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第21話 暗いから、欲しい

「あそこ、人がいる」


 店じまいの始まった市場で、アオが塔を指さした。


 家々には明かりがつき始めている。なのに、塔の最上階だけが暗かった。


「魔灯を買う金がないんじゃないか?」


「聞けば分かる」


 アオが歩き出す。


 今日は遅くなるとヒナに伝えてある。俺とミナもついていった。



 入口の札をミナが読んだ。


「観測中。見学者は静かに上ること、だって」


 上っていいなら、行ってみよう。


 そう言ったことを、途中で後悔した。


「何段あるんだよ……」


「数えてない」


「そういう意味じゃない!」


 ようやく着いた最上階で、一人の男が机に向かっていた。


 明かりをつけて、図を見る。


 空を見上げ、顔をしかめる。


 明かりを消して、また空を見る。


 机へ顔を戻した途端、今度は紙へ近づいていた。


「誰だ、お前たちは?」


「見学の札を見て来ました。邪魔してすみません」


 俺が答える横から、アオが聞いた。


「なぜ、つけたり消したりしてる?」


「星図を読むには明かりがいる。だが、明るくすると暗い星が見えなくなる」


 男が消えた魔灯を指さす。


「今なら星は見える。でも、星図が読めん」


 アオが手の中を見た。


 俺も見た。


「……これか?」


 アオはうなずき、持ってきた魔灯を星図の横へ置いた。


 弱い光が、紙の上に広がる。


「何だ、その暗い魔灯は」


「星は?」


 アオに聞かれ、男が空を見上げた。


 もう一度、星図へ目を戻す。


 顔が少しずつ変わった。


「……読める」


 空を見る。


「星も見える」


「これなら、消さなくていい」


 アオが言うと、男は魔灯を自分の方へ寄せた。


「いくらだ?」


 俺はミナを見た。


 ミナも一瞬、返事を忘れた顔をしていた。


 慌てて値段を言うと、男は袋から硬貨を取り出した。


 高いとも、安くしろとも言わなかった。


「明るい物に、布でもかぶせようと思っていたんだ。最初から暗い物があるとはな」


「暗いから買ったのか?」


 アオが確かめる。


「ああ」


 ミナが代金を数え、受け取った。


 男はもう俺たちではなく、星図を見ている。


 明かりを消すために、手を伸ばすことはなかった。


 売れた。


 昨日からずっと俺たちの手にあった物が、別の人の机で使われている。


「やっと一個か」


 俺が言うと、アオは窓の外を見た。


「あと二十三個ある」


「星を見る人を、あと二十三人探すのか?」


「違う」


 アオは星図の横を指した。


「明るいと困る人間ならいい」



 ベルンから次の一個を預かり、夜も仕事をしている店を訪ねた。


 裁縫の工房では、糸の色が分からないと返された。


 治療院でも、患者の顔色が見えないと断られた。


「一回売れたくらいじゃ、うまくいかないか」


 俺が言うと、アオは首をひねった。


「星図を読むには必要だった。でも、星を見るには明かりが邪魔だった」


「明るい方がいい人と、暗い方がいい人が、同じところにいればいいのか?」


 ミナが聞き返す。


「そんな都合のいい場所がある?」


 そのとき、二階から怒鳴り声が落ちてきた。


「明かりを消せ!」


「荷物が見つからないんだから、仕方ないだろ!」


 三人で顔を上げた。


 宿屋の窓が、明るく光っていた。


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