37 職人(7)
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領地に戻って来てから始めた、あれやこれやの実験が軌道に乗り始めた。
ジャガイモから始まった新しい作物の作付けは、クローネの協力と検索機能の下、どんどんと種類を増やし、成果が上がっている。
もちろん、短期間で様々な作物の栽培方法を確立できたのは、ホリーの歌による後押しがあってのことだ。
ホリーの歌に惹かれた精霊たちが張り切った結果、植えた作物はあっという間に育つだけでなく、味も良くなってしまったのには驚いた。
新しく雇った人たちも皆精力的に働いてくれている。
【ブリーダー】の【称号】を持つノアはぐんぐんと能力を向上させ、コッコだけでなく軍馬も増えた。
軍馬はまだ子供だけど、魔物だけあって成長は早いから、来年には軍馬としてデビューできるだろう。
今からそのときが楽しみだと馬好きの叔父はウキウキとしていた。
これほど順調に飼育する魔物の数を増やすことができたのは、職人さんの協力もあったからだ。
お兄様から紹介してもらったドルフさんは思った以上に優秀な職人さんだった。
コッコの卵を孵化させるための孵化器や、雛を温めるための育雛器など、こちらが欲しいと思った魔道具をあっという間に開発してくれた。
ドルフさんは魔道具の作製以外にも鍛冶などもできるそうなので、これから益々頼ることになりそうだ。
そうして日々が順調に過ぎていく中、王都に戻っていたシリルが再び領地へとやって来た。
少し長く滞在する予定のようだ。
もちろん、逗留するのは我が家である。
王都では、社交場に出て色々と情報を仕入れてきたらしい。
この国の流行の発信地は概ね王都だ。
今後行う実験の内容を決めるとき、今どんなものが流行っているかという情報は参考になる。
それで、シリルから色々と教えてもらうことにした。
ただ、到着した日は疲れているだろうから、翌日改めてお茶でもしながら話を聞くことにした。
そんなところに、タイミングがいいというのか、新たな客がやって来た。
「久しぶりだね。君も元気そうで良かった」
「クランプーズ殿も元気そうで何より。あちらの国はどうだった?」
日も明けて、今日はシリルと話すぞと意気込んでいたところに、お兄様がやって来た。
どうやら叔父と仕事の打ち合わせをするためだったようだ。
私は知らなかったのだけど、お兄様とシリルは面識があったらしい。
シリルが我が家に逗留していることを叔父から聞いたお兄様は、打ち合わせが終わった後に、私たちがいる応接間にまで顔を見せに来てくれた。
二人の話は留学していた国の話から始まり、王都の話や実験場の話へと移り変わる。
実験場の話では、私が話すこともあったのだけど、お兄様とシリルの間で話が盛り上がり、私はほぼ聞き役となっていた。
それでも十分楽しかったし、今後の参考にもなる話があったので問題はない。
シリルから聞いた王都の流行を参考に、次はどんな実験を行おうかなと考えを巡らせている間に、お兄様とシリルは何やら内緒話をしていたようだ。
「新しい作物の栽培方法に、魔物の飼育方法の確立、それから魔道具の開発もか」
「うん。中々使えそうだろう?」
「そうだな。今回の騒動で第二王子は大分株を下げたようだが、まだまだ手緩い」
「うちの姫を随分と粗雑に扱ってくれていたようだしね。俺もまだ腹の虫が治まっていないんだよ」
「まずは勢力を削ぐところから始めるか」
「取り敢えず、男爵家からでいいかな? あそこはうちと競合しているものも多いし」
「構わないが、何か策があるのか?」
「ソフィアの料理はもう食べた?」
「あぁ。昨日夕食で食べたが、目新しさもだが、とにかく美味しかった」
「あれはかなり強力な武器になるよ。既にこの周辺では広まりつつあるけど、ここから隣国に広めようかと思うんだ」
「隣国というと、王都とは逆方向のか?」
「そうそう」
「いい考えだ。男爵家は王都周辺の食糧関係を押さえているんだったか」
「そうそう。うち主導で広めるから素より噛ませる気はないけど、隣国から王都に情報が入ってくる頃には他の商会にも広がっているだろうね」
「流行の発信地の名も廃れるな」
「だろう?」
あくどい笑みを浮かべながら楽しそうに話す内容は、声を潜められているせいで私のところまでは届かない。
たとえ普通の大きさの声で話されていたとしても、考え込んでいた私の耳には入ってこなかっただろう。
こうして、お兄様とシリルの悪巧みは、私の知らないところで進められていくのであった。
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