃げるように促す
「あなたはどうするの!?」
「そうだよ! 父さんは!?」
父が一緒に行かないような素振りを見せると
焦るようにユースと母が心配する
「おれはモンスターの討伐に向かう、 この村の中で唯一まともに戦えるのは俺だけだ、 安心しろ父ちゃん強さには自信があるんだ、 みんなの事逃がしたらすぐに隣町まで向かうから」
父は妻とユースを落ち着かせるように、 静かな声のトーンで言い聞かせる
「気を付けねあなた、 絶対無事で帰ってきて」
「分かったよお父さん、、、そうだお父さん!剣ひとつ借りて行ってもいい?」
ユースの父は誓うように妻の唇と、ユースのおでこにキスをしたあと準備を済ませ玄関から出ていこうとする
「あぁ、 いいぞでも無茶だけはするな、 お前に何かあったら母さんが悲しむんだ、 もちろん俺もな、
俺との約束だ、 いいな?」
「うん! 絶対に生きて帰ってきてね父さんも」
親子としてではなく、 1人の男としてユースと父は約束を交わす
ユースの父は武器を手に取り玄関から足速に出ていった
「母さん、、、ルナの事が心配なんだ、 行ってきてもいいかな」
軽い身支度をすぐに済ませ裏口から出ようとする母にユースは口を開く
「そう、、、分かったわ、 その代わりユース絶対に生きて帰りなさい」
「仮にルナちゃんの身に何かあったとしてもそれはあなたがどうこう出来る問題じゃない、 辛いでしょうけど自分の身を1番に考えなさい」
ユースの母は少し間を置いたあと、 ユースに許可を与えた
すぐに反対しようとしたが、 ユースの目には
若い頃のユースの父の目と同じ、 揺るがない決意が宿っていた。
その目を見たユースの母は、 ユースを止める事が出来なかった。 その代わり、 続け様に身を案じる言葉をかけた
「ごめんなさい母さん、 ルナの家の馬車か、 父さんと合流して必ず生きて隣町まで向かうから! 母さんも無事でいてね」
「うん、、、ユースも絶対に生きて帰ってくるのよ」
母を安心させるように子供ながら隣町まで行く手段を並べた、 望みは薄いと分かっていても
今のユースの母には、 ただひたすら頷き、 ユースの身を案じる事しか出来なかった
「じゃあ行ってくる!」
「行ってらっしゃい、、、 必ず無事に帰ってきてね、、、」
父との訓練で使っている武器を手に取り
玄関の扉を開けルナの家の方向へ走り出した
直後、 自宅の方から馬のいななきが聞こえ
母が出発した事を感じた
ルナの家の方を見つめると煙が上がっているのが
目に映る
その瞬間焦りの感情が爆発し走る足が早くなったように感じた
ルナの家が見え始めると、 ユースの目に絶望が宿る
地響きの影響か、 はたまた父が言うようにモンスターの仕業か、 ルナの家は激しく燃えていた
最悪な事に中から女の子の泣き声ような物が微かに聞こえてくる
「ルナ待ってろ! 今行くから」
ユースは殆ど躊躇もなく家の中へ駆け出した
「2階にいるのか!」
激しく燃える家中に入り泣き声の出処に向かって走った
幸い貴族の家と言うこともあり未だ目立った倒壊などはなく階段や扉も正常に動いた
しかし、 炎上度合いもあり時間の問題でもあった
「逃げるぞルナ!」
「お母さんが!!!」
2階のある部屋の前で泣き崩れていたルナを見つけ連れ出そうとすると、 ルナが泣きながら部屋の中を指さした
部屋の中を覗き見ると、 ルナのお母さん姿があり意識はまだ微かにあるようだった
建物の構造上、 2階は地響きの被害が大きかったのか、 ルナのお母さんは大きな棚の下敷きになっていた
ルナが部屋の前に居たのは、 扉のすぐ先に柱が倒れていたからのようだった
「ルナごめん、、、今の俺じゃルナのお母さんを助けれない、、、でもルナは助からなきゃ行けない!早くここから出るぞ!」
「嫌ぁ! お母さんを置いて行けない! 私の事は放っといていいから!!!離して!」
奇跡的に助かったルナを何としても生きてここから出す為に手を引っ張り連れ出そうとするが
お母さんが出れない状況にあるせいで、置き去りにできないルナの心情から手を振り解かれる
どうしもうもできない状況から
部屋の中へ目をやると、 声は聞こえなかったが
口の動きで、ルナのお母さんが何か喋っているのがわかった
(ルナをここから逃がしてあげて)
ユースは迷わずそしてハッキリと頷いた
ルナのお母さんの言葉で
ユースの目に再び決意が宿る
「ごめんルナ、、、 後でいくらでも怒ってくれていいから、、、」
ユースは先程までとは違い、 ルナの悲しさを配慮した弱々しい力では無く
ルナここから生きて逃がすという決意が宿る強い力で彼女を引っ張りながら階段を下り、 玄関へ向かった
ユースが手を引っ張っている最中
ルナは号泣しながら「戻って! 離して! 何で!」と様々な悔いの念を叫ぶ
玄関から出ると、 もう既に色んな家が炎上していた
ユースは父親を待たずして、 ルナの手を引っ張り
徒歩で隣町まで行こうと走り始めた
その間、 ルナは今思いつく罵詈雑言をユースに浴びせ、 今でも手を振りほどこうと暴力を振るおうともしていた
彼女の精神は今、 まともじゃなかった
それが分かっていた為、 ユースは言い返さず、
かといって何か言うでもなく、ただ言葉も行動も全てをその身一つで受け止めた
逃げている最中、 後ろから
獣のような声が聞こえ後ろを振り返ると
体長2mほどの大きな犬のような形をしたモンスターが1匹こちらへ向かってきていた
子供と成体のモンスターの足の速さは歴然だった
追いつかれると即座に判断したユースは
ルナの握っていた手を強い力でグイッとひっぱり彼女を転ばせて、 腰に携えていた武器を両手で構えた
ルナがふたたび変な行動を起こす前に
モンスターを討伐しようと切りかかった
「やあぁぁぁ!!!」
走りながら武器を振りかぶり、 そして力いっぱい振り下ろしたが、 あまりの体躯差に軽々と避けられ
「ぐはっ、、、」
モンスターのしっぽによるなぎ払いで宙を舞い
近くにあった木に打ち付けられた
前に立っていたユースが吹き飛ばされたことで
必然的にモンスターの次の狙いがルナに移る
「やだぁ、、、!」
ルナはモンスターと目が合い、 恐怖で小さい声で首を横に振りながら言葉を漏らすと、
じりじりと距離を詰めてくるモンスターに
ルナは尻もちを着いたような状態で背中を後ろにしながら後ずさりする
後ろを見ずに後ずさりした事でルナの背中が木とぶつかり距離が離せなくなると、ルナは恐怖で失禁した
モンスターは気味悪く獲物が諦めたような素振りを見せるとニヤァと口角を上げる
「いやぁぁぁ!!!」
直後、 モンスターが鳴き声を上げながら大きく飛躍し、 飛びかかろうとするモンスターをみてルナは絶叫した
ユースはさっきの衝撃で動くことができず這いつくばるような体制で見てる事しか出来なかった
モンスターの爪先がルナに触れそうになる瞬間
ユースは悲惨な光景を目にする怖さで目を瞑る
次に聞こえてきた音は物凄い衝撃音とグシャッという何かが潰れた音だった
ユースが恐る恐る目を開けると
そこにはルナの眼前に、 黒にモヤを纏った人型の何かがいた
さっきまでいたモンスターはどこにいったと
先刻聞こえた衝撃音の方向を見ると
木に打ち付けられたモンスターだった肉塊と
その周りに肉片が散布していた
「これだから魔物は嫌いだ、 たった一つ教えた事も守れない畜生にも劣るゴミ虫が」
人型のナニかに再び目を向けると
どこにあるのかも分からない口で
モンスターを打ち付けた木の方向を見ながら
不満を口にした
ルナは終始、 恐怖の感情を抱きながら唖然の表情を浮かべていた
人型のナニかはルナの方向を再び見ると
まるで人間の主従関係の下位の者のように
片膝を着き、 手を胸に当て、 頭を下げて言葉を放った
「お迎えが遅くなり大変申し訳ございません。 そして、 先程の魔物が大変無礼を働いた事面目次第もございません」
突然の事に驚きを隠せないルナは慌てていた
そして、 続け様に人型のナニかは衝撃の一言を口にした
「さぁ私と共に参りましょう巫女様」




