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スノーローズ~転生した精霊の愛し子は唯一と何度でも巡り合う~  作者: ありや


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幕間

*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*

 精霊草の花が庭師の間で花が咲くということがごくごく一般的に知られるようになるのに、時間はかからなかった。むしろ貴族の間でも知られるようになり、気付けば平民の間でも知られるようになっていた。


なぜ? ほわい?


 あやめさんの知識から「ほわい」が「なぜ」という意味なのは分かってるから、決してこの世界で全く通じない言語だとしても、問題ないのです。えっへん! そんなどうでもいいことはスルーして。

 庭師の間で知られるようになったのは、多分ラロック邸の庭師ジャックからだと思われる。うん、いい仕事をしているわ、ジャック。

 それから貴族の間で知られるようになったのは、間違いなくかの公爵様と御令息のせい。精霊草の花も可憐だというので、淑女の間であっという間に人気になったのも大きい。ま、まぁね、クリスマスローズってば本当に可愛いものね! そのクリスマスローズと同じ花の精霊草なら当然よね!! ふふん、本当嬉しいわよね! ああ、顔がにやけちゃう~♪

 それから平民の間で知られるようになったのは、やっぱりかの公爵様のおかげ。この世界にも、新聞がある。その新聞で公爵様が御令息の件で取材をされたのが記事になって、そこから魔力過多症の平民の間で精霊草に魔力を注いでみよう! の流れにつながったらしい。案外平民も魔力過多症の人が多いらし。そして、病院に行くことはあまりなくて、基本的には薬屋に行って薬飲んでおしまいなことが基本なのだとか。

まぁ、結局は医師に診てもらうのはお金がかかってしまう関係で難しいから、自己判断になってるらしい。

だから、今回の公爵様の新聞記事は平民にとって大きな望みになったよう。自己判断するにしても、新聞で具体的に症状が分かったことと、精霊草に魔力をただ注ぐだけというお金がほぼ不要なものだったのも原因なのだと思う。


【体の弱い平民が病院に行けない=自身が何の病か分からない】


この図式なのだけど、新聞記事には具体的に魔力過多症の症状も説明されていた。そのおかげで、平民でも自身の病状から魔力過多症の可能性を考えるきっかけになって、精霊草に魔力を注いでみるという流れになっていったのは想像できた。

 実際のところ、それが大正解! という人が多くて、あっという間に平民にもその話が定着する流れになったと聞いた。病院に行かないというか、行けない人が多いのは仕方ないとしても、薬で全部対処してきてるというのが根本治療にはならなくて、けど、精霊草に魔力を注ぐというある意味対処療法で十分に魔力過多症には効いたというのが、結果的に良かったから本当少しでも体が楽になる人が増えてほっとした。

 私の「なんとなくやってみた」だけのことが、気付けば国を挙げてやっちゃおう! な流れになってて、なんだったら魔力過多症ではないのでは? な人達ですら調子よくなってることがあるようで、魔力を体内で作れるこの世界の人間ってつくづく魔力に左右されてるのね、としみじみしてしまった事実だった。

 あやめさんの記憶が、前世の感覚をそのまま持ち越してる私という存在を形作ってるから、どうしたって魔法、魔力当たり前! というのが一歩後になってしまう。その辺りがちょっとだけ問題かもしれない、と思うけれど…まぁ大丈夫よね。


 そう言えば。この世界って新聞があるという時点で、平民の識字率は割と高い。平民用の学校もちゃんとあるから、文字だけでなく計算もそこそこ出来るようになっている。なので、だいたいの国では前世に近い感覚で「文字の読み書きと計算は普通にできる」ことが前提になっている。

裕福な層だと、貴族の通う学校にも通わせるということもあるようなので(まだ私は学校…この国だと魔法学院に入学してないからお兄様に聞いた話)貴族と一部の商人のような富裕層は、平均的な平民とはちょっと違うみたいだけど、まぁ教育水準に関しては、前世のような感覚でいいのかも、と私は思っている。例えて言うなら、公立の小中学校と私立の小中学校の差のような。実際にはそういう違いじゃないのは分かるんだけど、ざっくりと言えば、ってことになるのだろうか。思わず背後のあやめさんに確認してしまいそうになった。いないんだけどね。


 そうだった。私が精霊草の花を咲かせてからの変化としては、お父様が王城でも精霊草を持ち込んで、同僚の方々にも協力を仰いだことで、詳しく精霊草の開花や開花期間を調べ上げて、公爵家の御令息の魔力過多症の治癒に役立ったこと、それから平民の魔力過多症やその他にも病気の快癒に至る道筋的なものがあったりで、ほぼほぼお父様の功績として精霊草に魔力を注ぐ行為は部分的ではあるものの、健康に関する一つの指標のようなものになっているらしい。そういう話を聞かされながら、私はただただ「へぇ~」と思うだけだった。


「アイリス、お父様の功績ってことになってるけど、本当ならアイリスの功績だって気付いてる?」


シトリンお兄様にそう突っ込まれたときに、私の頭の上には「?」しかなかった。そんな私を見たお兄様が、苦笑しながらこう続けた。


「アイリスにとっては自身の功績よりも、多くの人が健康になるならそれでいいという感じなのかもね」


私はお兄様の言葉ににこにこと笑っていると、エディお兄様が私の頭を撫でてくる。右隣がシトリンお兄様で左隣にはエディお兄様が座っている。私の頭を撫でていたお兄様は気付けば私の頭にお兄様の頭をすり寄せていた。

そんなお兄様に私もすり寄りながら、にこにことしてしまう。優しいお兄様二人に挟まれた私は、のほほんとしている。シトリンお兄様に言われたことなんて、頭にない。それでいいのよ、と思うのだった。



§ § §



 そんなこんなで気付けば時間は過ぎ、私も13歳の誕生日を迎え、この秋から大人の階段を一歩上がることになる年齢に差し掛かっていた。ええ、つまりは…王立学院の入学を控える年齢になった、というわけ。


「もう13歳なのね…。魔法学院の生徒になるのかと思うと、私も貴族令嬢として立派な大人の階段を上っている感じなのかしら?」


そんな独り言を零しながら、日記帳へと今日のことを書いている。今日のこと、とは言っても特に変化のないいつも通りの一日だったから、思わず『いつも通り変化なし!』なんて、あやめさんが夏休みに書いていた絵日記のような文章を書きたくなったことは内緒。

 そう言えば、アシュリーは魔法学院の貴族学舎を無事卒業していて、私の入学と同時に今度は私と一緒にまた貴族学舎へ通うことになる。アシュリーは身分としては平民だけど、貴族に仕える立場なので貴族としての立ち居振る舞いや考え方、その他にも貴族らしさを身に付けておくべきだろうと、お父様が仰ったので、貴族学舎で学んでいた。

 ずっと魔法学院の往復なのかと思うと、大変なのでは? と思うのだけど、気にならないのだとアシュリーは言っていた。それならいいけれど。

私のもう一人のお兄様みたいな護衛兼従者だから、お兄様達よりずっと一緒にいるわね。お兄様達よりは距離のある接し方をしてくれるから…そこは所謂主従だから当然なのだけど、それでも日本人のあやめさんの記憶がある私は、その距離感が丁度いいの。だから、アシュリーへの信頼度も高くなりがちなのだと思う。


「もう一人の兄は、とても素敵で紳士で、私にとってなくてはならない存在なの」


そんなことを呟きながら、日記を書き進める。今、私以外に部屋には誰もいない。だからそんなことを呟けるのだけれど、これでもし侍女やその従者本人がいたら…羞恥心でいっぱいになりそう。


「そうそう、殿下との関係はいたって良好、っと。お友達として親しくさせていただいています…、先日もお茶会で楽しくお話させていただいたし、お互いにハンカチやちょっとしたアクセサリーを贈り合っています…っと。

こんな感じでいいかしら? いいわね。殿下とはやっぱりお友達だわ。それ以上でも以下でもないけれど、まぁ仕方ないわよね。だって、私と同い年なのだもの。絶対に越えられない年齢差というものがないのは、魅力に欠けるわ。そんなこと殿下には絶対に言えないけど」


私がとても理不尽なことを言っている自覚はあるし、実際に貴族の婚約なんて基本的に適齢期になる頃までにお相手を見つけて、縁を結ぶ…ということだと思うし、私の場合は政略結婚にはならないけれど、大抵は政略が当たり前なのだと聞いている。想い想われという関係で婚約をするということは滅多にないものらしい。あやめさんの記憶があるせいで、私にとっては「貴族の結婚絶対無理」と思う部分もあるけれど、「目指せ長生き!」な私にはジェイド殿下以外の婚約者というのは、有り得ないことだった。時の精霊のトワ様が殿下との婚約は私を少しでも長く生きるために必要なお相手だと仰ってたし。

そのトワ様が結婚のお相手であれば、確実に死ななくて済むらしいけど、それと同時に人ではなくなるし、今の家族とも気軽に会えなくなるみたいだから、論外なの。

十七歳になれば死が待っている。今私は十三歳。時間があまりないと思うけれど、残りの時間を精一杯生きると決めている。あやめさんの短かった生を覚えているから、そう決めている。後悔はしたくない。それなら、誰か一人を愛することに時間を費やすより、家族との時間を大事にしようと真っ先に考えた。今の私にとっての最愛は家族だから。両親、お兄様二人、それに従者のアシュリー、侍女のティナ、他にも屋敷で働いてくれている使用人の皆のことも。殿下…は、ごめんなさい。家族ではないから。

 そんなふうに考えながら、トワ様に告げられた「十七歳」という年齢で私が終わるという言葉は、私の心の奥に沈み込むように、刻まれている。

そんな私の未来を掬い上げるように、精霊王の妃カナ様からいただいた加護がどう影響するのかは分からないけれど、信じよう。十七歳よりも後の私の人生が続くことを。

 日記を書き終える。ペンを置き、インク壺の蓋をする。インクが乾くのを待って、日記帳を閉じる。

日記帳を文机の一番上の引き出しに仕舞う。きっと私はこの日記を残していくだろう家族に宛てて書いているのだと思う。私はこの年のこの時期とても楽しく過ごしていた、少し悲しいことがあったけど元気でいた、そんなとりとめのないことを書いているだけの日記だけど、きっと家族には救いになるんじゃないだろうか、と考える。がんばって生きると決めている。絶対に長生きする! と決めている。だけど、トワ様は私の未来が見えないと仰っていた。それなら、それは受け入れつつも気持ちだけは長生きする人の予定でいればいいと考えた。

あやめさんも、死の間際まで生きる気満々だったことを覚えている。だから、私もそれに倣う。死ぬ気はない。だから長生きする予定で生きていく。

 私、死ぬつもりはないので。笑って毎日を生き抜いていく所存。がんばります!




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