第25話 答えを出すとき
久しぶりに踏み入れたギルドの中は、少しだけ匂いが違った。
忙しさの匂いではない。
混乱の匂いでもない。
――緊張だ。
視線が、自然と集まる。
だが誰も声をかけてこない。
それは歓迎でも警戒でもなく、
**「判断する人間」を前にした沈黙**だった。
◇
応接室には、エドガーとハーゼン、それから数名の職員が集まっていた。
「……来たな」
ハーゼンの声は、硬い。
「一時的だ」
俺は、先に釘を刺した。
「今日、答えを出す。それだけです」
それ以上は、戻らない。
《最適化》が、内部で最終整理を行う。
——影響範囲:広。
——依存再発リスク:高。
——回避策:明確な期限設定。
分かっている。
だからこそ、短く、限定的に。
◇
「現状の問題は、三つあります」
俺は、机の上に紙を並べた。
「一つ。安全性は確保されたが、信頼が下がっている」
「二つ。現場は動けるようになったが、責任を恐れている」
「三つ。守れなかった声が、蓄積している」
誰も、否定しない。
「この三つを、同時に解決する方法はありません」
断言する。
空気が、さらに張り詰めた。
「だから、優先順位を決めます」
◇
エドガーが、静かに聞く。
「……何を、優先する」
「人命です」
即答だった。
「次に、現場の判断力」
「信頼は、その後です」
ハーゼンが、眉をひそめる。
「それでは、依頼主が――」
「離れます」
遮った。
「短期的には」
誰かが、息を呑んだ。
「でも、事故が出れば、全部終わります」
それは、脅しではない。
現実だ。
◇
「具体策は?」
エドガーが問う。
「三つ、答えを出します」
俺は、紙を一枚ずつ示した。
「一つ目。
**危険度“低”の再定義**」
《地形変化・情報不足がある場合、原則“中”扱い》
「これで、“想定外”は減ります」
◇
「二つ目。
**限定的な成功の承認**」
《完全排除でなくても、被害防止を成果として記録》
「これで、“やらなかった方が得”は消えます」
◇
「三つ目」
少しだけ、言葉を選んだ。
「**責任の肩代わり**です」
室内が、ざわつく。
「判断の結果による“非致命的損失”は、
一定期間、ギルドが公式に引き取る」
期限を、はっきり言う。
「三か月」
《最適化》が、警告を鳴らす。
——負荷集中。
——制度疲労、確定。
分かっている。
だが。
「その間に、現場が“自分で線を引ける”ようになります」
ならなければ、この世界は元に戻るだけだ。
◇
沈黙。
長い。
最初に口を開いたのは、エドガーだった。
「……短期的には、数字が悪化する」
「はい」
「責任は、我々が背負う」
「はい」
彼は、深く息を吸った。
「それでも、やる価値はあるか」
俺は、はっきり答えた。
「あります」
理由は、一つだけだ。
「もう、現場は考え始めています」
「今、支えなければ、折れます」
◇
ハーゼンが、腕を組んだまま言う。
「……条件は」
「あります」
すぐに続ける。
「三か月後、俺は完全に引きます」
全員が、こちらを見る。
「この仕組みが回らなければ、
それは“俺の考え方が間違っていた”ということです」
責任逃れではない。
責任の取り方だ。
◇
しばらくして、エドガーが頷いた。
「……受け入れよう」
その一言で、決まった。
制度が、動いた。
◇
夕方。
ギルドを出ると、空は赤く染まっていた。
《最適化》が、最終記録を残す。
——介入:最大。
——期限:設定済。
——後戻り:不可。
これでいい。
答えを出すときは、
いつだって遅すぎるか、早すぎるかのどちらかだ。
だが、出さなければ、何も始まらない。
俺は、夕焼けの中を歩きながら思った。
これが、
**俺がこの世界で出す、最初で最後の“答え”**だと。
そしてそれは、
きっと――
世界にとって、一番重い答えになる。
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