Mission-65 『浮気と借りと予想の百倍』
「で、要件はなに? 困りごとか?」
チューチューとストローから糖分を摂取しながら聖也に問いかける。
そんな聖也もまた自販機でリンゴジュースを購入していた。意外と飲むもの可愛いな、コイツ。
そして、俺と同じく紙パックのリンゴジュースにストローを差して一飲みすると、
「ま、そんなとこだ」
苦笑する様にそう言った。
「まず俺の力が必要な問題事ってだけでもいまいち想像つかないんだが…。というか、お前今部活中じゃねぇの」
そう時刻は放課後。普通ならば、聖也はサッカー部の活動真っ最中のはずだ。
「部活中だが、それのせいで滞ってるわけさ。無関係のやつらには練習させてるが、俺と隼は巻き込まれ中だ」
「ふ~ん。で、単刀直入に聞くけどその困りごとってのは?」
「簡潔に言えばお前も知ってる馬鹿がやらかした、ってことだな」
「あー…」
その抽象的な表現だけで、俺は原因が誰であるかを察した。
つまり彰である。
そして、悲しいことに俺はあいつに借りがある。言うまでもなく例の脅迫状の件だ。
はぁー、しゃーない。ここは借りを返す意味も兼ねて一肌脱いでやるとしますかね。
「で、彰は具体的には何をやらかしたんだ?」
「…女関係だ」
「…ん?」
「言ってるこっちが恥ずかしくなるような話だが、二股がバレて別の高校の女子生徒二人が乗り込んできたんだよ…。そんで今は部室が修羅場状態だ」
「………」
あいつ高校生だよな?
何でそんな昼ドラみたいなことが、それも学校で展開されてる訳?
***―――――
その後、移動しながら聖也から聞いた事の概要は以下の通りだ。
・彰は、A学校(仮称)の女子生徒とB学校(仮称)の女子生徒と同時に付き合っていた。
・女子生徒は共に二年生である。
・そんな中、どういうわけかB学校の女子生徒がその事実を知った。そしてA学校の女子生徒に直接問いただしに向かった。
・二人は口論となったが、それでは決着がつかないと結論が出て二人してこの風寺学院高校へと乗り込んできた。
・部活中の彰と対面→部室で修羅場。
という流れで今に至るというわけだ。
「ふっつにーアイツが百の割合で悪いだろ」
「それはその通りで、そこはみんなわかっているんだが。現状その二人が怒りまくってて収まりが効かなくなってるんだよ。まぁ、当人同士は愛だ恋だと色々あるし多感な女子高生だ、すぐ解決とはならんだろ」
「まぁなぁ。それで俺の力が必要だと?」
「ああ、俺も隼も一応親身に話は聞いたつもりだが、やっぱり彰とおんなじ男だしな。警戒されてるのか、中々話が進まねーんだ。それにああ言うのは、やっぱり同じ女子が話聞いてあげた方があっちも断然いいだろ。そんなことに悩んでる中で偶然お前を見つけたんだ」
「なるほどなぁ。あれ? でも待て、サッカー部に女子マネいたけどあの子らは?」
「俺もそれは言ったんだがなぁ。『純粋にサッカー部のために頑張ってくれてるマネージャー組にそんな余計なことはさせたくない。監督不行届で俺が責任もって解決する』と隼が聞き入れなかったんだよ」
「さすが、隼平。キッチリしてるな」
「ハハッ」とそのブレない姿勢に笑いながらグラウンドへと続く道を歩く。
段々と修羅場の最中であろうサッカー部の部室が見え始めていた。
「いいだろう、引き受けてやる。ここは女心に繊細とは程遠い野郎どもに変わって、女子高生代表の俺がキッチリ解決してやろう」
「ほっ、本当か!?」
俺の自信満々に言葉に、驚きながらも安心した様な表情を聖也は浮かべる。
そして何を隠そう、今回この俺の自信満々の背景にはしっかりとした根拠が存在するのだ。
それは言わば、生前の遺産。
前も言ったかもしれないが、この容姿にこの声。よく遊んでいたのは勿論男子だが、女子の友達も多く存在した。
緋音を名前で呼ぶのを躊躇った様に俺から彼女らに対し距離を近く接することはなかったが、彼女たちの方は俺のことをまるで同じ女友達の様に接してきてかなり距離が近かった。それにより女子の気持ちは普通の男子より何倍もわかるし、読み取ることが可能なのだ。
それに何故だか恋愛相談とかもかなりされた。つまり女子相手の恋バナ的なトークも聞き専門だがかなり慣れたものだ。
そんな俺ならば、今回も全然余裕なはずだ。
なーに相手は年下の小娘。俺がキチンと話を聞いて、然るべき対応をとり、その怒りをキッチリ静めてやろうではないか。
「よし、ここだな」
「ああ」
そして、俺と聖也は部室の前へと辿り着いた。
さてと。この後は室内に入って、まずはしっかりお互いの言い分を聞い――、
「ふざけないでください!! なんでっ、なんでなんですかっ!? あたし、初めての彼氏だったのに! 本当に好きだったのに…! ううっ…、ぐすっ…! うっ、ううっ…!」
「………………」
「………………」
が、ドアノブに手が触れようとした瞬間にそんな声と女の子のすすり泣くような声が室内から聞こえてきた。
………………。
「……………よし。わるいな、聖也。そういや俺、これから用事あるんだった」
「待たんかい」
そして、すぐさま自身の手に負える案件ではないと察した俺は全てを無かった事にするために回れ右して帰ろうとしたのだが、その手をガッチリと聖也が掴んだ。
くそっ、流石ゴールキーパーだけあって反応が早いな。
「――聖也、よく聞け。いいか、ホントに良く聞けよ。想像していた百倍くらい生々しい! 安請け合いしたのは悪かった! これは清純派純情系の俺には無理だ、帰らせてくれ!」
「わーかってる! わーかってるけど、頼む!! 帰らないでくれ!! この殺伐としたエグすぎる状況を俺と隼でどうしろってんだよ!?」
「いやいや! そこに俺が加わってもどうしよもないって、これは! ここはもうティーチャーとかポリスを呼べ! 大人の力を借りろ!!」
「だれっ!?」
が、そんな醜い争いをしている間に室内から声がかかった。
恐らくさっきの泣いていたことは別の女子生徒の声だろう。
――そして、室内の方から絶望へと続くドアは開かれた。
やっべぇ…、どうしよう?