第23話 それでも、欲しいと言ってほしい
「これが全部、利益になるのか?」
机に並んだ金を、アオが見た。
「ならん」
ベルンが硬貨を分ける。
まず、魔灯を仕入れた金。次に、税として納める分。
領主の紋章がついた箱へ硬貨が入ったところで、アオの顔が動いた。
「黄色い鎖だ」
「前に見えたもの?」
ミナが聞くと、アオはベルンの胸元を指した。
「この箱の方へ伸びている。壁の先は、薄くなって見えない」
「税と関係があるのかもしれないわね」
「領主は魔灯を売ってないのに、なぜ金をもらう?」
ベルンが箱を閉じた。
「この町で店を持ち、道を使い、物を運んでいるからだ。兵士や役人の給金にもなる」
「払わなかったら?」
「商売を続けられなくなる。悪質なら店も取り上げられるぞ」
アオは箱を見たまま、少し考えた。
「払うかどうかを、自分だけで決められない」
「そういうことだ。使ってしまわないよう、先に分ける」
俺は小さくなった金の山を見た。
ヒナの銅貨を数えた夜を思い出す。
入ってきた金を全部使ったら、また次の材料が買えなくなる。
「この残りから、契約どおり四分の一だ」
ベルンがアオの前へ報奨金を置いた。
「これが、俺の金になったのか?」
ミナが記録をつけ、うなずく。
アオはしばらく硬貨を見てから、自分の手で袋へ入れた。
「よかったな」
俺が言うと、アオは袋を握り直した。
◇
魔灯の配達を終えたあと、三人で家へ帰った。
「今日は早いね!」
ヒナが出迎え、アオとミナを見て嬉しそうに戸を開けた。
机には、色違いの髪飾りが並んでいた。
「十二個ある」
アオが数える。
「お兄ちゃんが仕事してる間に作ったの」
アオは預かっていた一つを、机へ戻した。
「これは売れなかった」
「そっか」
ヒナの肩が少し下がる。
アオが報奨金の袋を出した。
「これで全部買えるか?」
「え?」
「俺が買えば、全部売れたことになる」
「駄目」
ヒナが硬貨を押し戻した。
アオの手が止まる。
「足りないのか?」
「お金をもらいたいわけじゃないの」
「髪飾りと交換する」
「私を助けるために、買おうとしてるでしょ?」
「ああ」
ヒナが自分の髪飾りを持ち上げた。
「私は、これが欲しいと思った人に買ってもらいたい」
「俺も欲しいと思っている」
「本当に髪につけたいの?」
アオが自分の髪を触った。
「つけたことはない」
俺は吹き出した。
ヒナも笑ったが、硬貨は受け取らなかった。
「助けてもらうだけじゃ、何も変わらないから」
「俺が働き始めたんだ。無理しなくても――」
「また、お兄ちゃん一人で何とかするの?」
ヒナがこっちを見た。
「私も稼げるようになったら、二人で相談できる。今度は、一人で決めさせない」
俺は言い返せなかった。
ヒナを守りたかった。
でも、ヒナだって、俺を守りたいと思ってくれていた。
「……分かった。一緒に考えよう」
ミナが机へ椅子を寄せた。
「家にいる日は作れる。でも市場へ行くと、作れないのね?」
「うん。歩きながらは作れないもん」
「俺たちも、仕事が終わる頃には市場が閉まるしな」
アオが髪飾りを見た。
「髪飾りだけで市場へ行けばいい」
「自分で歩かないぞ」
「それは分かってる」
「じゃあ、どうする?」
アオは答えず、髪飾りを持ち上げた。
ヒナがその手を押し戻さずに言った。
「もう少し、預かってくれる?」
「売れてないぞ」
「それでも考えてくれるんでしょ?」
「ああ」
今度は金を渡さず、売れなかった一つをアオが受け取った。
明るくない灯りにも、欲しいと言う人がいた。
ヒナの作った物をそう言ってもらう方法を、今度は四人で探すことになった。





