「今更だよ鈴蘭。前回の投稿から遅れても、タイトルで謝罪するのはボクなんだから。今度こそスーパーオンミョウ人でやっちゃおうかな」by晶彦 「それあの時だけのネタじゃなかったのか!?」by村正
どうも村正です。
かなりお久しぶりになります。ただいま絶賛マギレコにはまっておりまして、そちらに――――――ごほん、何を言っているんでしょうね。
さて、ようやく本文が完成いたしたしたので最新話よろしくお願いします。
1
「はい、はい……そうですか、もう少し。分かりました、三人をお願いします」
内線用の受話器を下ろし、学園長の皇叶江は大きくため息を吐きながら椅子に腰を掛けた。
彼女が第二の襲撃があったことをその日の当直であった風路より聞いたのは今日の朝。報告を受けた彼女はすぐさま出勤し、現在はその対応に追われていた。
もちろん一真達が大怪我を負いとある人物の下で治療中であることもその時に報告を受けた。
学園最強であり学園にとっての切り札と思われていた生徒会長が攫われ、敵対関係になっていること。そしてもう一つの切り札と思っていた一真達が、第二の事件によって行動不能となった。
この二つは彼女にとって衝撃的なことであった。
「三人は大丈夫そうだよ」
「よかったですぅ」
机を挟んで叶江の目の前に立つ彼らの担任の風路も安堵の表情を浮かべる。
昨夜に九頭龍達が三人を連れて何処かに向かったことしか一美達から聞いておらず、叶江もそのことを風路から又聞きしただけ。彼らの安否を知る訳ではなかった。
今日の昼を過ぎた今になって状況を知ることが出来た。
「さて、問題は山積みだよ。多分、次の襲撃までそんなに時間はないはずだ」
「一番対策が必要なのはぁ、『レギオン』ですよぉ。あの子達の話ですとぉ、触れただけで寄生するみたいですからぁ」
叶江が到着するまでに行われた遠山楓の事情聴取。
その内容は全て一真達の状況と共に報告済みである。
楓の双子の妹の桔梗と一年一組の担任である須藤弘史の関係と、『レギオン』という人工契約獣の存在。全てが繋がっていることは間違いないことであった。
しかし繋がらないのは須藤と『レギオン』の関係である。
これに関してだけはその場で話を聞いていた風路や一美達はもちろん、報告を受けた叶江にもわからなあった。
「たった一人。魔力完全無効化という体質を持ってる須藤京子だけは、寄生されなかったようだね……だからといって全員にそれに似た装備、または魔法を覚えさせるのは難しいだろう」
「ですからぁ、そのための私『達』ですよぉ」
気づけば学園長室のソファにもう一人女性が座っていた。
扉が開いた様子もない。もちろんこの場に直接転移したような形跡も存在していない。つまり『彼女』は何の前ぶれもなく、ソファーに現れたことということになる。
そんな『彼女』の存在に驚くこともなく、二人は続ける。
「私は構わないわよぉ。弱腰のこの娘が珍しくやる気を出してるんだものぉ、少しは本気をださないとねぇ」
「め、珍しくは余計ですよぉ。私の生徒達が危険なことに巻き込まれたんですからぁ、やる気を出すのは当たり前ですぅ!」
「本気を出すの構わないけど、加減はしてほしいよ。すでに加減を知らない馬鹿共に”九”の契約獣が憑いてるんだからね」
加減を知らない馬鹿共。
それは間違いなく一真達三人、いや一真と隆浩のことを指しているのだろう。
叶江の言うことは強ち間違っていない。2度目の襲撃の日、十三組の筆頭である二人の戦闘によって模擬戦場は半壊し、周囲に契約獣の放つ気が充満した。
今となっては気は完全に霧散して害はないが、模擬戦場はどうにもならない。
もちろんそのことも彼女達が知ったのは朝になってからだ。
「あの馬鹿共の仕置きは全部片付いてからさね。今、お前さんの所の子達は?」
「須藤さんや風紀委員の子達とぉ、集団での模擬戦をしてる最中ですよぉ」
「ただの模擬戦で終わってたらいいけどねぇ……」
「え?」
突如、外から聞こえてきた爆音。
叶江と『彼女』はため息をつき、風路は状況を飲み込むことが出来ず狼狽えている。
爆音が聞こえてきたのは、昨夜一真と隆浩が半壊させたこの学園の模擬戦場。今そこにいるのは、たった今話題に上がったばかりの十三組生徒達である。
「今度は完全に壊れたかもしれないわねぇ」
「……今から修理費を計算するのがこわいよ」
2
十三組の委員長である結城燈花は、今前の前に広がっている光景を見て頭を抱えていた。
本日は風紀委員と須藤杏子を加え、集団戦の模擬戦をするようにと担任である東雲風路より言われていたためそのとおりにしていたのだが――――――、
「何でこんなことになってるのよぉぉぉぉ!」
七割がた崩壊してしまっている模擬戦場の中心には、十三組の筆頭の一真達に次ぐ戦力を誇る化け物3人が虚ろな表情で立っている。朝から様子がおかしいと全員が感じていたが、彼女達がおかしいのはいつものことだとスルーしてしまっていた。
しかし模擬戦開始直後それは起きた。
何が原因なのか、それはすぐに分かった。彼女達はずっと一真の名を呟いている。つまり昨日一日、一真に会えなかっただけで暴走を始めたのだ。
「えーっと……」
彼女が今立っているのは模擬戦場にあるビルの中で最も高い物の屋上。そこからは模擬戦が一望できる。
他の十三組メンバーは化け物と戦闘を繰り返している。
状況ははっきり言ってよろしくはない。数で圧倒することで何とか均衡を保っているように見えるが、実際は化け物三匹が押し始めている。
「これ、ちょっとマズいなぁ……」
彼女の位置から地上まで数十メートルある。
本来ならば身体強化の魔法を使用して視力を底上げしても見えるような距離ではないのだが、彼女の眼は特別だった。
生まれつき魔眼を持っていた。
能力は至極簡単。燈花自身が望んだものが全て視ることが出来ると言うものであった。しかし、それ故に最強の魔眼とも言われていた。
それが数千㎞先の場所でも、人間の眼では簡単には視ることの出来ない空気中を漂う魔力の流れでも、他人の視ている光景でも。彼女自身が望めば、望んだ光景が視界に広がる。
彼女は自身の眼の異常性から『全能者の眼』と名付け呼んでいる。いつもは発動できないように、封印の魔法が付加された眼鏡を掛けている。
しかしこの固有能力、知っているのは一握り。家族以外では担任の風路と学園長の叶江だけであった。
「あの3人は、神童君が関わると本当に異常性を発揮するからなあ……少しは自重してくたばってれば、おっと。もう少し大人しくしててくれればいいのになあ。そうすれば、ボクの負担だって……いろいろ考えたらムカついてきた」
二丁拳銃型アーマメントデバイス『天羽』を構えると、化け物三匹以外の十三組メンバーと通信回線を開く。そして同時に、ビルから飛び降りた。
「みんなにお願いがあります。ボクがクリスティーさんを引き受けるから、残りの2人をお願いします」
〔ちょっと待て、委員長! 委員長一人でやる気か!?〕
「一対一なら何とかなりそうですからね。ボクが一人押さえるから、残りのみんなで変態妹と自称愛人を押さえててください!」
全員から了解と聞こえた時には彼女はアッシュの前に立っていた。
燈花が一対一で相対したのは、これが初めてという訳ではない。だが、理性が吹っ飛んでいる状態では初めて。
この状態になった彼女は基本的に一真達十三組の筆頭や、アリスや一美が対処していた。その他の場合も他の誰かが対処する。それが、十三組の当たり前であった。
だからこそこの状況は、十三組にとってイレギュラーでしかなかった。
「ふぅ……少し痛い目、みてもらいますよ!」
躊躇なく魔力の弾丸をアッシュの額に向けて撃ち出す。
この程度のことで戸惑っていては十三組の人間は勤まらない。そしてこんなことをしても、
「ふんっ!」
鉈型アーマメントデバイス『美爆猪獄』で真っ二つにする。
もちろん燈花にとっても想定の範囲内。だが、燈花にとってアッシュとの相性は最悪である。
燈花の魔力色は緑、アッシュの魔力色は赤。
赤の魔力色は、緑の魔力色にとって優位に立つことが可能である。もちろんそんなことが分かっていない燈花ではない。
「っ!?」
次の瞬間、アッシュは驚愕で行動が一瞬だけ遅れてしまう。
それもそのはず、彼女が選択したのは距離を取ることではなく詰めること。銃を持っている者にとって距離を詰めるということは、最高のアドバンテージを捨てることになる。
そんなことは燈花自身も分かっているが、彼女の武器はそこではない。
「はぁっ!」
距離詰めてきたことで右の銃口はアッシュの眼前に。
手の甲で銃身を弾くようにして射線を反らし、アッシュ自身も燈花に近づく。だが燈花の『天羽』は二丁拳銃。左の拳銃が腹部に当てられる。
膝蹴りによって腕ごと蹴り上げると、『美爆猪獄』を振り下ろす。
サイドステップでアッシュの右側に移動すると左で鉈本体を狙い、右でアッシュ自身を狙う。
(絶対に刀身に、刃に触れたらダメだ。負けが決まる!)
燈花の考えは間違いではない。
アッシュの使用するデバイス『美爆猪獄』の刀身には、どこに触れても発動する爆発魔法が仕込まれている。つまり、燈花が触れるとどこまでの威力で発動するかは不明だが、大きなダメージ受けることは間違いない。
「カズ君はぁ……どこだぁ!!」
「そんなことボクが知る訳ないでしょう!」
振り下ろされる大鉈を避け、右側面に回り込んだ。
狙いはアッシュの頭と『美爆猪獄』の刀身。そこに向けて2発魔力弾を撃ち込む。
それを横目で確認したアッシュはバックステップし、方向転換すると彼女が狙うのは燈花ではなく二人の間の地面。
アッシュの意図に気がついたが間に合わない。
『美爆猪獄』が地面に触れた瞬間、爆発。砂や石つぶてが燈花の視界を奪うと同時に襲いかかる。
「甘いっ!」
視界は0、とはいかないまでも最悪な状況になった。だが、燈花にとっては意味がないこと。
『全能者の眼』を発動したことによって燈花の視界には砂煙の向こう側。アッシュの動き、場所が全て手に取るように分かってしまう。
一発目はアッシュが動こうとしている方向とは反対側。これはわざと外しアッシュの動きを誘導するためである。だが、アッシュは方向を変える。
燈花は、自身から見て左にアッシュを誘導しようとした。しかし彼女は自分で作り出した砂煙を飛び越えるようにして燈花の目の前に現れた。
「やっぱり見えてるのね、その目」
「っ!」
この眼のことは自分自身を除いて知っているものは学園長の叶江と、担任である風路だけ。クラスメイトはもちろん、家族だってこのことを知らない。
他の誰にも言っていなかったのには理由がある。それはこの魔眼が万能過ぎるゆえに、存在を知った何者かに悪用されてしまうことを恐れたのだ。
幸いなことに燈花が初等部に入学するまで誰にも露見することなく、今日まで過ごしてきた。はずだった。
(マズいマズいマズい……先生にはクラスメイトにもバレるな、って言われてたのに。どうする……今すぐ先生達に連絡して、これに関係する記憶だけを……)
「だったら……」
「え?」
「だったら、カズ君の場所を教えろぉぉぉぉぉ! あの雌豚共よりも先に、私にはカズ君と繋がる権利があるんだぁぁぁ!」
「そっち!?」
目のまで血涙ながしながら、とんでもないことを叫ぶ変態がいた。
この目について追求してくるのかと思いきや、自分の欲望を優先している。燈花自身、目の前の人物が一真が目的だと手段を選ばないことをすっかり忘れていた。
以前に1度だけ暴走していたこと、たった今思い出した。
(というか、どうしてアッシュは砂煙の向こうが見えただけで遠見の力がボクにあるって判断したんだ? もしかし本能で……この変態ならありそう)
ホッとしたが、問題は残っている。
目の前で簡単な思考の暴走を続けているアッシュを止めなければこの後も一真を探せと言われ続けることは分かりきっている。《白き百合(リヒト・リーリエ)》がいつ攻めてくるか分からない今、一真がやるように吹き飛ばすなんてことは出来ない。
しかし重い一撃でなければ止めることは難しいだろう。
「ふー……アッシュ、少し痛いですけど我慢してくださいね」
一真、隆浩をこのクラスの筆頭とするならば、その次に名前が挙げられるのは千歳、一美、アリス、アッシュの四人。この六人ははっきり言って化け物と呼ばれても誰もが納得するが……そんな彼らに追いつこうと、クラス全員が努力している。
二丁拳銃を持っていると言うことから想像されやすいのは、拳銃と徒手空拳を使用して近距離戦闘。もちろん燈花も、入学してしばらくは近接戦闘をメインの戦闘スタイルを取っていた。しかし選択肢を持たなければなくなったのは、とある男子生徒の転入であった。
それまでは彼女がクラス内で最も実力を持ち、誰にも負けることはなかった。だが、初めての負けをしった。それ以降燈花は今以上に強くなることを目指した。そして見つけたのは近、中、遠距離全てで戦うことが出来ること。
今となっては当たり前のようにクラスメイトの皆が出来ることであるが、当時は自分の長所を伸ばすことが当たり前の時期。そして誰よりも最初に、その戦闘スタイルを確立した。
更に言えば全ての距離で攻撃出来ても、得意な距離という物が存在する。一真は近距離、どの距離でもと言っている一美でさえ一番得意なのは遠距離である。だが、燈花にそれは存在しない。
「はぁ!」
一直線に振り下ろしてくる『美爆猪獄』を左の銃で受け止める。
刀身に触れたことにより爆発は起きない。アッシュ自身もデバイスに対して爆発を起こしても、燈花にはダメージが少ないと判断したのだろう。
燈花は受け止めたと同時に右の銃で顔面を狙う。
それに気がついたアッシュは逃げる訳ではなく、更に燈花に身体を近づける。
「くっ……」
右の銃の引き金を引くが、刃が近づきそれ避けるために身体を動かしたため狙いが外れてしまう。
だが、燈花は冷静だった。
身体は後ろに反れて、体重も後ろにかかってしまっている。
銃撃戦を行うための体勢としては、完全に崩れてしまっていた。アッシュもそれが分かっておりトドメの一撃を狙ってくるが、誤算が1つあった。
燈花の魔力色は黄緑、風に対応する魔力色である。
「っ!」
燈花の胸部を狙って振り下ろされた大鉈は風が壁となって妨げる。
その風の塊を爆発させて、大鉈を弾くと反っていた体勢を完全に修正。腰を落として、右足で大きく踏み込む。
燈花の足元に展開する黄緑の魔方陣。
アッシュは魔方陣の上から逃げることを選択したが、それは大きな間違いである。燈花が狙っているのは、アッシュが自身から距離を取ること。
今から放とうとしている魔法を至近距離で放つと巻き込まれてしまう可能性があるからだ。
「ふぅ……」
『天羽』の銃口の前に直径1メートルほどの大きさがある魔力球が出現する。
そこへ更に魔力を注ぎ、圧縮していく。最終的には直径3メートルほどの大きさがある、高密度の魔力球が出来上がった。
これだけなら負けるなんてことはそうそうないだろう。しかし目の前にいるのは十三組の化け物の一人。そう簡単には勝たせてはくれないことは、彼女自身も理解していた。
アッシュが手に握る大鉈の刀身。
それが高温で熱したかのように真っ赤に染まっている。燈花自身、今まで行ってきた模擬戦でも一度も視たことがない『美爆猪獄』の状態。
驚きはあっても、それ以上の動揺を見せない。狙いを正確に、アッシュに向けている銃口を反らさないようする。
「吹っ飛べ、『ベネトレイト・ブレス』!」
引き金を引くと同時に放たれた黄緑の砲撃は、衝撃波で地面の表面を削りながらアッシュへと一直線に向かっていく。
アッシュは向かってくる砲撃に対し背中を見せることなく、スカートなのにもかかわらず大股で足を開いて深く腰を落とす。そして真っ赤に染まった大鉈を右の腰に添えた。
それはまるで抜刀の体勢。
そしてこれは一真が抜刀を行うときの姿にそっくりだった。
「『爆発の大花』!」
振り抜かれた大鉈は砲撃と直撃する。
同時に砲撃は『美爆猪獄』の作り出した爆風に飲み込まれていく。だが、その爆風が向かう先には誰も居ない。その代わりにアッシュの周りには数十、いや百はあるだろうか。それだけのスフィアが所狭しと浮いていた。
「マジ……」
「マジですよ」
背後の森から出てきた燈花の表情は視た相手に恐怖を感じさせるような、冷たい冷たい笑顔が張り付いていた。
いつの間に、と出そうになったが砲撃を打った直後に移動したのだろう。アッシュに砲撃そのものが届くまでにはそれなりの時間も存在する。アッシュ自身もあの威力の攻撃に対しては、他に意識を持っていくことは出来なかったと言うわけだ。
「少しは頭を冷やしてくださいね」
このスフィアの数と配置は『全能の瞳』で視ることが出来た、アッシュが絶対に対処出来ない物。アッシュ自身、この光景をみた瞬間に対応しきれないと判断してしまった。
だからこそ暴走していた思考も冷静になることができた。
「えっと、委員長」
「何ですか?」
「笑顔が怖いのだけど……それと、降参するから――――――」
「拒否します。ですから、心のそこから反省してくれることを願いますよ」
スフィアの配置を絶対に換えることはない。
今解除すれば、その隙からアッシュが逃げ出す可能性も瞳よって視ることが出来ているからだ。だからこそ燈花は、目の前のクラスメイトの完全な敗北を視るまでは緊張を解かない。
右の『天羽』を天に掲げ引き金を引く。
「ゲイル・ボルテックス!」
全てのスフィアが1つになった後は一瞬だった。
緑の光がアッシュを飲み込み、燈花の視界から彼女の姿は完全に消え去る。
燈花が今使用した魔法『ゲイル・ボルテックス』は本来上位魔法に匹敵する。威力をある程度落としていたとしても、一撃でほぼ戦闘不能にすることの可能な魔法であることは間違いない。
他のクラスの生徒から視たらやり過ぎであるが、このクラスにとってはそうでもない。特に化け物と呼ばれる筆頭二人と、それに続く女子達を相手にする場合は。
「カズ……君……」
一真の名前だけ言い残してアッシュは意識を失った。
その姿はほぼ無傷だが、身体には痛みだけが蓄積していた。
あの魔法が当たる直前に防御系の魔法を発動させたようだが、痛みだけは受け流すことが出来なかったようで完全にノックアウトしてしまったという訳である。
「ふぅ……他の二人は……止まったみたいだね」
『全能の瞳』に移った一美とアリスの姿。
一美は拘束魔法を何重にもかけられ身動きをとることも出来ず、アリスは手を上げて負けを認めていた。これによって暴走娘対十三組というイレギュラーな戦闘は十三組に軍配が上がることとなった。
しかし燈花としては実力よりも、彼女達が若干理性のネジが飛んでいたことが勝つことの出来た要因だと考えている。だからこそ、今まで以上に努力が必要なのだと考えることが出来た。
「それにしても……あの三人はどこにいるのさ」
先の戦闘中、アッシュが一真の居場所を聞いたときに答えることが出来なかったのには理由があった。自身の眼のことを答えないようにという物もある。だが、一番の理由はどういう訳か視ることが出来なかったのだ。
今まで、結界があろうとも関係なく自分の視たい物は全て瞳の力で視ることが出来ていた。しかし今回は影1つ、彼女の瞳には映ることはなかった。
初めてのことであり何が原因でそうなってしまっているのか、全く解明することは出来なかった。
3
「らぁっ!」
九頭龍の魔力を纏った黒月が、神無の姿をした九龍の頭上めがけて振り下ろされる。しかしその軌道は僅かばかり九龍の脳天よりズレている。
俺の意識ではまっすぐ狙っているつもりでも、俺の中にある何かが勝手に軌道修正をかけやがったんだろうな。
「ちっ……」
「ホントスゲぇな、お前の呪いは?」
「呪いじゃねぇ!」
あれは九龍で、姉の神童神無なんかじゃねぇ。
何度も何度も、俺自身に言い聞かせている。言い聞かせてから魔力を流し込むが、それさえも俺の中に何かが妨げているような感覚がする。はっきり言って気持ちが悪い。
目的の狙いからズレた刀身は簡単に障壁によって防がれてしまう。
クソッタレ……認識を変えなきゃならねぇ。これから先、姉さんの姿をした奴が現れたとき同じようなことになる。
「ぐっ」
「どうしたよ、来ないならこっちから行くぞ!」
一瞬で間を詰めた九龍に俺の反応は完全に遅れた、だが対処に遅れてしまう訳ではない。
振り下ろされようとしている拳に対して、俺が狙うのは九龍自身の身体。
『神降ろし』を発動していても、”九”を名前に持つ契約獣自身を相手にするのは分が悪すぎる。その攻撃を受けるなんて自殺行為過ぎる。だからこそ、
「九龍之太刀二刀・刀牙!」
ドォンという轟音。
手応えとしては躱されたような感覚はないが、攻撃が当たったという感触でもない。見れば刃はコーティングされた手で掴まれていた。
九龍自身の魔力だから対処しやすいんだろうな。だから完全に威力を殺して受け止めることが出来たんだと思う。まあ、それだけじゃねえんだろうが。
俺を巡る九龍の魔力が、いつもより少ないことは理解している。
「おいおい、これだけか? これくらいなら”九”の付かない契約獣との契約者でも出来るぞ」
「あぁぁぁああぁぁぁ! くそ面倒くせぇ!」
うぜぇ。
自分で作り出した物なんだから、少しは融通きかせろよな……認識の変更か。
多分、あの時は家族という……ん、家族? おいおいおいおい、そういうことか。それはそれでめんどくせえな。
認識もクソも、こいつも括りに入ってるということか。
九龍を見れば既に拳を振り上げて攻撃態勢に入っていた。
「おい、九龍。ストップだ」
「ん?」
「やっと分かった」
「何がだ?」
「姉さんの姿をしているだけのテメエにまで呪いが発動しているのか」
ずっと契約獣と思っていたんだが、そじゃなかったみたいだな。いつからか分からんが、俺の呪いは別の判断を下していたらしい。
その判断くらい、俺が気づいてからでもよかっただろうによ。
「オレが神無の姿を――――――」
「お前が家族だからだ」
「は?」
「俺の誓いの発動条件は、多分俺が家族と認めた人物を守ること」
唖然とした表情が俺を見ている。
まあ、当たり前だ。今まで契約獣以外では化け物、物の怪とか位にしか見られていなかった奴が、突然家族とか言われるんだからよ。
だが、今俺にとって問題なのは誓いが俺自身にも発動していること。
「ふぅ……再開だ。次の襲撃までにやることがあるんだからよ」
はっきり言って今のままでは通常の姉さんにはもちろん、あの女のいいなりになったままの姉さんにすら手が届かない。あの夜も何も出来ないまま『嵐王の聖域』に呑まれた。
しかも九龍に聞いた所によると、俺は誓いの魔力で『嵐王の聖域』を破壊して、アッシュの魔法から姉さんを守ったというじゃねえか。多分、誓いが俺の身体を動かしたんだろう考える。
「くくく……あーはははは!」
「ん? どうした?」
「初めてだ、オレを家族なんて言ったバカはよ。はぁ……笑った、笑った」
「時間がねえんだ、笑ってる場合なんてねえんだよ! さっさと――――――」
「少し待て。1つ聞かせろ、相棒。いや、神童一真。お前はどうして力を望む?」
それは3年前。俺が初めて九頭龍と出会い、その時と同じ物。
力を求めて九頭龍の力を求めるために、俺は九頭龍神社に来ていた。
「俺のためだ。俺が俺自身の手で家族を守る! その誓いを守るためだ!」
「誰に誓った?」
「俺の魂、俺の自身の存在全てにだ!」
「いいだろう、貴様にその機会を与えてやる! 存分にその力を振るうがいい!」
《つづく》




