Mission-61 『女子と甘味とヤバさの片鱗』
「しっかし、買い出しねぇ~。お前は慣れてるのか?」
「何度か同じような買い出しに行かされてますからね」
「ははっ、苦労してるんだな」
そんな訳で俺は副会長と二人で飲み物の買い出しに行くために、再び生徒会室を出て廊下を歩いていた。
今のところ、俺の彼に対する印象は真面目そうな好青年でしかない。果たしてこれが逆転することなどあるのか、はなはだ疑問だ。
「で、飲み物つったって好みはあるよな。あいつら何が好きなんだ?」
「ああ、それはご心配なく。買うものは毎回同じものと決まってます」
「ん、それは心強いな。…というか、それなら俺いらなくね」
「…俺?」
そう愚痴っていると、副会長が首を傾げる。
どうやら、俺の一人称に引っかかったらしい。まぁ、引っかかるよね。会ったほぼ全員引っかかってるし。
「ああ、昔から一人称が俺なんだよ。違和感あるのはすまんな」
「? それはおかしいですね?」
が、いつもの様に適当にそう流そうとすると副会長は納得いっていない様に再び首を傾げた。
おかしい?
「僕が本で読んだ限りでは、現代の女性の一人称は『私』『あたし』『うち』『自身の名前』、それに稀に『ぼく』だったりはあるようですが一人称が『俺』の女性は聞いたことがありませんね」
「えーっと…、まぁ例外ってことかな」
「…はぁ、なるほど…。つまり葦山先輩は、なんというか…かなり変人ということですかね?」
「変人…。いや、まぁそうとも言えるかな」
「なるほど…」
結構グイグイ歯に衣着せずにくるな、副会長。
いやまぁ、実際には女装してセーラー服着て高校に通っている一度死んだ人間だから、変人で何の間違いもないけどさぁ。むしろヘンタイって言われないだけマシだけどさぁ。
でも今はそれはバレてないわけだろ。それで一人称が『俺』ってだけで変人認定は中々に辛口査定な気がするぞ、副会長くん。
が、それをわざわざ言ったりはしない。
ただでさえ若干気まずい微妙な空気になりかけているのだから、ここで更に深入りは禁物だ。
逆に話題を変えるぐらいしないとな。そうだ――!
「そういやあれだな、副会長くんはよく会話の中に本を出すな。本が好きなのか?」
そう聞くと、先程までと打って変わって年相応の少年の様な笑みを浮かべながら「はい、そうなんですよ」と副会長くんは頷いた。
「実は祖父が出版関係の会社を経営していまして、それに加え父も母も作家をやっているんです。そんな家系ですから昔から本に接する機会が人より何倍も多かったので、いつの間にかといった感じです」
「へぇ~、そりゃ凄い。本の一族だな。あっ、だから名前が読なのか」
「はい、『正しい知識を修めるためにたくさんの書を読み学んでほしい』といった由来だそうです。そして、結果まさにその通りに育ったのが僕というわけです」
「はぇ~」
まぁ、見た目からして文学少年っぽいもんな。
そんなことを話しているうちに、あっという間に自販機についてしまった。
さてと、ほんじゃあちゃっちゃと買って帰るとしますかね。緋音から渡された五百円をポケットから取り出して、
「よし、どれにする?」
「僕はお茶で。後はこれが三つですね」
「三つ?」
副会長くんにそう聞くと、まずは自分の注文を言うと更にそんなことを言って自販機の中のとある一つの飲料を指差した。
『糖度最高潮――いちごミルク』とそこには書いてあった。
…ちょっと待て、ツッコミどころが何個かあったぞ。
…いや待て。落ち着け、葦山蒼葦。
ここは冷静に一個づつ解決していこう。
「えーっと、副会長くん」
「? なんでしょう?」
「まず最初に聞きたいのだが、その三つというのは誰の分だい? あれか、あの二人と今は生徒会にいない会計さんの分かな?」
「なにを言っているんですか? あの二人と貴女の飲み物ですよ。わざわざいない人の飲み物は買いませんよ」
…おやおや~、なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。
これがもしかして緋音の言ってたことなのか?
が、ここで臆してもしょうがないので俺は前へと踏み込んだ。
「じゃあ、三つの内の一つが俺の分だとしたら何ですでにこれに決まってるんだ?」
「え? いや、だって葦山先輩は女性ですよね?」
「…そうだが」
「なら、これが一番好きな飲み物じゃないですか。『女性は甘いものが好き』、これはたくさんの本に書かれている常識ですよ」
「………」
「故に、この学園の自販機で一番糖度の高いこの『糖度最高潮――いちごミルク』とやらが貴女と生徒会のお二人が一番好きな飲み物で間違いないんです」
そのまっすぐな眼を見てわかった、こいつ何の疑いもなく本気で言ってやがる。
………うん。緋音の言うとおりやべー奴だわ、こいつ。