第15話 三人そろって、一つも売れない
「前と同じだね」
翌朝、薪と獲物を持って帰った俺へ、ヒナが笑った。
昨夜は二人も家へ泊まり、アオはまだ髪飾りを眺めている。
「お兄ちゃんの火も戻ったし、前みたいに暮らせるね」
「暮らすだけならな」
薪を下ろすと、ヒナが首をかしげた。
「じゃあ、どうして商会で働くの?」
俺は手首の布を直した。
「火があれば、お前を守れると思ってた」
「私が勝手に借金したから……」
「そのくらい困ってたことに、俺は気づかなかった」
ヒナが口を閉じる。
「今日食う物は取れる。でも、急に薬代が必要になったら、何もなかった」
縄をほどきながら続けた。
「借金ができても、自分を売る以外の方法を知らなかった。今度は、それ以外でお前を守りたい」
「……毎日帰ってくる?」
「ああ。ここから通う」
ヒナは少し考え、うなずいた。
「なら、いいよ」
◇
「かわいい。いくら?」
市場へ着いてすぐ、若い女の人が足を止めた。
アオが髪飾りを差し出す。
「銅貨三枚」
「三枚も出すなら、店で好きな物を選ぶよ」
「三枚で売らないと、利益が出ない」
「それは私には関係ないでしょ」
女の人は行ってしまった。
アオがその背中を見る。
「説明したのに」
「作る側の都合だけじゃ買わないわよ」
ミナが言うと、俺は髪飾りを受け取った。
「任せろ。もっと元気よく言えばいいんだ」
息を吸う。
「髪飾り、銅貨三枚です! 丈夫です! 妹が一生懸命作りました!」
通りかかった人が振り返った。
「一生懸命作ったら、丈夫になるの?」
「えっ。いや、その……」
答えを探している間に、もう背中しか見えなくなった。
ミナが額に手を当てる。
「作った人の努力も、買う人には関係ないの」
「厳しすぎないか、商売って」
「貸して」
今度はミナが髪飾りを持った。
「布と糸を使って、手作業で作っています。髪へ結びやすく、長さは――」
声を掛けた相手は、途中で歩き去った。
「最後まで聞かなかった」
アオが言う。
「……説明が長かったのね」
「全員駄目じゃないか」
俺たちは髪飾りを見た。
朝から何も変わっていない。壊れていないし、なくしてもいない。
でも、銅貨も一枚も増えていなかった。
母親と歩いていた小さな女の子が、こちらへ手を伸ばしかけた。
「こっちがいい」
俺は顔を上げた。
母親は少し先の装飾品店を見る。
「ちゃんとしたお店で買いましょう」
二人は店へ入っていった。
そこには髪飾りが箱に入れられ、色ごとに並んでいた。
「ヒナのも、ちゃんとしてるぞ」
つい言うと、ミナは俺の手を見た。
「私たちはヒナを知ってる。でも、あの人は知らないでしょう」
髪飾りだけじゃない。
これを持っている俺たちも、見られているのか。
◇
日が傾いても、一つしか持ってこなかった髪飾りは売れなかった。
「二枚に戻すか?」
「それじゃ利益がないわ」
「売れないよりはいいだろ」
「よくない」
アオが言った。
「ヒナの金を増やすために来たんだろ」
俺は口を閉じた。
いつの間にか、売ることしか考えていなかった。
「じゃあ、どうする?」
「明日、ベルンさんに聞く」
「分からないことが分かった、ってか?」
「増えた」
「増えただけかよ」
アオは髪飾りを丁寧にしまった。
そこだけは、今日初めて持ったときと変わらなかった。
「なくすなよ。ヒナのだからな」
「なくさない」
俺は家へ、二人は住み込みの部屋がある商会へ向かう。
ガルドに勝った三人が、髪飾り一つ売れなかった。
明日から働く店の主人に、何と言われるだろう。





