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20.病院で医師に告られる

『黄金の乙女』

世界にたった一人の至高の存在。

その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。

伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。


これまで

1.星野翔真 転生者。アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。

2.進藤君也 転生者。三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。

3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。千枝美琴と付き合っている。

4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。

5.仁平茂樹 転生者。株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。

6&12.富永悠一 転生者。ファストフード店元アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。夜道であやめを襲うも失敗。日本政府によりあやめ達から遠ざけられる。

7.島畑和毅 転生者。塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。

8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。

9.清水良治 転生者。病院勤務内科医 母親の再婚相手としてあやめに近づいたが失敗。

10&19.野村正貴 三崎第二中学二年 市民プールで告白するも、あやめに諭される。市立図書館で再開し改めて告白するも、夏休みの終わりに下されるあやめからの回答待ち。

11.内藤洋二郎 転生者。雑誌編集者 原宿であやめ達に声をかけたが失敗。

13.海道信哉 警視庁SP 監禁中のあやめを救おうとして失敗。重傷を負う。一時的に『黄金の乙女』の力を発動出来る様になる。

14.氏名不詳 某国大統領 あやめと付き合いたいと伝えるが失敗。

15.渡辺慎之介 転生者。旅行代理店勤務 旅先のホテルであやめに恩を売ろうとするが失敗。

16.常盤隆人 転生者。書店員。あやめに告白するが失敗。この世界での安住を望んでいる。

17.小田原雅和 外務省事務次官。あやめと付き合いたいと伝えるが失敗。

18.戸川健二 転生者。市民病院の泌尿器科医。あやめと結婚を前提に付き合いたいと伝えるが失敗。


月曜日となった。

私は学校から帰ると、昼食を摂り、自転車でやすこの家へ向かった。毎週の様にシャワーを借りるのははばかれるので、ちょっとゆっくり目に自転車を漕いだ。

「こんにちは」

やすこの部屋に入ると、既にちえみが来ていた。あれ?いつもと何か様子が違う。何か私達に言いたいことがあるのだろう。自信満々で、鼻を膨らませている。昨日のデートで進展したのかな?まあいいや、おいおい聞くとしよう。

私はやすこが用意してくれているテーブルで勉強を始める。午後と夜の勉強は重要だ。ここで、何がわからないのかをじっくり考えて、明日学校に行った時に先生に質問するのだ。わかるまで尋ねる。そうやって積み上げていくんだ。

私の意識から次第に二人の存在は消えていく。

15時過ぎになり、初めての休憩時間となった。やすこがアイスティーとお菓子を用意してくれた。

「それで、あやは昨日何をしていたの?」

「私の話なんてつまらないわよ。朝から駅の側にある図書館に行って、15時前に家に戻って、ちょっと遅い昼ご飯を食べて、夕食の準備をしただけよ」

「あや、花の高校生の夏休みにしてはちょっと寂しすぎるんじゃない?」

「こんなもんじゃないの?そうそうエキサイティングな毎日なんて送らないよ。フツーは」

「それもそうね。・・・何か夏休みのイベントは無いの?」

「そうねえ。・・・あんた達と夏祭りに行くのと、母さんに頼んで眼鏡を買ってもらう位かな」

「本当に何もしないの?高一の夏休みは二度と来ないのよ」

「それはそうだけど、ここのところ何かしようとする度にトラブルが起きるのよ。だから当分自重するわ。それに進藤先生が新学期早々何かが起きる、と予告してくれたし・・・」

「それなら仕方無いか・・・」

「そういうこと。・・・私のことより、あんた達はどうだったのよ」

私の問いにやすこが答えた。

「私は想意君と夏休みに着る浴衣を買いに行っただけだから。どんな浴衣か、見たい?」

「いや、それは夏祭りの日に見せてもらうわ。・・・で、あっちの方はどうだったの?」

「ああ、あっちね。別れ際にチューはしたかな。でも、それだけよ」

ちえみが話したくて仕方が無いという感じで身を乗り出している。何かイヤな予感がするが、私が尋ねなければならないのだろう。

「ちえみはどうだったの?」

「ふふふ。あや、やすこ、聞きたい?」

あんたが言いたいだけだろ。とは思うものの、話題は振らねばなるまい。

「ちえみ、勿体ぶらないで教えなさいよ」

「えへへ、どーしよーかなぁ」

「ちえみ、言いたくないのなら言わなくてもいいのよ」

「・・・そこまで聞きたいのなら教えてあげる。あのねえ、昨日最後まで行っちゃったの。だから、あやややすこより私の方がお姉さんね」

この娘が何を言っているのか、しばらくわからなかった。ちえみは私とやすこに対抗する為に、男の子としたと言っているの?

「念の為聞くけど、相手は見城君で間違い無いよね?」

「当たり前だよう。私が見城君以外に身体を開くとでも思っているの?」

「ゴムは使った?」

「急にそんなことになったから、用意してなかったよぉ。カレも生がいい、ゴム着けるのイヤって言うし・・・」

一発ヤラしたらカレ氏に昇格するのか?カレ氏に昇格したから、身体を捧げたのか・・・いずれにしろ良くない兆候だと思った。しかし、私ややすこが言葉を尽くしても、今のちえみは聞く耳を持たないだろう。

「あんたねえ、・・・」

やすこもちえみに言う言葉を失っていた。

その後、ちえみは楽しそうに、昨日の出来事を話してくれた。彼女が今幸せならそれでいいのか、やすこも私も判断がつきかねていた。しかし、彼女は私達の不安を吹き飛ばすかの様なテンションで、昨夜の見城君とのロマンスを語った。

ちえみの熱量は、私とやすこの方が、心配し過ぎではないかと思う程であった。

それまでのハイテンションが一転して暗い表情になった。

「どうしたの、ちえみ」

「・・・あや、怖いのよ。いつか見城君がやっぱりあやの方がいい、と思うかもしれないし・・・」

「そんなことないって。ちえみはかわいいし・・・」

「だって、見城君、五人でいる時はいつもあやの方ばかり見ているんだもん・・・」

「大丈夫。私は、親友から乗り換えようとする男と付き合うつもりはないから。私を誰だと思っているの?バイオレットバタフライの二人から告白されても断って、二人を芸能界引退にまで追い込んだ女よ。

その九条あやめが付き合わない、と言っているのだから信じなさい。・・・でも見城君のハートを繋ぎ止めるのはちえみの役目なんだからね!」

「わかった。頑張るよ、あや・・・」

それ以降、この件は三人で話をすることはなかった。

18時を過ぎ、あたりも夕焼けに染まる頃、私とちえみは帰宅する為に玄関に出た。

「それじゃあ、やすこ、明日もよろしくね」

ちえみがさっさと帰宅し始めた中、私は自転車を門扉の外に出した。自転車に乗り漕ぎ出そうとした時、玄関に立っていたやすこと目が合った。何か言いたそうな表情をしていた。それは私も同じ。

私はちえみの姿を目で追った。私が自転車を出している間に、ちえみはとぼとぼと歩いていた。この先で曲がる筈。案の定ちえみは角を曲がり、私達は彼女が戻って来ないことを確認すると、やすこの部屋に戻った。

「驚いたわ。まさかちえみがあんなことをするなんて・・・。ごめん。私のせいだ。私があの娘の前で自分のファーストキスの経験なんかを話したから、あの娘の対抗心を刺激したのかもしれない」

「それなら私も同罪ね。迂闊にキスしただの、胸触られた、とか言ったからね。自慢した訳じゃあないけど、ちえみにはそう聞こえたんでしょうね」

「とにかく事態が悪化しない様にしなくちゃね。ちえみにはいらぬお節介と思われるだろうけれど」

「・・・そうね。・・・今回については何もないことを祈るだけだわ。これからの悲劇を回避することが先決だけど、一度生を許した相手にゴムを付けて、ってお願いして聞いてくれるものかな?」

「見城君を悪く言うつもりはないんだけど、ちえみを大事にする様には見えないんだよね。・・・それに一度許したら事ある毎に求めて来るんだろうな。しかも生で。・・・私達が彼に、ゴムを付けろ、とかせめて出すなら口にしろ、とか言うのも違う気がするし・・・」

「じゃあ、ちえみに経口避妊薬を飲ませる?」

「アフターピルがまだ間に合うんじゃない。72時間以内なら、水曜日の夜までだから間に合うし、今後はピルを常用させれば、最悪の事態は避けられるわ」

「でも、それには問題があるんじゃない」

「うん、ちえみが納得して産婦人科で受診するとは思えないんだよね。アフターピルはともかく、ピルだけだったら、生理痛がひどいから、って言う理由で処方してもらうのはアリだと思うんだけど・・・」

「親バレよね。問題なのは」

「そう。こればっかりはちえみが解決しないとダメな問題。その場でちえみをかばってやることくらいはできるかもしれないけど」

「そうね。あたしも一緒に、ちえみのお父さんとお母さんに会ってもいいけど。でも、そんなことをすれば。ちえみは見城君と別れさせられる、と思うんじゃない?」

「・・・そうね。それで別れた後、見城君が私に言い寄って来たら、ちえみはどうなると思う?」

「少なくとも、あや、あなたには裏切られた、って思う筈・・・」

「私はちえみと友達でいたいのよ。この間、私がひどく落ち込んだ時も、何も言わず受け止めてくれた。だから、ちえみを助けたい。今本人には自覚がないかもしれないけれど、ピンチなのよ」

「それは私も同じ。例えちえみに嫌われてもね。・・・じゃあ、話をまとめると、明日と明後日はちえみを説得して産婦人科へ行き、アフターピル及びピルの処方をしてもらう。あや、産婦人科に伝手はあるの?」

「・・・母さんに相談してみるよ。大丈夫、なんとかするよ」

「それから、二人でちえみの御両親に謝罪か・・・嫌だけど仕方無いね」

「うん、私達が煽ったせいだからね・・・」

「私は覚悟を決めるだけだからいいけど、あや、あなたにはまだやることがあるんだから、さっさと帰りなさい」

「はいはい、ひまりちゃんは厳しいね」

私がそう言うと、やすこの表情が変わった。

「あや、私を名前で呼んでいいのは、想意君だけよ」

私には彼女のこだわりが理解できなかった。


長居してしまった。辺りはもうすっかり暗くなっていた。

早く帰らないと・・・私は自転車を漕ぎ始めた。

突然、電柱の陰から私の前に現れた人物に驚き、私はブレーキをかけて停車した。

「・・・ちえみ」

「あや、やすこと何の話をしていたの?」

薄暗くなっているせいで、ちえみの表情は詳しくはわからない。ただ、口調から判断して、私達の態度に不満を持っているのだろう。

「ちえみ、やっぱりこのままにしておくのは、よくないよ。妊娠していたら、どうするの?」

「・・・関係無い」

「え?」

「関係無い、って言ってんの!これは私の問題、だからあやにもやすこにも関係ない!誰が助けて、って頼んだ?あんた達、余計なお節介を焼かないで!」

言うだけ言うと、ちえみは去って行った。

ちえみ、あなたに恨まれるかもしれないけれど、私はお節介をやめるつもりはないからね。


「ただいまー」

母さんが帰宅しており、夕御飯の準備を終えて、私を待っていた。

「あやめ、今日は遅かったね」

「うん、ちょっと友達と話し込んじゃって・・・」

「今日ぐらいならいいけど、遅くなる様だったら連絡してね。これでも母親なんだから・・・」

「いえいえ、お母さまにはいつもお世話になっております。・・・ねえ、母さん、相談があるんだけど・・・」

「なあに?私でいいのなら話は聞くよ」

「私じゃなく友達の話なんだけど、男の子とやっちゃったみたいなの。しかもゴムも付けないで・・・。それが昨日の夜の話だから、まだ間に合うと思うの。どの病院に行けばいいのか、母さん、紹介してくれない?」

「ふうん、ちえみちゃん思い切ったことしたんだね」

「母さん、どうしてわかるの?」

「あんたの友達と言えば、やすこちゃんとちえみちゃんでしょ。やすこちゃんは落ち着いている様に見えるけれど、ちえみちゃんはどこか危なっかしく見えてたからね。・・・それで、ちえみちゃんは病院に行くことに同意したの?」

「ううん、まだ。私とやすこで説得するつもり」

「そう。120時間有効なアフターピルもあるから、金曜日までには連れて行ってね。病院については私から連絡して、結果を明日の午前中にあなたに伝えるわ。・・・それで、どうしてこんなお節介を焼こうと思っての?」

「私が失恋の顛末を話したことが、あの子を煽ってしまったみたいで・・・ちょっと反省している」

「成程ね。忠告しておくけど、あなたが病院で受診して、薬をちえみちゃんに回そうなんて考えないでね」

「そんなことはするつもりはないけど、どうしてそんなことを聞くの?」

「お医者さんを騙そうとする人を、医者にする訳にはいかないからよ。正直にちえみちゃんが病院に行くのはいいけど、あなたややすこちゃんが身代わりに行くことは許さない。その時は、あなたを医学部に進学させられない。わかった?」

「うん。母さんの言うことは理解したよ。確かに母さんの言う通り、お医者さんを騙しちゃいけないよね。なんとかして、ちえみを病院まで引っ張っていくよ」

「うん、お願い。私も知ってしまったからには、何もしなくて目をつぶっておく訳にはいかないわ。もし二人で説得出来ない様だったら、私に電話して。私がちえみちゃんを説得するから」

「母さん、ありがとう。頑張るよ」


翌日、やすこの家へ行ったが、ちえみは来ていなかった。

私はやすこに昨日の帰り道にちえみに会ったことや、母さんに病院を紹介してもらったことを話した。

「あや、大変だったね。しかし、ちえみも意固地になり過ぎよ。心配しているあたし達を敵視しても仕方無いじゃない」

「・・・ちえみとしては覚悟の上の行動だから、私達にあれこれ言われたくないんじゃない」

「それはわかるけど、私達はちえみの為を思って・・・」

「それが、ちえみにとって迷惑なのでしょう。とは言え、ほうってはおけないわよ。・・・さあ、ちえみのところへ行くわよ。例えちえみに恨まれようが、絶交されようが、病院に連れて行くわよ」

「あや、あなたは強いのね」

「当たり前じゃん。私を誰だと思ってるの?『黄金の乙女』なのよ」


私とやすこはちえみの家のインターホンを押した。しばらくすると、ドアが開かれた。

応対に出たのはちえみのお母さんだった。

「美琴さん、いらっしゃいますか?クラスメイトの九条と安河内です」

「娘がいつもお世話になっております。美琴は部屋で寝ているから、上がってね。あの子、昨日の夜からふさぎ込んでいるのよ。何か理由があるんだったら聞き出してくれない?」

「わかりました。聞いてみます」

私達は二階に上がり、ちえみの部屋のドアをノックした。

「ちえみ、入るわよ」

返事が無い。無視して、私達は部屋に入った。

部屋の中を見回すと、ちえみはベッドの上で体育座りをしていた。顔は膝の上で全然見えない。

「ちえみ、あんた何やってんのよ。時間が経てば経つほど状況を悪くなるのよ」

うじうじしたちえみの様子に、やすこが怒気を含んだ声で言った。

「やすこ、声が大きい。お母さんが聞いているかもしれないんだから、静かに話しましょう」

私の言葉にやすこは納得したのか、調子を抑えて、静かに話を続けた。

「ごめん。ちょっと興奮したみたい。・・・ちえみ、とにかく病院行こ?最悪のことをきちんと考えておかないと・・・」

ちえみは無言のままだった。仕方が無いので私が説得を試みる。

「ちえみ、もし子供が出来たら、見城君と結婚出来るとか、そんな甘いこと考えてないでしょうね。そんなことは起きないのよ。・・・まず、間違いなくあなたは退学処分になる。それから、あなたの御両親も見城君の親御さんも二人を別れさせようとするでしょうし、見城君はそれを受け入れるでしょうね。フリーになった見城君はどうするかしら?元々私に告白したぐらいだから、また私に言い寄って来るかもしれないよ。私も今、フリーだしね。それでもいい?」

ようやくちえみが顔を上げた。

「・・・嫌。そんなのは絶対に嫌。見城君とあやが付き合うのなんて、絶対に嫌!」

「だったら、今やらなくちゃいけないことが何か、わかるでしょ」

ちえみは力なく頷いた。

「わかった。じゃあ、ちえみの不安を取り除いてあげるよ」

私は、スマホを取り出して母さんに電話を掛けた。

「もしもし、母さん、ちえみに代わるから、ちえみの不安を取り除いてあげて」

私はスマホをちえみに渡した。母さんなら上手くちえみを病院で診察を受けさせる方向に誘導してくれるだろう。ちえみの様子を見ると、一生懸命母さんの話を聞きながら、「はい・・・」と何度か返事をしている。

「ありがとうございます」と言った後、ちえみは私に返した。

「あや、やすこ、心配してくれてありがとう。明日病院に行くことにしたわ。・・・だけど、一人じゃ怖いから一緒に行ってくれるかな?」

「勿論よ。友達なんだから助け合うのが当たり前じゃない。・・・私がボロボロだった時、黙って受け入れてくれたからね。・・・じゃあ明日、何時にする?」

その後の打ち合わせで昼一にちえみの家に集合し、病院に行くことに決まった。


私は学校から帰ると、制服から着替えた。

何しろ今日は女子高生3人組で産婦人科に行くのである。見知った人に見られる訳にはいかない。普段の私とは違うイメージの格好にしたい。今朝、演劇部の子に会った時、適当な理由をでっちあげて、黒髪のウィッグを3つばかり借りてきた。私はロングヘア―のウィッグを装着して、眼鏡をかける。帽子をかぶり、服も母さんのものを借りる。これでちょっとは年上に見える筈、丸顔だけはどうしようもないが・・・。

ちえみの家に行くと、既にやすこも来ていた。私は二人にウィッグを渡した。

「あや、これは何?」

「今朝演劇部から借りてきたウィッグだよ。疚しいことは無いんだけど、知り合いに見られると何かと変な噂を流されても困るじゃん。だから少しでもそのリスクを下げようと思ってね。あと、サングラスとか伊達眼鏡も持ってきたけど、つけてみる?」

二人はウィッグと眼鏡をつけた。とりあえず我々3人とは思われないのではないか。

「じゃあ、行くとしますか」

私達は産婦人科に向かった。

病院の周囲に誰もいないことを確認して、私達はそそくさと病院に入った。誰にも見られていない筈である。

ちえみはマイナンバーカードで診察の依頼をする。診察用の番号が付与され、番号が呼ばれると、診察室に入るシステムの様だ。ここには意に沿わぬことで来ている者もいるのだから、名前で呼ぶのも差し支えるのだろう。

やがてちえみの番号が呼ばれ、診察室に入って行った。ちえみ、がんばれ。

私とやすこは待合室の長椅子に座って、ちえみが出て来るのを待っていた。この後は打ち上げと称して、ファミレスで何か食べる予定にしていた。

ほどなくして、ちえみが診察室から出て来た。今にも泣き出しそうな表情だった。

「ちえみ、どうだったの?」

「ううぅ、いっぱい怒られたよう」

やれやれ、それなら安心だ。今回はゴムも付けずにHさせたちえみが悪い。きつく注意されるのも、いい薬だろう。どうかこれからは円満に進んで欲しいと祈るばかりだ。

「それで?」

「処方される薬を飲んでおけば、取り敢えず妊娠することはないって。でも、これからは彼氏にコンドームをつけるように言い聞かせろ、って言われた」

「その通りだね」

「それはそうね」

私とやすこは同時に言った。私達は高校生の未成年だ。親の庇護の元で暮らしている。何かを我慢して生きるのは当然ではないか、と思う。思い通りに生きたいのなら、それこそ自立して生きる覚悟と実績が必要だろう。

「・・・」

ちえみは無言だった。見城君にゴムを付けさせるのが難しいのだろうか?それは私達にはわからないことだ。

さて、後はちえみが処方された薬を呑んで、お金を払えば本日のミッションはコンプリート。不安は解消され、それぞれの日常に戻れるだろう。


「千枝さんのお連れの方ですよね?」

小声で病院の職員に尋ねられた。隣にいるちえみにも聞こえない様な小さな声であった。

「そうですが、何か?」

「院長先生が話があるそうなので、しばらくお待ちいただけないでしょうか?」

何だろう?ちえみの診察でよからぬ事実が判明したのか?それを産婦人科から親御さんに告げることが出来ないから、友人に託そう、という話か。それとも今後のちえみの交際について、友人としてきちんと監視する様に言いたいのだろうか?

「それは構いませんが、もう一人の友人も一緒にいていいですか?」

ちえみのことを友人として聞くからにはやすこが同席していても構わないだろう。

「いいえ、院長先生はあなただけに話があると言っております」

はて、何だろう?母さんの伝手を使って、この病院に来たことに対して問題があるのだろうか?取り敢えず母さんの評判を落とす様な事は避けねばならないだろう。

「わかりました」

「では番号札を差し上げますので、番号が呼ばれましたら診察室に入って下さい」

番号札を渡された。現在、診察中の人の番号の4番後だ。待ち時間はどれくらいなんだろう?

「ごめん、やすこ、ちえみ、先生に呼ばれたんで、先にファミレス行ってて」

「あや、どうかしたの?・・・まさか、あやも?」

「そーゆーのとは違うし。・・・多分、母さんの伝手を使って強引に予約したからじゃないのかな。それでお叱りを受けるのはまあ、仕方無いかな」

「でもちえみの付き添いには私もいたんだよ。どうして、あやだとわかったんだろ?」

「さあね、待合室で話していた内容で確定させたんじゃない。結構あけすけに話していたからね」

「それは、そうかもしれない」

「母さんの評判落としたくないからさ、ここは黙って怒られて来るわ。・・・だから二人は先に行っててよ」

「そんな理由だったら、私達ここで待つよ」

「怒られて泣いているところ見られたくないの」

「私達の前でジャージ姿でギャン泣きしたのは、どなたかしら?」

「あれは別。・・・あんた達、失恋した親友を思いやる気持ちは無いの?」

「ごめんごめん。・・・それじゃあ、私達は先に行って食べてるからね」

「わかった。すぐに行くから」


無事二人は病院を出て行った。

ここで自分の立場を確認する。何故、自分だけが残されているのか。

やすこやちえみに説明した内容も可能性の一つであるが、もう一つ相手が転生者である恐れも捨て切れなかった。診察室で会うという手抜きな相手だったら、いきなり私を殺そうとはしない筈だし、いつもの様に口八丁で何とかなるのではないか、と思っていた。万一私の身に何かあっても、二人を遠ざけていたら被害が彼女達に及ぶことはないだろう。

ようやく自分の番号が呼ばれ、診察室に入る。看護師さんはおらず、先生だけだった。私はこの間の戸川健二のケースを思い出していた。

「こんにちわ。私に何か御用でしょうか?」

先生に向き合う位置の椅子に座りながら言った。

「この病院で院長をしている大窪高保だ。そんなに緊張する事は無い。別に取って食おうという訳じゃ無いからな。・・・単刀直入に言おう。俺と結婚を前提に付き合え。理由はわかっているだろ」

「やっぱり『黄金の乙女』がらみなのね、転生者さん。どこまで私のことを調べているのか知らないけど、私が大人しくあなたと相思相愛になるとは思わないことね」

「『黄金の乙女』と雖も所詮は女だ。俺の事を忘れられない身体に仕込んでやるぜ」

その言葉を聞いて、私はぞっとした。激しい嫌悪感。見られているだけで、虫唾が走る。大窪は続けて言った。

「まずは今度の日曜日、俺に付き合え。そうすれば、月曜の朝には俺のオンナになっているさ」

冗談じゃない。誰がこんな男に抱かれてなんかやるもんか!

「随分と甘く見られたものね。誰があなたなんかと・・・」

こんな男の言いなりになったのでは、私の為に命を賭けてくれた海道さんに申し訳が立たない。

「どこまでそんな態度がとれるかな、九条あやめ」

「何があっても、私はあなたの言いなりになんかならないわ」

「ほう。俺との交際を断るのなら、君の友達、千枝美琴が産婦人科で診察を受けた事実を公表することになるが、それでもいいのかな?」

「くっ・・・」

なんて卑怯な・・・これじゃあ・・・

「俺もそんなに悪い事はしない。取り敢えず日曜日俺に付き合って、その夜抱かせてくれれば、それで許してやる。さあ、YESかNOか答えてもらおうか、『黄金の乙女』さん」

この問題にちえみを巻き込む訳にはいかない。だけど、だけど・・・。

「さっさと答えろ!九条あやめ、俺と付き合うのか!」

「わかったわよ。あなたと付き合います。・・・だからちえみのことは内密にお願いします」

診察室に大窪の哄笑が響いた。私は膝の上に置いた両拳を震わせながら聞いていた。


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