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第15話 三人そろって、一つも売れない

「前と同じだね」


 翌朝、薪と獲物を持って帰った俺へ、ヒナが笑った。


 昨夜は二人も家へ泊まり、アオはまだ髪飾りを眺めている。


「お兄ちゃんの火も戻ったし、前みたいに暮らせるね」


「暮らすだけならな」


 薪を下ろすと、ヒナが首をかしげた。


「じゃあ、どうして商会で働くの?」


 俺は手首の布を直した。


「火があれば、お前を守れると思ってた」


「私が勝手に借金したから……」


「そのくらい困ってたことに、俺は気づかなかった」


 ヒナが口を閉じる。


「今日食う物は取れる。でも、急に薬代が必要になったら、何もなかった」


 縄をほどきながら続けた。


「借金ができても、自分を売る以外の方法を知らなかった。今度は、それ以外でお前を守りたい」


「……毎日帰ってくる?」


「ああ。ここから通う」


 ヒナは少し考え、うなずいた。


「なら、いいよ」



「かわいい。いくら?」


 市場へ着いてすぐ、若い女の人が足を止めた。


 アオが髪飾りを差し出す。


「銅貨三枚」


「三枚も出すなら、店で好きな物を選ぶよ」


「三枚で売らないと、利益が出ない」


「それは私には関係ないでしょ」


 女の人は行ってしまった。


 アオがその背中を見る。


「説明したのに」


「作る側の都合だけじゃ買わないわよ」


 ミナが言うと、俺は髪飾りを受け取った。


「任せろ。もっと元気よく言えばいいんだ」


 息を吸う。


「髪飾り、銅貨三枚です! 丈夫です! 妹が一生懸命作りました!」


 通りかかった人が振り返った。


「一生懸命作ったら、丈夫になるの?」


「えっ。いや、その……」


 答えを探している間に、もう背中しか見えなくなった。


 ミナが額に手を当てる。


「作った人の努力も、買う人には関係ないの」


「厳しすぎないか、商売って」


「貸して」


 今度はミナが髪飾りを持った。


「布と糸を使って、手作業で作っています。髪へ結びやすく、長さは――」


 声を掛けた相手は、途中で歩き去った。


「最後まで聞かなかった」


 アオが言う。


「……説明が長かったのね」


「全員駄目じゃないか」


 俺たちは髪飾りを見た。


 朝から何も変わっていない。壊れていないし、なくしてもいない。


 でも、銅貨も一枚も増えていなかった。


 母親と歩いていた小さな女の子が、こちらへ手を伸ばしかけた。


「こっちがいい」


 俺は顔を上げた。


 母親は少し先の装飾品店を見る。


「ちゃんとしたお店で買いましょう」


 二人は店へ入っていった。


 そこには髪飾りが箱に入れられ、色ごとに並んでいた。


「ヒナのも、ちゃんとしてるぞ」


 つい言うと、ミナは俺の手を見た。


「私たちはヒナを知ってる。でも、あの人は知らないでしょう」


 髪飾りだけじゃない。


 これを持っている俺たちも、見られているのか。



 日が傾いても、一つしか持ってこなかった髪飾りは売れなかった。


「二枚に戻すか?」


「それじゃ利益がないわ」


「売れないよりはいいだろ」


「よくない」


 アオが言った。


「ヒナの金を増やすために来たんだろ」


 俺は口を閉じた。


 いつの間にか、売ることしか考えていなかった。


「じゃあ、どうする?」


「明日、ベルンさんに聞く」


「分からないことが分かった、ってか?」


「増えた」


「増えただけかよ」


 アオは髪飾りを丁寧にしまった。


 そこだけは、今日初めて持ったときと変わらなかった。


「なくすなよ。ヒナのだからな」


「なくさない」


 俺は家へ、二人は住み込みの部屋がある商会へ向かう。


 ガルドに勝った三人が、髪飾り一つ売れなかった。


 明日から働く店の主人に、何と言われるだろう。


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