第23話 愛の告白
俺がそう言うと、雪憐は少し緊張したおもむきでこちらを見てきた。
先程からバクバクうるさい心臓に急かされないように、自分に落ち着けと言い聞かせていた。
これから言うのは俺の…今の想いだから。もう、言い訳も、失敗も、後悔も許されない。
息を吸う。それだけで心臓の鼓動がうるさい。まるで何かが爆発する瞬間のように感じて、一瞬なのに永遠の出来事な気がした。
「俺は今の雪憐が好きだ」
言った。
それは自分の言えるありったけの真剣さで。
それは自分の言えるありったけの想いで。
それは4年前の自分から受け継いだ…花ちゃんとの初恋と今の雪憐との恋。
4年間のこの旅の終焉だ。
「俺と付き合って欲しい」
覚悟はすでに決めた。例えこれが最悪な結末を迎えたとしても、この恋は終わる。
雪憐との関係性も変わる事なんて百も承知だ。
それでも…俺は…この想いを裏切れない…!
「先輩は私が好き…なんですか…?」
雪憐は困ったように頬を染めて聞いた。
それだけでは雪憐の気持ちは分からない。でも、即座に拒否されなかったのは俺を少しだけ安心させた。
一時はどうなるかと思った鼓動も相変わらずうるさいが、少し安定した気がした。
「ああ」俺はそう真っ直ぐに雪憐を見ると、雪憐は恥ずかしがるように着ていたコートのフードで頭を隠した。
夕陽が減っていくにつれて雪は我々の熱さを冷やすように降り積もり続けていた。
「4年前の花ちゃんじゃなくて?」
雪憐はそう俯きみに答えた。だから表情は分からない。
でも、その声色には確かに不安と熱が含まれていた。熱も今までの"優しい暖かさ"ではなく、色っぽく情熱的な熱さだ。
「俺は今の雪憐が好きなんだ」
俺はそう真っ直ぐに答える。雪憐の気持ちに答えるように俺は体の奥底から熱い何かが湧き上がってきた。その熱は全身に満たされて、雪が降っているはずなのに、俺はもう傘なんてどうでも良くなって手放してしまった。
「それが先輩の答えですか?」
雪憐のその声は、今までのどの声よりも色っぽく女性的で、愛おしく可愛い。雪憐が女の子であり当然女性であることを今まで一番よく理解してしまった。
俺は雪憐に一歩近づいた。彼女に触れたかった。彼女を安心させたかった。
「そうだ」
俺はそう言うと、雪憐にもう一歩近づいた。今までほんの少しの距離しかないのにギリギリ届かなかったあの距離とは違う。今すぐにも雪憐にも触れてしまう。
「後悔しないですか?」
雪憐がそう最後に聞いた。一番真剣で不安そうな声だ。
おそらくこれは俺の初恋の最後の選択だから。
そして、もう覚悟はできている。
「絶対にしない」
俺はそう断言した。今の雪憐に恋すると決めた時に同時に俺の中で誓った事だ。
例え1億年経ったとしても、俺が今この瞬間、世界の誰よりも雪憐を愛し、世界のあらゆるものよりも大切だと思った気持ちに一切の嘘偽りはないのだから。
「私は…」
雪憐が不安そうに今にも消え入る声で呟いた。少しでも雪憐の力になれるなら。少しでも雪憐に安心して俺を選んでもらいたいから。俺は…
「雪憐」
俺はフードを出来る限り優しく外した。雪憐は抵抗せずに俯いたままだった。
ふわりとフードを外すと、ショートヘアの美しい髪も一緒に生き生きと靡いて、耳に髪がかかった。それがそれだけで、いや何気ない瞬間だったからこそ俺は好きだった。女の子の髪の毛はとても柔らかくて、ふわふわとしたシャンプーのいい匂いがした。
雪憐は恥ずかしがるようにゆっくりと顔をあげた。10cmほどしかお互いの距離がなく俺の心臓がまたうるさくなる。だが、それでも俺はこの美しい肌の少女を間近でみて見たかった。
それは俺が生まれて初めて見る顔だった。
耳まで火照った雪憐は周りの雪さえ溶かしてしまいそうで、俺と視線をずらして何かを求めるような目ととろけるように恥ずかしがる表情。雪憐が顔を隠していた理由が分かった気がした。だが、そんなに可憐ならばひとつも恥ずかしがる必要はないのに。
「大丈夫。すごく可愛いよ」
雪憐に安心してもらいたかった。だから、俺の率直な感想を述べた。雪憐は何も言わないで恥ずかしそうに目線を逸らしていた。
「俺は雪憐の今の気持ちを知りたい」
俺はゆっくりと力強く雪憐に聞いた。俺は雪憐に教えて欲しかった。答えを求めるのは身勝手な気はした。だけれど、それでも聞きたい。雪憐の正直な本心を。
雪憐はそっと恥ずかしがったまま俺を見る。
とくん。
目線が合うと思考がショートし体が加熱する。雪が雪憐の髪につもり、文字通り雪化粧をしていた。
「先輩はとてもばかで不器用で他人の気持ちを考えられないけれど…」
雪憐はそう拗ねるように言い、その後目線はまた逸らしてしまった。
「悩んで苦しんで考えてくれるなら」
雪憐はそう紡ぐと、ワンテンポ置くように軽く息を吐いて真っ直ぐと俺を見た。顔が紅潮している、しかしそれでもちゃんと雪憐は芯を持って自分の聞くべきことを聞こうとしていた。
「先輩は私のための彼氏になってくれますか?」
雪憐はそう甘える様な優しい声で俺に聞く。
「ああ、約束する。雪憐に誇ってもらえるような彼氏に俺は必ずなる」
雪憐は俺に沢山の幸せを与えてくれた。そして、もし雪憐が彼女になってくれるなら、俺はもっともっと沢山の幸せを貰ってしまうだろう。
だから、俺もそれと同じくらい雪憐に幸せをあげられる様になりたい。
「俺は間違えている事は沢山あるけど、それをちゃんと教えて欲しい。そうすれば必ず俺は雪憐の気持ちに答えられるように全力で頑張る」
それが俺に出来る精一杯の答えだった。雪憐のためならどんな努力でも出来ると思う。
「私も頑張らなきゃですね」
そう答えると、雪憐は微笑んでくれた。今までの雪憐のものとは思えないほど無邪気で自然な笑み。それはまるで心の奥底から出た表情な様な気がした。
俺も安心して、つられて笑ってしまう。
「雪憐こそ、俺でいいのか?」
俺がそう聞くと、雪憐は頷いて、俺に体を任せる様に倒れ込んできた。
雪憐の顔が俺の胸あたりに押し当たっていて、冬の厚い衣服なのに布越しに彼女と接していると思うとむず痒く心臓がバクバクと言う。
「先輩じゃなきゃダメなんです。私はあなたが好きだから」
雪憐がそう満足そうに呟いてくれた。
達成感、充実感、安心感そして高揚感。これが"幸せ"と言うものなのだと理解した。
「ありがとう。俺もだ、雪憐」
もはや、言葉なんて要らなかった。
雪憐が俺の胸から離れると俺を見上げてくる。
健康的な唇と透き通る様な肌、そして雪が絡まった女性的な髪。
俺と彼女はお互いを求めるかの様に静かな、けれど熱い情熱的なキスをした。
そして、雪は俺達の愛を歓迎するかの様に静かに降り続けているのだった。




