第21話 暗いから、欲しい
「あそこ、人がいる」
店じまいの始まった市場で、アオが塔を指さした。
家々には明かりがつき始めている。なのに、塔の最上階だけが暗かった。
「魔灯を買う金がないんじゃないか?」
「聞けば分かる」
アオが歩き出す。
今日は遅くなるとヒナに伝えてある。俺とミナもついていった。
◇
入口の札をミナが読んだ。
「観測中。見学者は静かに上ること、だって」
上っていいなら、行ってみよう。
そう言ったことを、途中で後悔した。
「何段あるんだよ……」
「数えてない」
「そういう意味じゃない!」
ようやく着いた最上階で、一人の男が机に向かっていた。
明かりをつけて、図を見る。
空を見上げ、顔をしかめる。
明かりを消して、また空を見る。
机へ顔を戻した途端、今度は紙へ近づいていた。
「誰だ、お前たちは?」
「見学の札を見て来ました。邪魔してすみません」
俺が答える横から、アオが聞いた。
「なぜ、つけたり消したりしてる?」
「星図を読むには明かりがいる。だが、明るくすると暗い星が見えなくなる」
男が消えた魔灯を指さす。
「今なら星は見える。でも、星図が読めん」
アオが手の中を見た。
俺も見た。
「……これか?」
アオはうなずき、持ってきた魔灯を星図の横へ置いた。
弱い光が、紙の上に広がる。
「何だ、その暗い魔灯は」
「星は?」
アオに聞かれ、男が空を見上げた。
もう一度、星図へ目を戻す。
顔が少しずつ変わった。
「……読める」
空を見る。
「星も見える」
「これなら、消さなくていい」
アオが言うと、男は魔灯を自分の方へ寄せた。
「いくらだ?」
俺はミナを見た。
ミナも一瞬、返事を忘れた顔をしていた。
慌てて値段を言うと、男は袋から硬貨を取り出した。
高いとも、安くしろとも言わなかった。
「明るい物に、布でもかぶせようと思っていたんだ。最初から暗い物があるとはな」
「暗いから買ったのか?」
アオが確かめる。
「ああ」
ミナが代金を数え、受け取った。
男はもう俺たちではなく、星図を見ている。
明かりを消すために、手を伸ばすことはなかった。
売れた。
昨日からずっと俺たちの手にあった物が、別の人の机で使われている。
「やっと一個か」
俺が言うと、アオは窓の外を見た。
「あと二十三個ある」
「星を見る人を、あと二十三人探すのか?」
「違う」
アオは星図の横を指した。
「明るいと困る人間ならいい」
◇
ベルンから次の一個を預かり、夜も仕事をしている店を訪ねた。
裁縫の工房では、糸の色が分からないと返された。
治療院でも、患者の顔色が見えないと断られた。
「一回売れたくらいじゃ、うまくいかないか」
俺が言うと、アオは首をひねった。
「星図を読むには必要だった。でも、星を見るには明かりが邪魔だった」
「明るい方がいい人と、暗い方がいい人が、同じところにいればいいのか?」
ミナが聞き返す。
「そんな都合のいい場所がある?」
そのとき、二階から怒鳴り声が落ちてきた。
「明かりを消せ!」
「荷物が見つからないんだから、仕方ないだろ!」
三人で顔を上げた。
宿屋の窓が、明るく光っていた。





