6.ご縁があれば、またいつか
病を患う雪子と、彼女の恋人の知哉におとずれる、
本当の別れのお話。
めずらしく晴れ渡った
或る夏の朝。朝顔が
露を湛えて目覚める頃、
喪服を着た人の列が
緩やかな坂道を
踏みしめ歩いて行く。
それをぼんやりと
見ながら「暑いなぁ…」
と暢気なことを
考えて上着を脱いだが、
僕自身も喪服の正装
であることを思い出し、
慌てて上着を着直した。
朝の暑さに蝉の声が
染み入るような日
今日は君の葬送。
僕はまだ、
それを信じられない。
------………
「知哉?もし、私が明日
死んじゃったら
どうする?」
それはごくありきたりな
質問で、だけど現実味を
帯びすぎた響きだった。
それは2日前の夕方、
僕と雪子は静かな病室で
他愛もないお喋りを
していた。
「縁起でもないことを
簡単に言うな。」
「ごめんなさーい。」
前日までは酸素マスクを
着けないと呼吸も
ままならなかった雪子、
しかし、その日の彼女の
体調は異様なほどに良好
で、起き上がって
話ができるほどだった。
「…それより雪子…
体調は平気なのか…?」
「うん、今日はなんだか
すごく調子がいい。
だから知哉がくる前に
お掃除したんだ。」
「掃除…?」
「身の回りの物、
ちょっと整頓したの。」
雪子の言うとおり、
病室の荷物はこぢんまり
と整頓されていて…
まるで雪子は
自分の最期を……
「知哉。」
「……ッ…。」
「これだけは
答えて欲しいの。」
雪子は急に真剣な目で
僕のことを真っ直ぐに
見つめる。
その瞳はひどく
透き通っていた。
「知哉はずっと、私を
好きでいてくれる?」
雪子の声は
少しだけ震えていて、
彼女を安心させたくて、
僕は雪子を
そっと抱きしめた。
「…当たり前だ。」
俺の腕の中にすっぽり
収まるくらいに
痩せてしまった雪子。
だが彼女の鼓動は、
限りなく確かな
ものだった。
「知哉…ありがとう…」
やがて、雪子はアイスが
食べたいと言い始める。
「あのね…いちごの
味のおいしい氷のが
食べたい…。」
「わかった。
下の売店で買う。」
今思えば、僕はあの時
部屋に残るべき
だったのだ。
「ありがとう。
わがままばっかり
ごめんね…。」
僕がアイスを買って
再び部屋に戻った時、
雪子はベッドの上で
動かなくなっていた。
呆気ない別れ。
ひとつのアイスにふたつ
のスプーンを手に、
僕は呆然と、いつまでも
立ち尽くした。
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だから今日は君の葬送。
けれど、眠るように
綺麗な顔の君を見ると
また信じられなく
なるんだ。
白い花に囲まれて眠る
雪子に最後の別れを
告げる。
綺麗だなぁ…。
本当に眠ってる
みたいだなぁ…。
最期まで一緒にいて
あげられなくて
本当にごめんな。
ああ…もう…。
何から言えばいいか
わからないや…。
だからまた会ったときに
ぜんぶ話すよ。
さよならじゃない。
絶対にまた逢えるから。
「ご縁があれば、
またいつか。」
別れの言葉、ようやく
ちゃんと言えたよ。
---了
更新が遅れた上に
これが最後でした。
短編集と言いつつ
少なくてごめんなさい!
ですが、普段書かない
視点から物語を書けて
楽しかったです。
読んでくださった
全ての人に感謝です!!
更新がまちまちだった
にもかかわらずたくさん
のアクセスが…!!とても
励みになりました!!!
またどこかで作品を
書き出すと思いますので
、今後もよろしく
お願いします!!
ありがとうございました!