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第2話 ゲームセンターと女の子

 本当にうるさい騒音だ。ゲームセンターというところに行く人は修行僧なのだろうか?すれ違う人は悲壮感に溢れるボッチとイチャコラしているリア充カップルだけだ。ボッチはカップルを妬みと憎悪に満ち溢れたような目で見て、カップルは周りの迷惑など考えず自分たちだけの世界を作り出していた。


 持つ者と持たざる者、この世の中の格差社会の縮図のようだ。カップルは幸せに幸せを積み重ね、幸せを増やしていく。ボッチは憎悪に心を蝕み、自尊心を保つためによりカップルを憎悪する。


 俺は学校の終わりに紗恵に半ば強制的にゲームセンターに連れて行かれた。側から見れば俺も持つ者、カップルに分類されるのかもしれない。周りからしばしボッチの殺意すら感じる憎悪を感じる時がある。


「まだ、続けるのか?」


 俺は思わず聞いてしまった。楽しそうにゲームをしていた人間にそのような事を言うのは気が引けるが、元々俺を誘ったのは紗恵だし。俺にも主張する権利はあるはずだ。


「えー。もう、帰るの?もうちょっとやっていこうよ」


 紗恵の甘ったるい砂糖のような声で俺の主張を溶かしにかかる。甘ったるい砂糖が原因で結果的に歯が溶けるように、甘ったるいものには必ず副作用がある。つまり、女の子の甘ったるい態度を信用してはいけない。男とはまた違う信用のできなさがある。


 などと俺は呑気に思考を進めるが、そろそろ限界だ。騒音で死にそう。光で死にそう。人で死にそう。一刻も早く帰りたい。


「冗談じゃない。俺は修行僧じゃないんだ。ここは、うるさい・まぶしい・人邪魔の3拍子が揃っているんだぞ」


 紗恵は俺の話を半ば引いたような顔をして聞いていた。話を終えると紗恵は軽くため息をついてこちらを覗き込むように目を合わせてきた。


 顔が近い。自然と俺の体勢が引き気味になる。トクン、目が合うとそれは心の中に潮騒を起こした。いつも見慣れた顔もすごく美しいものに見える。


 違う、すごく美しかったが、俺が気付いていなかったと考えるのが自然だ。大切なもの、かけがえの無いものは近くにあって気付かないとよく言う。いつも見慣れた紗恵だからこそ、ちゃんと向き合うと気付く発見があるのかもしれない。


 …余計なことを考えてしまって、思考が定まらない。とにかく目の前で覗き込む紗恵に何か言わなくてはならない。女の子と話すといつもこうやって頭が真っ白になる。良い気分はしない。


「あー…」


 何かを言おうと思って、無意味な繋ぎ言葉を発した。我ながら見苦しい。


 そうしているうちに、紗恵はいつもの表情で笑った。俺と少し離れると


「女の子には気を付けないとだね」


 いつもの調子の声色だった。だから声からは真意は推測できない。表情も同様だ。紗恵は手を後ろに組み、少し首を曲げる、そんな体勢だ。顔は恥ずかしいのか少しだけ赤かった。そのまま少し後退りしてから、ゲーム機の方へと向いた。


 こいつ、普通にゲームを始める気かよ…。紗恵の言う通り、女の子には気を付けよう、帰る案もうやむやにされたし。でも、あんな顔をされると本当に言いづらい。いつも通りでいてくれれば、俺もいつも通りに接することができたのに。


「そういえば夜彩」


 紗恵も、この空気感に耐えられなかったのだろうか。ゲームをしながら振り向かずに俺に話しかけてきた。


「はい?」


 俺も話しかけられたら、答える。無視は良くない。


「クリスちゃんの事だけどさ…。何で夜彩の事だけ無視したのかな?」


「お前が既に理由言っているじゃないか」


「え?どういう事?」


「何で"夜彩の事だけ"無視したのかな?」


「え、あ、自覚あったんだね」


「そうだ、俺を好く人間なんて少数派だぞ」


 証明完了。ここまで綺麗に証明できるとは我ながら感嘆だ。しかも、根拠に絶大な説得力がある。俺を嫌う人はいるし、時々憎悪する奴もいる、最低でもクラスの人気者になるような爽やかな人間ではない。


「確かにそうだけど…。でも、クリスちゃん会ってすぐだよ。夜彩の事を何も知らないはずだよ」


「所謂、女の勘なんじゃないの?」


「夜彩、顔だけは良いからね。外見じゃあ推測できないと思うけどなあ」


「そうだったか…。俺、詐欺師に向いてそうだな」


「そんな事言わないようにして、性格直せば、夜彩だってモテモテだよ」


 モテモテだと…。あれか、ハーレムってやつか。ハーレムものって作品の関係上、主人公以外の男子があまり描かなれないけど、絶対裏で主人公の陰口言ってそう。


 そんな事を、考えて「モテモテだよ」のタイミングで一瞬振り返った笑顔の紗恵を見るとふと疑問がよぎった。


「というか、すごいな。この性格でも紗恵と友達になれる程の顔なのか」


「え?いや、性格の割に顔がいいって事」


 紗恵はさらりと言った。普通の男子なら女の子にそんな事を言われたら絶望していただろう。それに、偏見が凄すぎる、俺みたいなやつはみんな外見が良くないのか。それ、ヘイトスピーチじゃないですかね…。


 だが、これで更に謎が深まった。外見が普通で性格がこれなのに、どうして紗恵は友達でいてくれるのだろうか。俺を騙したり嵌めたりしようとしているのだろうか?でも、俺は1年生の時に紗恵から被害を被っていないし、そもそも俺を騙すメリットがない。


 どういう事なのだろうか。うーん。可能性を探しては潰して考えてみるが、納得のいく可能性は見つからない。


 結局、答えが思い浮かばず、回答欄を空白のまま、紗恵の方をみる。気付けば、紗恵はゲームを終えてこちらを向いていた。紗恵はきょとんとした顔でこちらを見た後、なにかを察したようだ。


「夜彩は面白いからだよ」


 なるほど、そうきたか。性格が面白いから許すパターン。大変珍しい事案だな、これ。


「そいつはありがたい」


 そうだ、嫌われるよりはよっぽどありがたい。嘲笑だったとしても。


「夜彩は難しく考えすぎだよ。私はもう少し気を楽にしても良いと思うな」


 紗恵は寂しそうに微笑みながら言った。少し声のトーンは落ちていた。紗恵は、俺の事を案じて言ってくれたのかもしれない。もしかしたら、案じてくれてはいないのかもしれない。紗恵がどういう気持ちでどういう意図で俺に伝えているのか分からない。


 仮に100%に限りなく近くても、100%じゃない限り、残りの可能性を完全に否定する事はできない。ましてや俺だ、算出した確率があっている保証も無い。


 多分、紗恵は俺がこうやって考え込む事自体を"難しく考えすぎ"と言ったんだと思う。それは正論で優しくて暖かい。互いに信用しあえる関係がもしあればそれは本当に素晴らしいかけがえのないものだ。


 でも…でも俺は…


「それでもちゃんと考えた方がいいだろ」


 そういうと紗恵は軽くため息をついた。


「夜彩らしい答えだね」


 紗恵はそう言った。声色は平坦で表情は相変わらず寂しそうな顔をしている。俺の答えに失望したのだろうか?それとも…。


 俺が頭の中で思考の迷宮の入り口に辿り着くと同時に、紗恵はなにかを指差していつもの笑顔で言った。今までの会話の空気を振り払うかのように。


「夜彩、一緒に格ゲーやらない?」


 いつもだったら拒否していたが、今日は何故か拒否する気が湧かなかった。


「分かった」


 人生、格ゲーのようにコンボが起きたら不自然で怖いけどな。いつかコンボが終わってダメージを喰らうんじゃないかって思うから。



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