Mission-66 『仕切りと禊と裁判長』
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
もし地獄などというものが現実にあるとすれば、それはきっとここの事なのだろう。
敵前逃亡を試みるも、結局彰の二股相手の女学生Aに見つかりそれも失敗。
存在が露呈した俺と聖也は部室の中へと誘われた。
そしてその中の光景はまさに混沌とした地獄だったわけだ。
まずは地面に正座する彰。
その近くのパイプ椅子に座り、泣きじゃくる女学生B。
そんな彼女の側で申し訳なさそうにしながら慰めの声をかける隼平。
同じくその側でめっちゃ怖い顔して仁王立ちする女学生A。
そしてそんな中に放り込まれた俺と聖也。
やっべぇ、俺の人生史上一番帰りたい…。
これが俗に言う修羅場ってやつか。
「まぁ、なんだ…」
そんな中、意を決したのか聖也が口火を切る。
全員の注目が俺の隣に集まる中、
「やっぱり女子側に立てる人間が必要だと思ってな。葦山見つけたから連れてきた。これでもう一回、話してみないか?」
そう話し合いを提案する。
それと同時に完全に俺の逃げ場が消えた。
――よし、もうここは腹をくくるしかないか。一度は了承したわけだしな。
ふぅー、と一度深く息を吸い覚悟を決める。
そして俺はできる限り和やかな表情を造ると、
「初めまして、彼らと同級生の葦山青葦です。なにやら揉め事だと聞いたので、私にできることがあれば――」
「部外者は引っ込んでて!!」
「………」
いや、それを言ったらおしまいじゃん…。
空気を和らげようとちょい清楚さを意識して切り出した言葉は、女学生Aの一喝で無残にも中断されてしまった。
が、逆にそれが俺の意思を刺激した。端的に言うならばちょっとカチンときた。
「いや、あのさぁ。ムカつくのはわかるけどよ、そんなこと言ってたら話が進まんだろ。部外者が出張らなかった結果、この状況なんだろ?」
そして、取り繕った清楚さは一瞬で消え去り結局いつもの俺になった。
やっぱだめだな、付け焼刃は。という訳で作戦変更、いつも通りにいこう。
しかしそれが功を奏したのか女学生Aは「うっ…」と出鼻を挫かれたように言葉に詰まった。
まぁ、この子も完全に被害者な訳だし可哀そうでは勿論あるんだけどな。
「あれだ、一回改めて双方の言い分を聞こう。裁判みたいな感じだ」
そんなふうに切り出し、俺の仕切りが始まる。さながら裁判長だな。
よし、まずは何とかこの混沌とした現状を一先ず整理しようと試みてみるか。
「まず、彰」
「りょ~かい」
「……」
呼ぶ俺の声に正座した彰が顔をこちらへと向ける。
…あれ? こいつ反省してなくない?
が、その言葉だけで俺はすぐさまそんな疑いを持ってしまった。いや、だって反省してるやつは了解の『う』を『~』にしないだろ。
それにもっと声のトーン沈むだろ。普通にいつも通りなんだが、昨日の作戦会議ぐらいのテンションなんだが。
「ちょっと待て。…お前ホントに反省してるか?」
「いやいやいや! してる、してるよ! 急に何言ってんの葦山ちゃん!?」
俺の問いに首をブンブン振りながら狼狽する彰。
怪しい。すごく怪しい。
「聖也、どう思う?」
「――ぶっちゃけしてないな」
「聖ちゃん!?」
「隼平、どう思う?」
「あー…。ノーコメントで」
「隼ちゃん!?」
はい、証言二つ集まりました。隼平のは被害者女学生二人の手前、濁す様に言っただけで聖也と同意見って認識していいだろう。
…あれだな、真剣に悩んでたのが馬鹿らしくなってきた。
もうこいつ、極刑でよくねーか?
「――よし、これは収拾つかなそうだし、土下座した頭を二人にローファーで上から思いっきり踏んづけられて、それが禊でいいんじゃねぇーか」
「………ねぇ、聖ちゃん。贅沢言ってるのはわかってる。でも、できればもっと普通な感性の女の子を裁判長として連れてきて欲しいかな~って、俺は思ったりします」
「贅沢言うな」
縋る言葉に聖也が一喝。流石だ。
――っと、そうだそうだ。
「ここじゃ下がコンクリであぶねーから、やるならグラウンドに移動して土の上でだな」
「そんなこと気にしてません! てゆーか葦山ちゃんさっきまでと言ってること全然違うじゃん、双方の言い分聞くとか言ってたじゃん!? なにもう帰りたいオーラ前面にだしてんのさ!」
「やかましい、それに人聞きの悪いことを言うな。言い分聞きたくなるような態度じゃねぇんだよ。つーか、二股かけた彰が全面的にわりぃだけだろが」
「いやっ…、まぁそれはそうなんだけど…。でも二股ってわけじゃ――」
「いい加減にして!!」
と、そこで少しの間黙っていた女学生Aが怒りの声を上げた。
そりゃそうだ。いい加減にしてほしいよな、まったく。やれやれ、本当に困ったダチだぜ。
その女学生Aの気持ちを理解した気になり、そう頷く俺だったが、
「さっきから黙って聞いてれば――」
そこで予想外のことが起きた。
『さっきから黙って聞いてれば――』の後に何故か女学生Aは俺の方へとキッと鋭い視線を向けてきたのだ。
そして、
「すっごい親しそうに彰、彰って! あなたはこの人の何なんですか!?」
とんでもない飛び火がまさかの俺に飛んできた。
ええっ…、マジで…?




