第4話 想いは届かない
「なんでお金もないのに、注文したの!?あなたバカなの?」
誰も通らないような建物の間の暗い空間で、俺は罵声を浴びていた。
「私がもしここへ来なかったら、あなた今頃監獄へ放り込まれているわよ?」
俺はなんとも言えずただ説教を喰らい続けた。赤髪の女騎士が俺を怒るのはもっともだ。
金もない……いやそれは正確ではない。日本円ならば五千円くらい持て余しているがここの世界ではこの紙切れにはなんの価値も持たない。故に今は一文無しと言われても妥当だろう。
「その件については感謝してるよ」
「ほんと、呆れるわ……しかもあなたが頼んでいた料理10ドンドしたんだからね!」
ほっぺをムッとさせながら言う彼女の姿は、他の女の怒った顔より何倍も綺麗だなとおもう。
一番安い価格で売られていると思った『バンパの煮込みハンバーグ』実はあのメニューの中で一番高い物だったららしい。
この世界の通貨は、トントと、ドンドの二つで回ってるらしい。
彼女、曰く1トントは日本円で一円らしく、1ドンドは千円らしい。
そして俺は一万円近くした、『バンパの煮込みハンバーグ』はここら辺ではかなり有名らしく使ってる肉も最上級だったと言う。
「でも何で何だ?初対面の相手を奢ってくれたり、あとなんでゲートを通った人なんか探してたんだ?」
俺は、首を傾げながら彼女に尋ねる。本当に分からない。彼女が、俺を探していた理由もあの時お金を貸してくれたことも。
そして彼女はハァとため息つき腕を組む仕草を見せる。
「あなたを探してた理由は……私について来てくれたらわかるわ」
「何だよそれ……今、答えてくれなきゃ俺もついて行く信憑性がないんだけど……」
「信憑性そんなのいらないわよ。あなたは今私に借金したんだから、それ相応の対価は払ってもらわなくちゃ」
俺は彼女の言葉に言い返す言葉がない。
俺は彼女に借金をした……それは言い逃れのできない事実だ。
彼女の言う通りそれ相応の働きはしなくてはならないのは分かっているが、怪しすぎる。
こんな怪しいことは好きだがなんだか嫌な予感がする。
まあでも、嫌な予感がしても行っちゃうのが、俺の性なんだよな……
「ああ、分かったよついて行くよ」
「よしなら決まりね。そうと決まったら早く行くわよ」
彼女は光の見える建物の間に早歩きで向かって行く。俺もそれに習い歩調を早く進め通りに出たところで彼女の横に並ぶ。
「なんでこんなに急いでるんだ?」
俺はずっと気になっていたのだ。店のドアを開けた時も息を切らしていて急いでるように見えた。そして今の彼女の様子に確信に変わり、俺は彼女に問う。
そして彼女は首を横に向け俺の疑問に答える。
「すぐわかるわよ」
「また、それかよ」
「すべこべ言わずついてくる。あなたは私に借金してるんだからね」
彼女は借金という言葉を使えば俺が言い返せなくなることを知っていての言葉なのか?まあ、俺はこの時も言い返せないままでいる。
俺たちはただ真っ直ぐに歩調を進め目的地のわからない場所は目指す。
相変わらず彼女の歩調は早いままだし、目指している場所すらわからないままに。
だんだんと日が西の方へ傾いていき、景色が真っ赤に染まる頃、私たちはまだ歩き続けていた。
あれから何時間経ったのだろうか?
「なあ、あとどれくらいで着くんだ?」とか
「なあ、急いでる理由って遠いところにあるからこんなに急いでるのか?」
など何時間も歩いてる間、アクトからの質問は止まなかった。
やっぱり、覚えてないよね……
私は彼の名前が鈴原 亜人だということは知っているが、アクトは私を知らないだろうな。
それはアクトが、私のことを昔みたいに朱莉って呼んでくれないところから、私を覚えていないことはわかる。
あんなに一緒にいたのに……
私とアクトの過ごした時間は長かった。それでもアクトには私の思い出の欠片も無いんだろうな…………
私が、『バンパの店』でアクトを見つけた時は本当に嬉しかったし、私は思わずアクトの名前を呼びそうになりそうにさえなった。
アクトにゲートを通った人を探してた理由を聞かれた時は心臓が強く脈打ったのが分かった。
昔からそうだよアクトは……
ほんと、何時間たってもつかねーじゃん。
俺は赤髪の彼女に何回質問しても、ちゃんとした答えは返してくれない。
可愛い顔してるのにこんな塩対応な性格じゃ、もったいないなと感じる。
彼女は、ずっと歩調を変えることなくただ歩き続けている。
たまに、横にいる俺の方に向いてくる時がある。それは、俺がちゃんとつい来ているかの心配なんだろうか?
それとも……
「もうすぐ、そこね……」
彼女が後ろに振り返るとそんな発言をもらした。
「まさか、もうちょっとで到着なのか?」
「違うわよ、走ってくけどちゃんとついて来てね」
俺は淡い期待を抱いたがそんなものはすぐ消えてしまった。しかも、何時間も歩いてるのに今度は走るのかよ……
日が暮れ星が見えてくる時間帯。足元がだんだん見えづらくなっていく。この世界には街灯という概念がないのか?俺たちを照らしてくれるのは、店や建物の中の明かりと月光だけだ。
「それにしてもここの街は広いな……俺たちが何時間歩いてもこの街の終着点には着かないな」
「当たり前じゃない、私たちずっとこの街の周りを回ってるだけなんだから」
俺は彼女の発言に驚嘆する。
彼女は当たり前と言って答えたが俺にとっては、全然当たり前なんかじゃない。
俺はてっきりどこか目的地があってそこに彼女が連れて行くものだと思っていたからこの発言には驚きの他はない。
「何のためにこんな無駄なことすんだよ?そろそろ、こんなことしてる理由くらい教えてくれてもいいんじゃねーか?」
俺は単刀直入に赤髪の彼女に切り出す。すると彼女は、走るのをやめ立ち止まった。
「行き止まり……」
彼女は、やってしまったと言わんばかりに口を開いている。
相変わらず俺の疑問には答える感じはなさそうだ。
「おいおい、どうしたんだよ?」
俺たちが入って来た場所は、辺りが建物で囲まれている月光も入ってこない明かりといえば建物の中からの乏しい光源のみである。
「ダメ、伏せて!」
直後彼女が俺の方へ飛び込んで来た。そのまま地面に転がったあと、鋭利な金属が風を切り裂いて俺の目の前へ走って来た。
幸い彼女が俺をかばないながら飛び込んでくれたおかげで俺には怪我はない。
飛んで来た方向から考えると建物の上から狙われていたようなか気がする……
そして俺は上を見上げるとそこには何人もの人影が屋根の上で俺たちを見下ろしていた。
ダメだ……何が起こっているのか全く分からない……
「はめられたわね」
俺は彼女の発言に懸命に思考を張り巡らす。
そして俺は一つの考えにたどり着く。
「まさかだけど、俺たちってずっとこいつらに狙われてたわけ?」
「ええ、そうよ……だからずっとアイツらを撒こうとしてたんだけどね」
「待ち伏せされたわけだな」
「多分それは、違うと思うわ。おそらくここに誘いこまれたと考えた方が妥当だわ」
彼女が言うには俺たちはずっとこいつらにつけられていて、こいつらを撒こうと何時間も歩いていたらしい。
でも何で、俺たちの命を狙ってるんだ?
あの行為は明らか俺たちに殺意が向けられていたに違いないと思う。
異世界に来てすぐに命狙われるとかたまっもんじゃねぇな……
「じゃあこれからどうするんだ?また逃げるのか?それとも……」
「逃げるわよ!」
俺が話てる途中に遮り、赤髪の女騎士は俺の手を掴み、入って来た入り口の方へ向かって走り出す。
俺は彼女にされるがまま、無理やり足を働かす。
そして建物の暗い間を抜け、大きな街道に足を踏み出す。
屋根の上にいた彼らは追ってこないのか?
後ろからの足音は全く聞こえてこないし、追われている気配がない。
「アイツらって何なんだよ?何で狙われたんだ?なぁ!なぁ!」
俺の強気な発言で彼女はやっと口を開く。
「それを説明したら長くなるの。今はとにかく逃げないと」
ある程度行ったところで俺たちは息切れ建物の影に隠れ、体を壁にまかせる。
彼女の表情から見てもかなりしんどそうだし、それは俺も一緒だ。
ハァハァと酸素を体は取り込もうと俺たちは必死だ。
俺も彼女も息が戻って来たところで俺が質問する。
「なぁ、俺らってこのままずっと逃げるのか?このままだといずれ俺ら捕まってしまうと思うんだが?」
「ああそうよ。アイツらに捕まったらゲームオーバーここで終わりよ。とにかく、今はアイツらから逃げる方法を考えましょ」
「俺たちでアイツらを倒すってのは選択肢はないのか?」
「あなたバカなの?こっちの戦力は二人であったは未知数よ?もうちょっと頭を使って」
確かに彼女の言う通りだ。でも、でもだこのまま逃げ続けるのには限界がある。
そして彼女は俺に親指を立て口を開ける。
「心配しなくても大丈夫よ。私にはちゃんとアイツらから逃げる方法知ってるから」