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大和の誓いの篇

 十二支の獣――白大イノシシ(ヲウス)討伐作戦開始まで残すとこ一週間。


 今日の修行を終えたぼくはヴィザルに話をかけた。


「お疲れさま」


 ぼくは缶ジュースを渡す。キンキンに冷えた炭酸飲料だ。


「あ、隊長。ありがとう」


「ヴィザルは呼吸法を完璧に自分のものにしたね」


「うん、あとは五属舞をどれだけ継続できるかだ」


 ヴィザルはぼくに慣れてきたのか敬語を使うことをやめていた。これも大きな一歩なのだろう。


「いつも遅くまで修行している君は誰よりも成長が早い」


「いや、誰よりも長く練習しなくちゃみんなに置いてかれてしまうんだ」


「そんな謙遜することはないよ。順位をつけるとすると、ヴィザルが一番成長している。隊員に順位付けするのは隊長の恥だけど、そういうことだ」


「一番じゃなければならないんです……ぼくは枝ノ國出身だから」


 おやおや、ルーナと同じで大変だっただろう。西國――枝ノ國――首都は肥後宮(ひごのみや)、派閥は橘派か……懐かしいな。


「枝ノ國ではそう教わってきたんだろ?」


「うん、昔から一番を取れって言われてきたよ。父親でも母親でもない――王様にね」


「枝の國は大人や子供関係なく自己責任を背負わせる、あのような國で赤子が伸び伸びと育つならお金持ちの赤子ということだ」


「その通り、ぼくの一族はお金持ちだった」


 剪繋の一族――理想石の利用法を研究して実用化させた一族だ。一に鉱石、二に研究、三に応用の三相劃と言われているほど三相劃の一族は名高い。


「枝ノ國、お金のために身売りをするこども、一番を取るために不正を働く大人たち、あの國の治安の悪さは他の國と比べれば天と地ほどの差がある。それもこれも悪いのは王様と側近だ。西國の橘派はまともなヒトが多い、その代わりに指導者の側近が能力だけ高い戦争マニアのクズばかり、そして橘派の五王は王の中でも軍神語りの大好きな若造だ。軍を語るも神を語るも下手くそ鼻くそ、おかげさまでぼくの耳は耳くそまみれになったよ」


 ぼくは珍しく口を汚している。しかしそれくらい西國の枝ノ國は汚らしいのだ。


「あはははっ、隊長という立場でも嫌いなヒトには嫌いと言えるんだ」


 ぼくにしては珍しく笑いも取れた。


「いやいや、殺し殺されのお話が好きな者は好かぬのです。しかし枝ノ國の王は悪い子ではないよ、五王ラジアータは力の使い方を間違えてしまっただけなんだ」


 五王は空腹だ。ぼくはふとその言葉を思い出した。


「……事実、力が無いと何も守れない」


 そう、ヴィザルの言う通り力が無いと守りたいものも守れない。事実ぼくは目の前で友達をけものに殺されている。あの頃のぼくは今よりも弱くて、優柔不断で、覇気のこもらない言葉を使う弱虫だった。

「力なんてものは伸ばせばいい。今は生きて反撃の時を待つんだ」


「反撃……今まで見てきたヒトは五王の悪口は言わないし、ぼくを弱者として扱うし、生き抜くためのアドバイスなんてしてくれなかった。ぼくを対等のヒトとして扱うのは名門の一族の方々や牡丹派の隊長たちだけだったよ」


「ヒトの力、それ即ち諦めの悪さ、故に諦めぬものには花が咲く」


「あの、前から思っていたけど、隊長ってぼくと歳が変わらないのになんだか時代劇に出てきそうだよ」

そうなのか。主観では分からない部分か。


「隊長は大和語りと隼語りに出てくる桃の子の夫みたいな感じがする。『生きろ、そなたの血は次代へ繋がなくてはならない』って」


 大和語り隼人語りか……これも懐かしいな。夜叉は大和の女子、鬼は隼の男子、子は鬼夜叉の桃の子。日種を流すは桃の子ヒトの子、否、けものの子。


「あはははっ、そう言われると嬉しいよ」と、ぼくは笑った。


「最後はどうなるか分からない語りだけど、夫婦は仲良くしていたよ」


「だね。まぁいろいろな語りを聴いてきたけれど、どの語りも継承過程で綻びが生じたようなものばかりだったよ」


 空白だ。どの語りも空白が邪魔をしてくる。


「そういえば、ヴィザルはアイリスと一緒に挑戦しないの……」


「ぼくは……関わっていいのかな?」


 いいに決まっている。迷惑をかけても関わらなければならないセカイがあるように、関わって悪いことはこのセカイにない。みながみな一族の誇りを持っているから、迷惑を迷惑として扱わない。このセカイで失敗してはいけないのはぼくだけだ。


「君は失敗してもいいんだ。アイリスならヴィザルのことを待っているよ」


「植物を育ててみたいけど、現世界では育たない。無駄な努力だって、そう言われて、いろいろな人に笑われてしまうから嫌なんだ」


「笑われてもいいんだよ。笑わせることが出来るなら勝ちも同然だ」


 笑われてきたから分かる。どんなに無駄なことでも最後には諦めず立っている者が勝つ。


「隊長がそこまで言うなら……ぼくも、もう一度挑戦しようかな」


 ぼくはヴィザルに握手を求めた。


 ヴィザルの手のぬくもりは、次代の種を育てられるような温かいものだった。


pixivにキャラクターデザインを載せる予定です。気になったらpixivにも訪れてください→https://www.pixiv.net/users/81746438


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