第28話 期限の向こう側を見る者
期限の外を考え始めた人間は、まだ少ない。
だが、ゼロではない。
◇
地方ギルドの朝は、相変わらず静かだった。
だがセラ・ミールの机の上には、これまでになかったものが積まれている。
——過去の記録。
三か月の試行運用が始まる前。
事故が多かった頃。
判断が遅れ、責任の所在が曖昧だった頃。
彼女は、それらを一つ一つ読み返していた。
「……同じですね」
呟きは、独り言だ。
事故の種類。
依頼主の不満。
現場の混乱。
形は違っても、原因は似ている。
——判断が、誰のものでもなかった。
◇
セラは、白紙の紙を一枚取り出した。
整理表でもない。
線引きでもない。
見出しだけを書く。
《期限後に起きうる問題》
その下に、箇条書きで書き足す。
《責任の再集中》
《判断の属人化》
《“あの三か月は楽だった”という誤解》
ペンを止める。
書いていて、怖くなった。
これらは、
**ほぼ確実に起きる**。
◇
一方、王都。
エドガーもまた、似た作業をしていた。
三か月後。
制度が通常運用に戻ったとき。
現場は、どうなるか。
「……戻るな」
口に出した瞬間、確信した。
今の安心は、期限付きだ。
期限が切れた瞬間、
人は“楽だった状態”を思い出す。
◇
その夜、宿。
俺は、机の前で何も書かずに座っていた。
《最適化》が、静かに整理を続けている。
——期限後想定:未共有。
——現場理解:不足。
——主導者不在時リスク:高。
……誰かが、考え始めている。
だが、まだ繋がっていない。
◇
数日後。
地方ギルドから、一本の問い合わせが入った。
匿名。
内容は短い。
《試行期間終了後、同様の判断はどこまで許容されますか》
答えを求めている。
だが、答えを出せば、依存が戻る。
《最適化》が、慎重な選択肢を提示する。
——沈黙:不安増大。
——明確回答:依存再発。
——問い返し:中立。
「……これだな」
俺は、短く呟いた。
◇
翌日、掲示板に新しい紙が貼られた。
質問の形だ。
《期限後、判断を続けるのは誰か》
答えは、書かれていない。
◇
その紙を見て、セラは息を止めた。
自分が書いた紙と、
ほぼ同じ問いだったからだ。
「……私たち、か」
誰かが代わりに背負ってくれる期間は、終わる。
その後も、
判断し続けるのは――現場だ。
◇
夜。
俺は、窓辺に立ち、街を見下ろしていた。
《最適化》が、静かに結論を出す。
——次段階条件:主体の移行。
——失敗率:上昇予測。
——長期安定性:向上可能。
失敗は、増えるだろう。
だが。
それは、
**自分の足で立った結果の失敗**だ。
期限の向こう側を見る者が、
少しずつ、現れ始めている。
俺は、息を吐いた。
そろそろだ。
俺がいなくても、
世界が考え続けられるかどうか。
それを確かめる時間が、
近づいていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




