表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
6/47

006 新住居の殺人

 役所では散々な目に会った俺だが、何と無く次の目的地でも散々な目に会うだろうことを予想していると、始めに宣言して置こうか。

 その理由を挙げるとすれば先程までと違い人通りが著しく低下していることと店のジャンルが変わってきていること。後はコンビニがあっても一応店員はいるようだが半分閉店しているのではないかと言う程に店内は薄暗く商品も少なかったからだ。


 取り敢えず、小奇麗な新品の洋服を着てウサギの人形を抱いているような人間が来る場所では無いらしいことは嫌と言う程伝わってくる。


 先程歩いていた場所が表通りなら、こっちは裏通りってことか。

 風俗とかキャバクラみたいな店はまた別のところにあるんだろうが、こっちにはそれと類似した店がチラホラと見受けられる。

 店として成り立たせるのがやっとのような、従業員もまともに雇え無かろう所ばかりだが。


 しかし、それでも一番最初に居た廃墟よりはマシであろうことは分かる。

 無論それは一般的に言えばの話な訳で、俺からしてみればこんなクソ空気の悪い所よりかはホームレスや孤児が徘徊してはいるもここほど空気が悪い訳では無い廃墟の方で拠点を立てたいところである。


 まあその辺はエンゼルと別れてから考えれば良い。

 今は御厚意に甘えている身であるのだから何も言う資格は無いだろう。



「……そういえば、さっきのカードを飲んだことの意味って何だ?」


 ただ、先程の理不尽な飲料摂取に関しては異議を申し立てる権利位あるだろう。

 というか、無きゃ困る。


「えー説明メンドイ」


「…………」


「ホントに面倒臭いんだってば。いずれは分かるって。別に知って無きゃ困る訳でもにゃし」


 説明義務の放棄とか……なら役所に居た段階で役員に説明させておけば良かっただろうに。

 行動の意味を知る機会を自分が潰しておいて説明しないとかどんだけだよ……。


「そんにゃことより、これからして貰う仕事の話をするわ」


 絶対そんな事で済ませられる問題じゃないぞ。

 あのカードの重要性は結構高かったような記憶があるし、理由が無いならわざわざあんなことをすることは無かった。

 しかも実行されたのは役所だぞ。

 何か無ければおかしい、……というか訳の分からない液体を体内に流し込まれた側の人間からしてみれば本気で不安材料なんだが……そんなことを思慮に入れてないよなぁ。


 一応体に不調らしいものは感じられないし、多分大丈夫だろうとは思うが、それでも真実が目の前にあるというのに知らないというのは変だ。


 ……って、仕事?


「仕事って何だ」


「働けクソニート。そう言う事にゃ」


「すまない、全っ然分からん」


 働けって、明日役所が開く時間になったらすぐに免許を受け取りに行ってダンジョンに挑戦しようと考えているのだが……?


「まあ行けば分かるんにゃけど……要は借金取りのアルバイトよ」


「借金取りってアルバイトがやるものなのか……?」


「ホントはどっかの馬鹿がワタシに依頼してきたモンにゃんだけど、アンタがやりなさい」


 ……それは自分のやりたくないことを他人に押し付けようってことでファイナルアンサーか? いやまあそうなんだろうな……口調的に。

 まあ完全な善意で何かされるよりは余程人間味のあることだ。

 俺に出来ることならそれ位やっても構わないだろう。


「大人しく金を出さないようなら最悪、殺していいって」


「え」


「ただ、出来るだけ臓器を傷付けにゃいで、とのことよ」


 ……要は金を出さなきゃ臓器全部うっぱらって金にするってことか。

 よくわからんな、人間って生き物は。

 何故紙切れと命を天秤に掛けることなんて出来るのか、俺には皆目見当もつかない。

 …………そんな社会に飛び込もうとしているのは俺が人間だからだろうか?


「あ、でも頭ぶち抜くのはNG。脳が一番重要らしいわ」


「じゃあ首を切断する方向か」


「ま、そんにゃ感じね。金を出さなければ、だけど」


 ……いや、こんな場所を歩いている時点でもうやることは決まっているようなものだよ。


「ちなみに幾ら徴収すれば良いんだ?」


「んーと……確か七十万?」


 普通に臓器売ってれば釣りが来る額ではあるが、自主的に行くわけでは無いからそんなの関係無いよな。

 ……って、何か平然と殺す殺さないの話をするのは些か異常か?

 いやそれ以前に、俺は恐らく向かって来るであろう人間に対し勝てることへ確信を持っているようだが、重要なことを忘れている。



「……そういや、俺がそいつに勝てるかどうかは分から無くね?」


 そうなのだ。

 何故か自信にばかり満ち溢れている自意識過剰野郎に成り果てている。ファック。

 勇者だからか? 勇者だからなのか? ゴブリン相手に手こずった癖に?


「まー大丈夫でしょ。私もいるし」


「あー……んー……でもなんか思う様に身体が動かないっていうか……」


 そして、冷静分析した自身の体の動きと極々小さな断片の記憶の食い違い。

 記憶が断片のものであるだけに、少しの食い違いなら気付く事も出来なかっただろうが、その食い違いは歯車の大きさが次元から違うのではないかという程のもの。

 どんなに鈍感な奴でも気付くレベルだ。


「あ、それは単純に神の加護を受けられなくなったからじゃにゃ?」


「神の…………え? なんて? 紙の籠?」


「勝手にエコクラフトでも何でもやってにゃよ。何よその胡散臭そうな顔は」


 いやだって……神とか人間の生み出した偶像以外の何ものでも無いだろ。

 正直何夢見てんだよって感じで噴出さなかったのが奇跡だよ。


「……ま、良いわ。ただレベルが十を超えると神の加護が得られなくなるとでも思っとけ」


 …………いやエンゼル。それだと俺の疑問は解消されないんだよ。


 だって食い違いは、レベルが上がる前からあったんだから。




 兎にも角にも、不安は残るが目的地へ辿り着いてしまった以上は腹をくくるしか無い訳で、築何十年建っているか分からないボロアパートの前に辿り着いた俺とエンゼル。

 ある意味死神の役割を担った俺が狩るべき魂の持ち主|(笑)は、このアパートの二階、『二〇三号室』の住人らしい。

 一先ず、五月蠅い音を立てながら鉄の階段を上り、二〇三号室の扉の前に立つと、インターフォンを鳴らす。



 返事無し。


 何度か鳴らしてみたがやはり返事は無く、留守かとも思ったがどうやらそうじゃないらしい。


「中から人の気配はするからいる筈なんにゃけどねー」


「……あーエンゼルさん一回降りてくれる? 後、相手のお名前は?」


「にゃ? 確か斉藤……とかなんとか?」


 それ絶対適当に言っただろ、なんて思いながらも俺はパキパキと指を、ゴキゴキと首を鳴らし、一度深呼吸する。合ってるに越したことは無いけど、正直名前とかどうでも良いし。

 吸って……吐いて……もう一度吸って……吐き出す!



「斉藤ゴラァ! 金返せやこの○○○○がぁ!」


 言って、何度も扉を蹴とばす。


「中に居んのは分かってんだよ! さっさとここ開けろやクソ虫が!」


 言って、乱暴にインターフォンを連打する。

 その後も罵詈雑言吐き連ねながら斉藤|(仮)を攻め立てるその様子を見たエンゼルは唖然としていた。

 俺、仕事とプライベートはキッチリ分ける派だから、キャラとかそんなの気にしない。

 声にドス効かせて相手脅すのに何の抵抗も無いし、問題無し。



 ……ただ。


「ん? 何だ最初から開いてたのか……よ!」


 蹴った反動で扉が開くのを見て、俺はもう一度扉を蹴とばしてから、中へ侵入するも、クラッカーが弾ける様な音……銃声によって玄関先で止まる。


「う、ううう動くなぁ!」


「……あぁ?」


 中に居たのは、見るからに冴えない中年男性。ただその手に収まっているのはしっかりと弾が入った拳銃。容易に人を殺すことの出来る道具だった。

 拳銃を持つ斉藤|(仮)の手は震え、あからさまに此方へ恐怖を抱いているのにどうやら威嚇のつもりらしい。

 撃ったであろう銃弾は足元で火薬の臭いと共に白い煙と巻き上がらせている。


「お、大人しく帰ればみ、見逃してやる!」


 見逃すって……何で俺が追い詰められた見たくなってんだよ。


「あぁ…………そうかい!」


 次の瞬間には動いていた。

 というか、カーテンも締め切られているこの薄暗い部屋で一瞬怯える視野の狭くなった男の目から消えることなんて容易な訳で、次の瞬間には素早く鉄の剣を取り出しその首を刈り取る俺の姿があった。

 こんなのは早業でも何でもない、ただの錯覚を利用した不意打ちに過ぎない。

 ……格下にしか使えない無様な技だ。





 …………? ……って危ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

 何が『……格下にしか使えない無様な技だ(キリッ)』だよ!? 拳銃持った相手に対して普通特攻しますかね!?

 反射的に体が動いた訳だが、今俺は確かに生死を彷徨った。

 というか普通出来ねぇよ。拳銃を前にしてあんな判断。


「あー……殺っちゃったの。もーメンドクサイ。電話しなきゃいけにゃいじゃん」


 後から入って来たエンゼルはそんなことを言うと口の中から携帯を取り出すと何処かへ連絡し、その後十分かそこいらの時間が経過した辺りだっただろうか。

 数人の男がズカズカと部屋の中に入って来て、一言二言エンゼルと会話した後に大きな袋へ斉藤|(仮)の頭と身体を収納し、エンゼルに一礼してから去って行ったのは。


 エンゼルの話によるとあれが今回の依頼主の使いらしいのだが、エンゼルは部下に任せて自分に挨拶もしないその親玉に腹を立てているようだった。

 その辺の考えはイマイチ理解できないものだったが、どうにもエンゼルとそいつは親しい間柄らしいからそういう思考もアリなのだろうか。



「で、報酬は受け取ったのか?」



 取り敢えず、その報酬でこの服の金を支払えればいいのだが。

 ……というか、血が飛んでこない位置まで回避するまでが反射でやったらしいのだが、相手の首を切断し、返り血を浴び無い所まで即時移動。

 人殺しに精通しているとしか思えない行動である。


 そんな俺の行動に対し、エンゼルは気にした様子は無い。

 恐らくこの国は殺しが普通に蔓延っている国なのだろう、まあ見るからに治安は良く無さそうだしその辺は何と無く分かっていた。


「あぁ、この場所。アンタここを好きに使って良いわよ」


「えっ」


「だから、それが報酬? さっきのヤツ家賃だけは払ってたようだし、今月は金出さなくても良い。ま、ダンジョン行くみたいだし金貯めてすぐに引き払っちゃってもいいわ。取り敢えずの寝床にはイイでしょ」


 ……あー? …………ってマジか!

 おいおいそんな話だったんならもう少し行動考えたわ。

 ……さっきのヤツの血しぶきで殺人現場見たくなってんじゃん。

 あ、殺人現場そのものか。


 まあ兎にも角にも。


 取り敢えず、片付けが必要なことは確かだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ