↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

第16話 俺に、三枚払わせてみろ

「お兄ちゃん、起きて」


 肩を揺すられ、目を開けた。


「商会まで一時間かかるんでしょ?」


 俺は跳ね起きた。


 仕事の初日から、妹に起こされることになるとは思わなかった。



 商会へ着くと、ベルンは三枚の契約書を机へ並べた。


 石盤を見て、俺の足が一瞬止まる。


「奴隷契約ではない」


「……分かっています」


 ミナが真ん中へ座り、俺とアオは左右から紙をのぞいた。


「試しに働く期間は一か月。日の出から日没前まで、昼休みあり。六日働いて一日休みね」


 俺の仕事は荷下ろしと配送の手伝い。七日ごとに銀貨十八枚、昼飯付き。


 ミナは在庫と帳場。同じ十八枚に、部屋と三食がつく。


 アオの紙を読んだところで、本人が声を上げた。


「俺だけ少ない」


 十二枚だった。部屋と食事のほか、読み書きを教えると書いてある。


「金貨百枚の価値があると言っただろ」


「一度の結果だ。毎週、同じだけ稼げる証拠にはならん」


 ベルンは契約書の続きを指した。


 ミナが読む。


「アオの提案で新しく生まれた利益の四分の一を、追加で払う……」


「上限は?」


「ない」


 アオの目が紙へ戻った。


「それと、追加分の計算に使った売上と費用の記録は、本人へ見せる」


「見られるのか」


「お前が利益を生んだ取引だけだ」


「全部ではない?」


「全部ではない」


「この契約でいい」


 即答だった。


 俺は自分の紙を指さした。


「仕事で俺の火を使うときは、別に報酬を決める……これも本当ですか?」


「ああ。商品に使う前には、私へ言え」


 ミナが続きを確認する。


「普通に仕事をして起きた事故は商会が負担する。故意に壊したら本人が弁償。辞めるなら前日までに伝えること」


 その次で、アオを見た。


「帳簿を、許可なく開かない」


「俺を見るな」


「お前のために入れた」


 ベルンが言うと、俺は笑ってしまった。


 署名を済ませ、字を書けないアオは石盤に本人の印を残した。


 アオは俺たちとベルンを見比べる。


「鎖が出ない」


 俺は知らないうちに止めていた息を吐いた。


「働いても、ベルンさんの物にはならないんだな」


「当たり前だ。嫌なら辞められる。その代わり、給料も止まるが」


「それは困る」


「なら働け」



 昼休み、アオが売れなかった髪飾りを差し出した。


「売れない理由を教えてほしい」


 ベルンは受け取らず、机へ銅貨を三枚並べた。


「私に売ってみろ。買いたくなくなる答えをするたび、一枚戻す」


 伸びかけたアオの手が止まる。


「三回間違えたら?」


「売上はゼロだ」


 アオはベルンの髪を見た。


「自分では使わないな。家族への贈り物はどうだ?」


「私に髪を結ぶ家族がいると、確かめたのか?」


「……まだだ」


 銅貨が一枚、財布へ戻った。


 俺は髪飾りを受け取り、両端を軽く引いた。


「ほら、丈夫だ。店の物より長く使える」


「店の物も同じように試したか?」


「試してないけど、これは――」


 もう一枚、消えた。


「丈夫なのは本当だぞ」


「確かめていない話を足せば、その本当まで疑われる」


 俺は口をつぐんだ。


 残る一枚を見て、ミナが慎重に言う。


「金属の髪留めより軽いから、長くつけても頭が痛くなりにくいはずです」


「誰か一日つけてみたのか? 途中でほどけないか?」


「……それも、まだです」


 最後の一枚が消えた。


 俺たちは、空になった机を見る。


「客は、間違いを見つけるたびに教えてはくれん。黙って買うのをやめる」


 ベルンが財布をしまった。


「まず客を見ろ。商品を試せ。知らないところを、売るための想像で埋めるな」


「それで売れる?」


 アオが聞く。


「ほかの品でなく、その品を選ぶ理由も必要だ」


 俺は手の中の髪飾りを見た。


 好きな妹が作ったから。


 それだけで欲しくなるのは、俺だけだったんだ。


 ベルンが立ち上がる。


「ついてこい。練習に使う商品を選ばせてやる」


 連れていかれたのは、奥の倉庫だった。


 大きすぎる壺。重そうな携帯用の灯り。模様のずれた食器。


「これ、全部売れ残りですか?」


「そうだ」


 ベルンが笑った。


「誰にも売れなかった物を、お前たちで売ってみろ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【漫画版がAmazonで無料!】
漫画『神の奴隷』表紙:Amazonで無料で読む
少年二人が奴隷商人を出し抜く逆転劇を、漫画でも!
▶ 漫画版『神の奴隷』を無料で読む

お読みいただきありがとうございます!
続きが気になったら、ぜひブックマークを。
面白かったら、評価で応援していただけると嬉しいです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。