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インセンシブルドール  作者: 秋島夏里
任務依頼(リクエストレター)
1/2

Feel recollection 01

 どれだけ掛かろうとお前を救ってみせる。

 この身が獣に溶けようとも、俺はお前を一生守る。

 走っていた。

 豪雨の中で、服が滲むのを気にせずに、何かから逃げるように整備されたコンクリートの歩道を走っていた。

 なんで走っていたのか、当時六歳の私には分からなかった。

 たぶんとても腹が立っていたんだと思う。

 あの日は家へ帰るのがとても遅かった。

 それでお兄ちゃんに叱られた。

 だから怒った。お兄ちゃんは心配してたのに…、すべてお兄ちゃんが悪いんだって、全て押し付けて…

「おーい、―――どこだぁぁぁッ!」

「お兄ちゃん…」

 私の名前を呼ぶ声がした。雨のカーテンの向こう側で、雨にも負けない強い声で。

 家の方向からだ。お兄ちゃんが追いかけてきたのだろう。

「…ッ!!」

 また逃げてしまった。また怒られるのが耐えられなかったから。

 喜ぶ顔が見たかった。お兄ちゃんの笑顔が見たかった。

 ありがとう、って言って頭を撫でて欲しかった。

 あの暖かい、優しくて、大きな手に触れたかった。

「うぅッ――」

 頬に水の塊が伝って、地面に落ちた。

 降りしきる雨粒とは違う、とても意味を持った感情の粒。

「帰りたい…」

 でも帰りたくない、帰れない――

 お兄ちゃんの心配の怒りで歪んだ顔が見たくないから。

 タッタッタッ――

 足音が近づいて来る。お兄ちゃんが間近に迫っている。

 相手は九歳の男の子だ。日々友達と呼べる存在と遊んだり、走ったりして培っている体力と私とでは比べ物にならない。

「痛い…」

 走りすぎで足が痛い、呼吸するのが痛い。

 お兄ちゃんの足音を聞く耳が痛い。

「うッ――」

 こんな思いしたくない。

 私はこんなの望んでいない。

 嫌だ、いやだ、イヤだ――

 もういや、何も感じたくない。

 この体を打つ雨粒も、足を襲う感覚(いたみ)が、胸を襲う感覚(くるしみ)が、お兄ちゃんに怒られた事で心が(いだ)いた感覚(かなしみ)が…

 ――感じたくない。何も感じたくない。感じるモノ全てが無くなってしまえばいい…

「汝、何を望む」

 ドンッ、と何かにぶつかり、私は倒れた。

 もう立ち上がれない。だけど何にぶつかったか確認しないと。

 そう思い見上げてみると目の前には黒い服を身に纏った男性がいた。

「ごめんなさぃ…」

 謝った、掠れた声で謝った。

 しかし、男性は無表情を突き通し、ただただ私を見つめていた。

「あ、あのッ…」

「もう一度問う。汝、何を望む」

 目は口ほどに物を言うとはこのことをいうのだろうか。

 まるで君の願いを叶えてあげるとでも言っているかのようだった。

 だから私は答えた。


「私は――――」


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