第31話 名前を書くということ
最初に名前を書いたのは、誰だったのか。
それは、もう誰も覚えていない。
◇
王都ギルドの掲示板には、いつものように依頼が並んでいた。
その横にある小さな欄。
《判断者:____》
今では、それは特別なものではない。
空欄が残る日もある。
複数の名前が並ぶ日もある。
震えた字の日もあれば、迷いのない字の日もある。
それでも、欄は消えなかった。
◇
地方ギルド。
セラ・ミールは、一枚の依頼書を見ていた。
《街道沿いの魔物排除》
《危険度:低》
《補足:地形不安定》
以前なら、迷っただろう。
判断材料を並べ、線を引き、誰かの顔を思い浮かべた。
今は、違う。
彼女は、静かにペンを取った。
欄に、自分の名前を書く。
《判断者:セラ・ミール》
字は、まだ少しだけ揺れている。
だが、手は止まらなかった。
◇
依頼は、限定的に成功した。
完全排除ではない。
被害もゼロではない。
それでも、誰も責めなかった。
責める理由がないからではない。
判断が、そこにあったからだ。
◇
王都。
エドガーは報告書を閉じ、静かに頷いた。
「……回り始めたな」
大きな改革はない。
劇的な変化もない。
ただ、
判断が、誰かの名前と一緒に残る。
それだけだ。
◇
遠くの街。
アルトは宿の窓から、街道を眺めていた。
噂を聞いたわけではない。
報告を受けたわけでもない。
それでも分かる。
《最適化》が、静かに結果を出す。
——依存:なし
——主体:確立
——介入必要性:なし
十分だ。
世界は、もう考えている。
完璧ではない。
間違いもある。
それでも、自分の名前で決めている。
◇
アルトは、荷物をまとめる。
長居する理由はない。
誰も、呼ばない。
それでいい。
最後に、窓の外を見た。
誰かが、どこかで、
震えながら名前を書いている。
その光景を想像しながら、彼は小さく笑った。
「……成功だな」
《最適化》は、何も言わなかった。
もう、評価する必要がないからだ。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
あと数話で完結となります。
ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。




