少女になれない、初めてのナプキン
五十を過ぎた今でも、あの「空白の感覚」は鮮明に思い出せる。
自分で触れても何も感じなかったあの場所。
俊や聖が確認するように視線を落としても、触れても、
そこだけは世界から切り離された島のように沈黙したままだった。
だが、泰代と一緒にいる時だけ、
身体の奥で断線していたはずの回路がふっとつながるような感覚が走った。
あれは、緊張と安心が同時に押し寄せる不思議な変化だった。
「乃雅ちゃん、毎日私がケアしてあげないとダメね!」
それは、女子部への移籍が決まった朝、
母から無造作に手渡された可愛らしいポーチから始まった。
中を開けると、静かに収められた白いナプキンのセット。
「万が一のため」「女子部にいるなら持っていなさい」という、
母の世間体と無理解が生んだ配慮だった。
個室でナプキンを手に取り、紙の質感と粘着テープを見つめながら固まった自分を思い出す。
剥がし方も、下着のどこに貼り付けるべきかも分からず、深い困惑に包まれた。
ポーチを抱えて泰代に相談すると、
彼女はそれを見てふっと意味深な笑みを浮かべた。
学校では誰に見られるか分からないため、
泰代は自分の部屋へ来るように誘ってきた。
母から渡されたポーチを握りしめ、
逃げ場のない「泰代の領域」に足を踏み入れたことを直感した。
泰代
「さあ、ちょとそこに立って。
ちゃんと教えてあげるから」
泰代は、心底愛おしそうな、しかし同時に獲物を見つめるような冷たい瞳で近づいてくる。
ナプキンの裏のシールを剥がすカサカサという独特の剥離音を部屋に響かせながら、彼女は膝をついた。
泰代
「下着を見せて」
泰代の手がスカートの裾をゆっくりと持ち上げ、パンティーに指をかける。
身をすくめ、恥ずかしさに頬を染めて目を背ける私の中で、下着がゆっくりと降ろされていく。
そこに広がっていたのは、男性器特有の突起や海綿体などの蠢く肉塊が一切存在しない、
あまりにも不自然で、そして透明なまでに滑らかな「ワレメもない股間」だった。
泰代
「……乃雅ちゃん、オチンチンが本当に無いのね……」
(毛もなく、恥丘から会陰に伸びる縫合痕と、会陰部尿道口だけが存在する場所)
泰代と二人きりになり、あの冷たい指先で触れられ、診察するような瞳で見つめられるだけで、奥がきゅっと収縮し、おしっこの穴から糸を引くような粘液が滲み出てくる。
「女の子じゃないのに」「生理の血でもないのに」とパニックになりながら、あてがわれたナプキンがその液体でじんわりと湿っていく感触に、耳まで真っ赤にして身をすくませていた。
泰代
「あれ、乃雅ちゃん、オリモノが沢山出てくるのね。
ちょっと待って! あっ、ティッシュ! 拭いてあげるね」
乃雅
「あっ……泰代ちゃん、そこ……っ!」
泰代
「ちょっと我慢してね」
乃雅
「あっ……あっ……!」
泰代
「あれ、拭いても拭いても、乃雅ちゃん、オリモノが沢山出てくるのね」
泰代の手つきは次第に丁寧さを増し、
ティッシュ越しに会陰部の縫合痕から尿道口の周辺を静かに圧迫するように撫で上げていく。
泰代
「不思議ね、乃雅ちゃん。血は出ないのに、こんなに濡れて……。
このナプキン、ちゃんと意味があったじゃない」
乃雅
「ひあッ……そこ、強く押さないで……ッ!」
泰代
「ふふ、声が高くなってる。大丈夫よ、怖がらないで。
女の人の体だって、熱くなればこうやって準備をするの。
乃雅ちゃんは、ちゃんと私に反応してくれてるのよ」
次の瞬間、尿道口から透明な液体が勢いよく溢れ出し、
泰代の手をすり抜けて白いナプキンの表面に一気に広がっていった。
私は言葉を失い、自分の身体が意思とは無関係に反応したことに、ただ呆然と立ち尽くす。
頭の中では、「失われた男の証」であるはずの前立腺が与える熱い痺れと、
泰代に「女の子の生理現象」として扱われる甘やかな肯定感が混ざり合い、思考が麻痺していった。
廊下やすれ違いざまの耳打ち。
泰代は私の横を通り過ぎる一瞬、誰にも聞こえない声で囁く。
泰代
「乃雅ちゃん、ナプキン替えた?」
その一言だけで、背筋に緊張と熱が走った。
身体の奥がきゅっと収縮するような、自分では説明できない反応。
泰代
「大丈夫か確認してあげるね」
手を引かれ、トイレに連れていかれる。
泰代
「ほら、やっぱり汚れているじゃない。
トイレに入った時はちゃんと交換しないと」
(さっきまで濡れていなかったはずなのに、手を引かれてトイレに来る間に濡れていた)
泰代
「乃雅ちゃん、毎日私がケアしてあげないとダメね!」




