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22.花火大会の夜に中学生とアイドルに告られる

『黄金の乙女』

世界にたった一人の至高の存在。

その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。

伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。


これまで

1.星野翔真 転生者。アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。

2.進藤君也 転生者。三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。

3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。千枝美琴と付き合っている。

4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。

5.仁平茂樹 転生者。株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。

6&12.富永悠一 転生者。ファストフード店元アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。夜道であやめを襲うも失敗。日本政府によりあやめ達から遠ざけられる。

7.島畑和毅 転生者。塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。

8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。

9.清水良治 転生者。病院勤務内科医 母親の再婚相手としてあやめに近づいたが失敗。

10&19.野村正貴 三崎第二中学二年 市民プールで告白するも、あやめに諭される。市立図書館で再開し改めて告白するも、夏休みの終わりに下されるあやめからの回答待ち。

11.内藤洋二郎 転生者。雑誌編集者 原宿であやめ達に声をかけたが失敗。

13.海道信哉 警視庁SP 監禁中のあやめを救おうとして失敗。重傷を負う。一時的に『黄金の乙女』の力を発動出来る様になる。

14.氏名不詳 某国大統領 あやめと付き合いたいと伝えるが失敗。

15.渡辺慎之介 転生者。旅行代理店勤務 旅先のホテルであやめに恩を売ろうとするが失敗。

16.常盤隆人 転生者。書店員。あやめに告白するが失敗。この世界での安住を望んでいる。

17.小田原雅和 外務省事務次官。あやめと付き合いたいと伝えるが失敗。

18.戸川健二 転生者。市民病院の泌尿器科医。あやめと結婚を前提に付き合いたいと伝えるが失敗。

20&21.大窪高保 転生者。産婦人科院長。ちえみの件をネタにして、あやめに交際を了承させるが、あやめの制裁を受けて断念する。


大窪高保の件もめでたく解決し、いよいよ花火大会当日となった。

私は朝食を摂ると、ブルーシートを持って、場所取りに出た。もっとも一人で10時間座っていることは不可能なので、お昼近くにちえみに30分くらい代わってもらって昼食を摂り、15時くらいにやすこに来てもらい、家に帰ってシャワーを浴び浴衣に着替える予定である。

既に幾つかのグループがブルーシートを敷き、スぺ―スを確保していた。私も負けていられない。5人が座って花火を見られるだけのブルーシートを敷き、四隅に風で飛ばない様に石を置いた。

これで仕事は終わり。あとはここを死守するだけである。夏の暑さと退屈さに負けず、座ってさえいればいい。炎天下の中、数学の問題集に取り組む気にはならなかったので、何束かの英単語カードを持参した。英単語を見て、日本語の意味を記憶しているか確認する、逆に日本語から想起される英単語を確認する。思えば英語の勉強をするのは久しぶりであった。前に勉強したのは、外務省により無理矢理英会話を学んだ時だ。その時、大統領と知り合いになり、初恋と失恋を経験した。思い出すと、まだ胸が痛む。だけど留まっている訳にはいかない。私の為に怪我をした海道さんの為にも前を向いて進む必要がある。これからも『黄金の乙女』を求めて色んな男が近付いて来るだろう。そんな男達を排除する為に、多くの転生者達を傷付ける事になる。その事に関して私は何の躊躇もしないだろうが、せめてもの罪滅ぼしとして傷付いた人を助けられる人間であろうと思う。

「あや、お疲れ様」

ちえみが現れたのは、当初の予定通り正午近くであった。ちえみは既に浴衣着用で、Tシャツにデニムという私とは大違いだ。

「ちえみ、しばらくの間座っていてね」

「あやは何をするの?」

「う~ん、近くのファストフードでランチする予定だけど」

「それなら、私が買ってくればいいんじゃないの?」

「・・・ちえみ、私だって少しはエアコンの効いた部屋で涼みたいのよ」

「それもそうね。じゃあ、ごゆっくり」

私は駅近くのハンバーガーショップへ行った。富永悠一が働いていた店舗である。ちょっと胸がドキドキする。あんまり長居するとちえみが熱中症にかかるのではないか、という恐れがある。私は猛然と食べ始めた。


「ちえみ、お待たせ」

私が、ぐったりとしているちえみに声をかけた。

「あや、待ちくたびれたよ。・・・まさかわざとゆっくり食べたんじゃあ・・・」

「それはないよ。寧ろ急いで食べたぐらいだし。・・・あとは私が場所取りを再開するから、ちえみは夏祭りを楽しんでおいで」

「・・・そうするわ。ところで、あやはここで何をして、時間を潰しているの?」

「英単語の記憶のチェックよ。単語カードを何束か持って来たからね。花火大会までに何回か確認して、覚えられるからね」

「・・・あや、本当に医学部にチャレンジする気なんだね」

「違うよ。大学入試にチャレンジするんじゃないの。お医者さんになるつもりなの。私のおつむでは今から本気の受験勉強をしなければ間に合わないからやっているだけよ」

「あや、怒ってるのならごめん、謝るわ」

「いいよ。気にしてないから。誰から見ても、無茶だと思うでしょうからね。・・・ちえみはさっさと行きなさい」

「じゃあ、私は行くよ。そろそろ待ち合わせの時間だし」

ちえみは見城君との待ち合わせ場所へ行ったので、私はひとりで単語カードで遊んでいた。裏→表、表→裏の確認も2回程繰り返すと、ほぼほぼ正解となる。単語カードは数束あるので、シャッフルしようかなとも思ったが、野外なのでアクシデントで散逸するのが少々怖い。別にカードが無くなるのは構わないが、ここにいる人達に下手くそな字がバレるのがイヤだった。しょうがない、もう1回見直そう。やすこが来て家に戻る際に、他のものに代えよう。

結局単語カードの3巡目にトライすることにした。それにしても暑いなぁ。ちえみじゃなくても、熱中症になりそうだ。私が必死に単語カードに集中しようとした時、どこからか呼ばれたような気がした。誰だろう?私は周囲を見回した。

「九条さん、こんなところで何をされているんですか?」

Tシャツにデニムという格好の野村君だった。

「何って見ての通り、花火大会の場所取りよ」

私の言葉に、野村君は何だか緊張しているかの様に言葉を詰まらせながら尋ねて来た。

「九条さんは・・・誰と・・・一緒に・・・花火大会を・・・見られるのですか?」

「残念ながら、悪友二人とそのカレ氏よ」

「・・・まさかのトリプルデートですか?」

「そのまさかはないわ。私はぼっちなのよ。だから、ここで場所取りなんかしているのよ。朝からここにいるんだけど、こんなに日焼けしちゃった」

私はTシャツの袖をちょっとまくって、日焼けの境界を見せた。彼の顔がますます赤くなる。

「ここに丸一日いたら、熱中症になるかもしれないじゃないですか!ちゃんと対策されていますか?」

「ああ、その点なら大丈夫。お昼前と3時頃に友達が来て、短時間だけど代わりに場所取りに座ってくれる、という訳。もうすぐ3時だから、休憩できるのよ」

「じゃあ、その休憩時間・・・」

「う~ん、家に帰って、シャワーを浴びて、浴衣に着替えるだけで休憩時間終わっちゃうかな。ちょっとは、夏祭りを楽しみたかったけどね」

「・・・そうですか。大変ですね」

「去年は受験勉強で花火大会どころではなかったからね。だから、野村君も見れるなら今年見ておいた方がいいわよ。来年は多分見る余裕はなくなるからね」

「そうなんですね。九条さんでそうだったのなら、成績の悪い僕はもっともっと頑張らないといけないのですね」

「そうかもね。三崎東高校を志望するのだったら、ね」

野村君は無言だった。私から話しかける話題も無く、沈黙が続いた。


「あや、お待たせ」

浴衣姿のやすこと齋藤君が現れた。お揃いの柄の浴衣での登場だった。

「時間通りね、やすこ。じゃあ、場所取りお願いね」

私が立ち上がろうとした時、やすこに肩を掴まれていた。

「ちょい待ち。あや、その男の子について説明してくれないかな」

やはりそうなるか。

「この子は野村正貴君。中学二年生よ。この間ファミレスで言った子よ」

横に座っていた野村君が無言で一礼する。

「ふうん。・・・それでどこで知り合ったの?」

「皆でプールに行った時があるでしょ、その時よ。その後、何度か図書館で会って話をしているかな」

「ふうん。あや、彼に感謝しなさいよ。体調不良で色気も無い恰好だったあなたを、見初めてくれたんだからね」

「体調不良でも、元々の美貌は隠しきれなかったのよ、多分ね。・・・じゃあ、そろそろ休憩に行くよ。やすこ、ちゃんと場所取りしておいてよ」

私は立ち上がりながら言った。今回はやすこの妨害はなかったが、私と共に立ち上がろうとしていた野村君をがっちり押さえていた。

「勿論、ちゃんと場所はするわ。本当はどうやって時間を潰そうか、何も思いつかなくて想意君を連れて来たんだけどね。・・・まあ、野村君に色々と聞きたい事もあるし。きっと野村君も興味ある筈よ。私はあやが自分からは言わないあやの本性を知っている訳だし」

「やすこ、野村君に変な事吹き込まないでよ。じゃあ、しばらく休憩するから、場所取り宜しくね」

私はの野村君に若干の罪悪感を感じつつ、休憩する事となった。


家に戻ると、早速シャワーを浴びて汗を流す。それからインナーを付けた後、ふと考える。これから、花火大会へ行く訳だ。まだまだ暑いし、人出の多いところなのだから予期せぬハプニングがあるかもしれない。インナーの上に浴衣という恰好は、いささか警戒心がないのではないか、私はTシャツとスパッツの上から浴衣を着る事にした。しかしこれでは先程より厚着ではないか。

仕方が無いので私は厚さ対策グッズを追加する事にした。タオル、水筒、制汗スプレー、ハンディファンに団扇、これくらいあればなんとかなるか。後は花火大会が始めるまでの時間潰しの為のグッズだ。単語カードは飽きてしまったが、折角英語脳になっているのだから二学期の予習をしてしまおう。教科書にノート、筆記用具を持って行くことにした。わからない単語はスマホ先生に尋ねることで、和訳をどんどん進めてしまおう。


「お待たせ」

私が三人の所に戻ると、その表情は三者三様だった、元気一杯のやすこに、疲れ切った表情の野村君、彼女の行動に呆れ顔の齋藤君という感じだ。

「やすこ、あんた野村君に何をしたのよ」

「別に。私は野村君の気持ちを聞いただけよ。そのお礼に、野村君の知らないあやのエピソードを教えてあげただけよ。じゃあ、私達は夏祭りを楽しみに行くから、場所取りを宜しくね」

二人は立ち上がり出て行こうとしていた。

「やすこ、野村君に何を話したの?」

「それは野村君に訊いたらいいじゃない。花火大会が始まる迄の時間つぶしになるでしょ。それじゃあ、ごゆっくり~」

やれやれ。私は野村君と横に並ぶように座った。

「野村君、ごめんね。何か根掘り葉掘り聞いちゃったみたいで」

「いえ、九条さんの知らない側面が知られて有意義でしたよ」

「やすこがどんな事を吹き込んだのか知らないけれど、幻滅してない?」

「いえ、そんな事ありません。ますます九条さんの事が好きになりました」

「そう、じゃあよかったね。・・・はい、この件についてはもう終わりにしましょう」

私が言うと、野村君は怪訝な表情をした。

「どうして・・・安河内さんが僕に話した事、気にならないんですか?」

「私はあんまり人にどう思われているかについて、気にしていないんだ。そりゃあ、最初の内は怖かったけど、もう慣れたと言うか・・・ね。だから、今もこうして素顔でここにいるし。それに、やすこは私の親友だよ。親友が自分の判断で、私の為に言っておいた方がいいと思って野村君に話したんでしょ。だったら私はやすこの判断を信じるわよ。第一、もうやすこは話したんだし、過ぎた事を気にしても仕方無いじゃない」

私の言葉に野村君は納得していない様だった。しかし、私に気を遣っているのだろう、言葉を選びながら言った。

「九条さんは強くて、ブレないんですね」

「そんな事無いよ。いつも後悔ばかりしている。私の行動が適切でなかった為に、多くの人を傷付けている。これは事実。・・・だからこそ、今度は正しい選択をしよう、と思っているんだ」

「九条さん・・・」

「ごめんね。暗い話で、せっかくの夏祭りなんだから、もっと明るい話をしましょう」とは言ったもののなかなかいい話題が思いつかない。結局は学校の話題とか、テストへの対応等の当たり障りのないものとなってしまった。野村君、こんな会話をして楽しいんだろうか・・・。

「ねえ、野村君、喉乾かない?麦茶でよかったら持って来たんだけど飲む?」

私が水筒を差し出すと、野村君は躊躇する素振りを見せたが受け取ってくれた。そして、目を瞑って勢いよく飲んでいた。

「すいません。半分ほど飲んじゃいました」

「いいのよ、気にしなくても。私も丁度飲みたかったところだから」と返って来た水筒の残りを飲み干した。意外と早く無くなった。野村君、ちょっと飲み過ぎだよ。

さて、どうしようかと考えていた時、頭上から声がした。

「お嬢さん、隣に座ってもいいかな?」

私が見上げると、そこには浴衣姿の長身の男が立っていた。長髪でサングラスをかけていたが、私には正体はバレバレであった。ちっ。私は思わず舌打ちしてしまった。

「構わないわ。断ったとしても、あなたは勝手に私の隣に座るんでしょう」

「まあ、そういう事だな」

長身の男がゆっくりと私の隣に座った。

「九条さん、この人は一体誰なんですか?」

「野村君、あなたも知っている人よ。私をこんな騒動に巻き込んだ張本人よ」

「それじゃあ、この人はバイバタの星野翔真さんですか?」

「そうよ。・・・それで私が花火大会に来る事は誰から聞いたのかしら?やすこ、それとも齋藤君かな?」

「それはどちらからでもいいんじゃないか。あの二人は付き合っているんだろ」

「一流芸能人ともあろう者が、只の高校生の誘いに乗ってこんな所に来るなんて、何を考えているのやら。私の他がカップルだから、バランスが悪いと思った二人のどちらかがあなたに頼んだんでしょ。あの二人はあなたの立場なんかは考えていないのよ。ただただ自分達の事と、私の事を考えただけよ。わかっているでしょ」

「ああ、わかっている。敢えてその誘いに乗ったんだ。俺が君に会う機会を逃すとでも思っているのか。・・・ところで、あや、この少年は誰だ?弟がいるとは聞いていないんだが・・・」

「それはそうよ。あなたにプライベートなことを教える筋合いもないし・・・まさかやすこや齋藤君から聞いた話だけで私を理解したつもりになっているの?私はそんなに単純な人間じゃないわ。・・・こちらの男の子は野村正貴君。最近よく図書館で会って話しているお友達よ」

野村君は不機嫌そうな顔のまま、ショーマに一礼した。

「よろしくな、野村君。ひょっとして君は俺のライバルという事ななるのかな。まあ、君も誇ってもいいぞ。他ならぬあやの良さに気付いた自分の審美眼にな。だけど、ここからは中学生だからと言って、容赦はしないぞ」

「望むところです。安河内さんから色々と聞かせていただきました。僕の立場が不利な事はわかっていますが、だからと言って何もしないで引き下がる事は出来ません。ライバルが何人いようと、それがどんな人間であろうと、僕が九条さんの事を好きな気持ちは変わりませんから」

「一つライバルに忠告しておこう。あやは本人の意志に関係なく、やたらとモテる。だからあやに声を掛けてる男がいても、動揺しない事だな。その男をフるのはほぼ確実だからな」

「それは、あなたがカレ氏であるからですか?」

「・・・違うな。俺の見立てだと、君の方が俺よりも遥かにいい立場にいると思うぜ。俺はあやに不信感を抱かれているからな」

「一体何をやらかしたんですか?」

「それは世間一般が知っている事だ。あれ以上のやらかしは無い」

「そうでしたね。・・・でも、あれはわざとなんでしょ?」

私越しにされる会話を聞いていて、私はむかむかしていた。

「ちょっと何、私を無視して私の話をしてんのよ。特にショーマ、あんたは私の事を知らないくせに何をわかった様な事を言っているの。言っておくけど、やすこと齋藤君をスパイに使おうとしても無駄よ。二人には全てを教えている訳でもないし、敢えて歪んだ像を見せているからね。二人の話を鵜呑みにしていると、あなたにとって不都合な事になるわよ」

「どういう事だ?」

「私はあなたを信用していない。私が落ち込んだ時に励ましてくれたのは感謝しているけれど、立ち直るきっかけにもならなかったのは確かね。少なくとも私が信頼できる人材にならないと、先は無いわ」

「おい、それはどういう事だ」

「・・・やれやれそんな事もわからないの?私は今、自分の身を守る体制を構築中なの。この体制の中に入れなかった者は必然的に私の敵となるわ」

「俺もその組織に入れ、と言うのか?」

「いいえ。組織なんかは作らない。私がバラバラの個人に依頼するだけよ。その体制の中で個人は駒として生きる事を許されるのよ」

「・・・恐ろしいな」

「何を言ってるの。きっかけはあなたの軽はずみな言葉なのよ。私はそのとばっちりを受けているだけよ。そのせいで多くのものを失った。あなたはまだ生きている、それだけでも感謝することね。・・・それから、野村君」

「はい・・・」

「私の話を聞いてくれていた?全部を理解しなくてもいいけど、私と付き合うという事は、私が受けている理不尽な悪意を、あなたも引き受ける事になるの。精神的なものだけじゃなく、暴力も含めてね。言っておくけれど、あなたと知り合ってからまだ一ヶ月くらいかしら、その間に私に関わった二人の男が大怪我しているの。一人は私のミスで大怪我する事になった。彼は顔も名前を変え、家族にも会えない立場になったわ。もう一人は私の制裁を受けて、杖無しでは歩けない身体になったわ。私と付き合うにはこれ位の暴力をはねのける実力と覚悟が必要なの。あなたの受験の面倒は見てあげられるけれど、付き合うのはまだ早いかな、というのが私の気持ちよ」

「・・・」

あらら二人共黙ってしまったな。

「まあ折角の花火大会だし、そう深刻にならなくてもいいわよ。二人に私の気持ちを正直に話したけれど、まだ友達でいてくれるなら、ここにいて下さい。気持ち悪い女だな、と思ったのなら帰ってくれてもいいわよ。その事について、私は恨まないし、責任を負わなくて済む事にほっとする面もあるから」

二人共その場から立たなかった。良かった・・・。見知らぬ人間から向けられる悪意には耐えられるけれど、懇意にしていた人間に嫌われるのは耐え難いものがある。

「・・・ありがとう」

私は二人に聞こえないぐらいの小声で言った。


いつしか、花火大会の開始時刻まで1時間を切っていた。

私達のいる場所にも三々五々人が集まって来る。

「おー、あや、両手に花だねえ」

軽口と共にやすこと齋藤君がやって来た。

「あや、もう少し広めにスペース確保出来なかったの」

やすこ、今更それを言う?

「しょうがないでしょ。最初は5人で見るつもりだったからね。・・・あ、あと2人来るからね。詰めて詰めて」

私はやすこに反論しつつ、ゲストの二人に言った。野村君はこの雰囲気に居辛いのなら解放するつもりだが、ショーマにはあと30分から1時間は居て欲しかったので、席を詰める事で逃がさない様にするのだ。

「あと2人って?」

ショーマの問いに私は簡潔に答える。

「私の親友と、そのカレ氏よ」

「ふうん、良かったよ。ちゃんと高校生しているんだ。・・・俺が全てブチ壊してしまった、と思っていたよ」

どういう事?ショーマは私の事を心配していたの?そんな事は無い。こいつは『黄金の乙女』を狙っているだけなんだ。

「私も友達も、あんたの悪戯で壊れる程の弱い関係じゃないわ」

そうだ。私にとってこの二人は絶対だ。二人の為なら私は修羅の道を歩むことを厭わないだろう。それを二人が望んでいなくてもだ。

「やすこ、あや、お待たせ」とようやくちえみが見城君を伴って現れた。ちえみ達を待っているグループの中に、想定していない人物が二人混ざっている事に気付いた様だ。

「・・・え、嘘、まさか、本物なの?・・・凄い、凄い!あや、どうやって呼んだのよ」

・・・ちえみ、興奮しすぎて見城君の事を忘れているぞ。

「別に呼んでいないわよ。どこから嗅ぎつけたのか、勝手に来たのよ」

ちえみの様子よりも、初対面の筈のショーマと見城君の様子に私は興味があった。既に既知の間柄だったのか、初対面で転生者である事に気付いたのか、そういった事が表情に現れるのではないかと思ったのだ。私は特に見城君の表情をショーマのサングラスに写った画像で確認していたのだが、特に不審な点は見受けられなかった。勿論、ショーマの表情にも変わりは無かったが、芸能人であるので本心を隠す事には慣れているだろう。即ち、二人共決定的なボロを出す事無く、この局面を乗り切ったという訳だ。私にとっては見城君の正体を確認出来なかったという事になった。仕方が無い。次の機会を待つとしよう。

「ちえみ、さっさと座ったら。もうすぐ花火始まるわよ」

「そうだね」

ちえみは私の前に座ったのだが、隣に座っている見城君よりも、背後にいるショーマに興味津々の様子である。カレ氏の前で大丈夫か?一方の見城君は芸能人に興味はなさそうであった。いや、そもそも花火大会にも興味が無いのかもしれない。一体彼は何に興味があるのだ?それを考えるのはちょっと怖かった。取り敢えず今日位は人を疑うのは止めようかな・・・。

私が考えている間に、政治家の先生とか来賓のおじさんの挨拶は終わっていたらしい、轟音と共に、夜空に閃光が走る。

スタート時は散発的にあがったいた花火も、徐々にテンポアップして乱れ撃ちといった状況になってきた。

「・・・凄い」

「なにか花火を見ていると、キレイなんだけど、淋しい気持ちになるわね」

「花火の儚さを感じているんじゃないのか?」

「これが終わったら、もう夏も終わりなのよね。すぐに二学期になって、テストもあるし・・・」

「今年の夏休みは色々あったね」

「そうね。でも、私はこの夏休みの事を忘れない」

「そりゃそうでしょ。あやにとっては、初恋があって、失恋して、何とか立ち直ってと盛りだくさんだったのだから」

やすこがとんでもない事をぶっこんで来た。まあ、間違ってはいないんだけど。ほら、私の隣にいる男達が喰い付いて来たじゃないか。

「あや、聞き捨てならないな。どういう事だ?」

「九条さん、詳しく説明していただけますか?」

もう五月蠅いな。付き合ってもいない男達から、私のプライベートについてとやかく言われたくはないなあ。こういう人をカレ氏にすると、目茶目茶束縛してくるんじゃなかろうか。

「ショーマに説明するつもりはないね。あなたはどん底の時の私の姿を見ているのだから、後は御想像に任せるわ。・・・野村君についてもさっき言った筈よ。私のミスで大怪我を負った人がいる、とね。生きているとは思うけど、私に会ってはくれないだろうから、もう終わったのよ。・・・はい、説明終わり。これ以上は話さないわよ。話すと泣いちゃうから」

「確かにあの時のギャン泣きは見てられなかったもんね」

「やすこ!どうしてあんたは余計なことはペラペラしゃべるのよ!」

「これはあなたの事を思っての事だと理解して欲しいな。大体、あなたは自分を隠しすぎなのよ。ちょっとはあたし達を頼ってもいいのよ。あやから見たら、頼りなく見えるかもしれないけれど・・・」

「・・・ごめん。まだ二人には話す事が出来ない事があるんだ。いずれ話す機会はあると思うけれど、あまり面白い話じゃないよ、寧ろ不愉快で虫唾が走る様な内容だよ。このドタバタが収まったら、その顛末をきちんと話すから」

「仕方無いか。あやが話したくなるまで待ってあげるけれど、二進も三進も行かなくなる前に話してよね。変な男に引っ掛からないか、これでも心配しているんだからね」

「変な男って・・・この隣にいるグラサン男の事?」

「星野さんはまだまともな方でしょ。原宿で声を掛けて来た奴とか、旅行先に現れた奴なんかより」

「そのへんのクズと比較するのは、ショーマに失礼だわ。少なくとも人の弱みにつけ込む様な振る舞いはしないからね。まあ、そんなクズが寄って来るのは、ショーマが私の個人情報を流したからだけどね。さあ、花火も終わった事だし、片付けて帰ろうよ」

「そうだね」とやすこもちえみも賛成した。

しかし、それを私の両隣にいる男達が許さなかった。

「ちょっと待て。俺は花火を見る為だけにここに来た訳じゃない。あや、改めて御前に話があるんだ」

「僕だって、このままじゃあ帰れませんよ、九条さん」

やれやれ、この期に及んでまだ告白アピールをしたいのか。二人共、友達にはいいけど、カレ氏にするには何かが足りない。だから、今のところお断りになるんだけどな。

「そこまで言うのだったら、今から話し合いの場所を持ちましょうか。今は花火大会からの帰りの客でごった返しているけれど、30分もすれば落ち着く筈よ。だから、この間にショーマは場所の確保をしてちょうだい。野村君は帰りが遅くなることを親御さんに連絡しておいて。私も母親に連絡しておくから」

二人はスマホを取り出して、私の指示通り実行した。私はそれを確認しつつ、母さんにちょっと遅れる旨の連絡をした。日頃の行いがいい為か、母さんはあっさりと了承してくれた。

「さあ、そろそろ人もまばらになって来たし、この場を撤収しましょうか。野村君、悪いけどブルーシートを折り畳むのを手伝ってくれない?」

ブルーシートをてきぱきと片付けて、次の会場へ行く準備は整った。

「それで、私達はどこへ行くのかしら?」

「隣街のホテルのラウンジにある特別室だ。そこでなら余計な人間に話を聞かれる事も無いだろう」

「そこまで、どうやって行くの?」

「勿論、俺のクルマに乗せてやる。近くのパーキングに停めているからな」

こうして私と野村君はショーマのクルマに乗って、次の会場へ移動する事となった、勿論、助手席に座る事は断固拒否した。


「さて、この部屋は2時間押さえてある。さて、何から話し合うべきか・・・、取り敢えず君の友達が暴露した初恋と失恋話を聞かせてもらおうじゃないか」

「それは、僕も気になっていたところです」

二人共目が真剣だ。これでは冗談めかしてかわす事は出来ないだろうな。

注文した飲み物が到着し、しばらく部外者が入室して来ない事を確認すると、私はドリンクをちょっと飲んだ後話し始めた。

「今から話す事は友達にも話していない内容を含んでいるから、他言無用よ。・・・少し前に国賓待遇で某国の大統領が来日した事は知っているわよね。その大統領が何を思ったのか、私に会いたいと言っていたのよね。恐らく何の取り柄も無いのに、アイドルに告白されて追っ掛け回されている存在に興味を持ったんでしょうね。ところがホスト役の外務省は大慌てになったのよ。大統領が女子高校生に会いたい理由がわからなかったのよ。それで外務省としては大統領が性欲の対象として私を求めていると判断して、粗相のない様に私に教育を施す事にしたのよ。その教育中にはつきっきりで警備をしているSPがいたわ。Kさんって言う人だったかな。いよいよ大統領来日の前日、私は外務省の施設に泊まる事になった。鍵付き、監視カメラ付きの部屋に監禁された訳よ。直前になって心変わりされるのを恐れたのでしょうけどね。私が何もする事が無く寝ていると、突然開錠されてKさんが入って来たの。『君はこんなところにいちゃいけない。逃げるんだ』と言って、私の手を取って脱出を試みたのよ。だけど、国が作った施設からそう簡単に逃げられる訳もなく、Kさんは銃撃されて虫の息になったわ。私はKさんの命を助ける事を条件に、元の部屋に戻り大統領に会う事にしたのよ。・・・これでいいかしら。二人の聞きたい事には答えたと思うけど」

「・・・それで、大統領とは何かあったのか?」

「ある訳ないでしょう。そもそもが外務省の勘違いなんだから。大統領とは雑談して、メアドを交換しただけよ。・・・今ではすっかりメル友ね。向こうからは色々と世界情勢の裏話なんかを教えてくれるんだけど、私からは平凡な高校生の日常しか返せないんから申し訳無いんだけどね」

「・・・じゃあ、初恋と失恋はそのSPという事だな?」

「そういう風に私は話したつもりだけど」

「九条さんが花火大会の時に言っていた『私のミスで大怪我した人がいる』というのはKさんの事ですね。だけど、どこが九条さんのミスなんですか?」

野村君の問いにどう答えようか迷った。私のミスは『黄金の乙女』の能力を上手く使えなかったこと。私がうまく立ち回れば海道さんも無事だったし、警視庁上層部と交渉する事も出来た筈だ。だけど、海道さんが撃たれて意識不明になった時、『黄金の乙女』の能力を失ってしまったのだから今更後悔してもどうしようもない。

「・・・一緒に逃げようとした事よ。今にして思えばそんな脱出行が成功する筈もないし、仮に成功したとしても、Kさんは職を失うし、最悪犯罪者になるだけよ。あの時、彼の申し出を断っていれば万事丸くおさまったのよ」

「どうして、Kさんに魅かれたんですか?」

「そこまで話す必要があるのかな?まあ、いいわ。はっきりとした理由があった訳じゃあないけど、多分お父さんに似ていたんだと思う。私が幼い頃に死んだお父さんにね」

私の話を聞いて、二人は黙ってしまった。まさか死んだ父親の話が出るとは思っていなかったのだろう。しかし、少なくともショーマは単身この世界に転生して来たのだから、この程度の話で動揺するとは思えない。もしや、先刻の初恋&失恋のエピソードトークと野村君に話した『私のミスで大怪我をさせた』という事から、私が『黄金の乙女』として力を発揮出来た事に気付いたのかもしれない。

「それで、これからどうするの?まさか私の話を聞いて終わりって訳じゃあないでしょうね?」

「それじゃあ、僕から」

野村君は顔を赤らめながら言った。

「告白は月末までガマンするつもりでしたが、やはりガマン出来ません。九条さん、僕と付き合って下さい。そりゃあ、芸能人に比べたら僕は普通の中学生で頼りなく思われるかもしれないけれど、九条さんを大切に思っている気持ちは誰にも負けません」

「ありがとう。野村君の気持ちはとても嬉しいよ、・・・だけど、私にはまだ君の事を弟の様にしか思えないんだ。だから、まだ付き合う事は出来ないかな。時間が経って2学年の差が大した差ではないと私自身が思える様になるまではね。それまでは年下のボーイフレンドかな」

「友達だと甘く考えていたら、僕も男ですから何をするかわかりませんよ?」

「もしそんな事になったとしたら、それは私の認識が甘かった所為だから受け入れるしかないでしょ。それに私の身体なんて貧弱なものだから、男の子が人生をフイにしてまで挑む程のものじゃないよ」

「わかりました。あなたに振り向いてもらえる様に男を磨きます」

「うん、期待しているわ。・・・それでショーマはどうするの?まさかこんなところまで花火を見に来た訳じゃあないでしょ?」

「そうだな。俺としてはあやと恋人関係になるのが理想だが、あやの様子を見ていると付き合うのはまだ時期尚早という気もしている。少なくとも悪い虫が纏わり付いてなければ、今はそれでいいかな。俺も御前の身体目的で付き合いたい訳じゃあないからな」

「纏わり付いている悪い虫はショーマ、あんた自身じゃないの。まあ私の動向はやすこなり、齋藤君に聞く事ね。もっとも二人共あなたの味方とは限らないわよ」

「そうだな、・・・ただこれだけは知っていて欲しい。俺は御前の事が好きだ。少なくとも今の仕事を投げ出す覚悟だという事を」

「・・・知ってる。だけど、私があなたを好きにならなければならない道理は無いわ。バイバタを脱退するくらいなら、ケンゴと大差ない程度の覚悟よね。さっき話したKさんは私の為に命を掛けて守ってくれたわ」

「わかった。・・・それなら俺は御前の恋を全力で応援してやる。その相手が俺自身であればいいのだが」

「まあ、今迄が今迄だからね。よっぽど態度を改めないと、私の中での好感度を上がらないわよ。あなたが何をしたのか、その為に私がどんな目に遭っているのか、ちゃんと理解して行動しなさい。そうでないといつまで経っても好感度はマイナスのままよ」

「・・・わかっている。今日は収穫はあったしな。あやの好きなタイプもわかった事だし、立ち回り方を考えるヒントはもらった。あや、御前がどんな男と付き合おうと、最終的には俺と結ばれると運命なんだ。だから、俺は何度断られようが、ちょくちょく顔を出すつもりだ」

「好きにすればいいよ。その都度、断ってあげるから。・・・じゃあ、私は帰るわ。この時間ならまだ電車も動いているし」

「家までなら、俺が送ってやるが・・・」

「ふった男に家まで送ってもらうような事はしないわ。例え補導されたとしても、一人で帰るわ。それにあなたに自宅を教えたくないの。まあ、その気になればすぐに調べがつくでしょうけれど。・・・その代わり野村君を送ってくれないかな?帰りが遅くなったことを、親御さんに何か言われた時に助けてあげて。それ位出来るでしょ、大人なんだから」

「わかった。任せてくれ」

「ありがとう。二人共今日は来てくれてありがとう。色々あったけれど楽しかったわ。じゃあね、機会があればまた会いましょう」

私はラウンジを出て、一人で帰る事にした。かなり遅い時刻なので怖さがあるのは事実だが、多分纏わりついている警視庁の面々が守ってくれるだろう。

その後、ショーマと野村君がどんな話をしたのか、二人がどんな関係を気付いたのか、私は知らないし、聞こうとも思わなかった。

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