誇り
「わたしもまだ死にたくありませんからね」
「夜禅を生業としていた先代の方々が何を想ったか知らないけど、わたしはまだ死ねない」
「あ、ぼくも死にたくありません」
ここまで夜禅を拒絶する隊員には隊長のぼくでも何も言い返せない。
その気持ちは痛いほど分かるよ。
仕方ない、ひとりでもやるしかない。大丈夫、ぼくはレンカだ、これまでもひとりになったりひとりでやれたじゃないか。誰かが犠牲になるくらいならぼくが犠牲になればいい、ぼくの存在しない未来では花が咲くと……いいや、何よりぼくは生きることより死ぬことの方が難しい生き物だ。大丈夫、ぼくはあの親父殿と御袋殿の間に生まれた長男坊だ。
「なら今回はぼくに任せておけばいい。この部隊は実戦経験者のぼくひとりで十分です、あなた方はここに隠れていてください。夜明けまでこの部隊はぼくひとりで回します」
「はぁ? 相手はけものだぞ、そこら辺の弱い理想郷生物と比較してるんじゃねぇよ。あれは理想郷生物で言うところの十二支クラスだ、人類の敵う相手じゃない。なぁ逃げよう、バックレようぜ。この部隊は新兵しかいない、逃げれば上は役立たずとして違う仕事を回してくる。な? 死ぬかもしれないのに見栄なんか張ってられないだろ?」
「けものに勝つ必要はない。しかしけものが果実を生成する条件には、『自然回復させないように傷を蓄積させる必要がある』と、夜禅書に記してある。他の部隊が休んでいる間は交代で他の部隊がけものを引き付け傷の蓄積をさせておかなくてはならない。部隊でひとりでも戦えるヒトがいれば十分だ」
「ひとりで戦えるヒトはヒトとは言えねぇよ! というか夜禅書の条件なんざ信用できねぇだろ。上層は嘘つきだ、士気を高めるのには偽物の夜禅書が必要なんだ」
名無しくん、残念ながら夜禅書は事実しか書かれていないんだよ。かつて他派閥にいた時、ぼくだけが生き残った闘いがいくつもある、その時にけものは果実を生成することもしなかったし、夜が明けても果実を落としてはくれなかったんだ。つまりけものが果実を生成しなくてはならない状況を作り上げる必要がある。
「偽物でもいいんだよ。ぼくたちは誰よりも強く、そして誇り高く産まれた」
「おれたちを説得したいなら諦めろ、ここに集まった奴らは一族の誇りなんて語れないゴミどもだ」と不良のような男は言う。
「……そうか」ぼくはつぶやく。
ぼくひとりで得られる物は何一つ無いけど、夜禅の部隊は一つだけではない。幸いなことに十番隊は新規の部隊だ、ぼくの預かる隊員がけものを止めなくても、今まで九つの部隊で回せていたのだから安心だろう――しかしぼくは十番隊の隊長だ、君たちが諦めてもぼくは諦められないんだ。
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