Mission-52 『徳と比較とほのぼのタイム』
「――てな感じで頼むわ」
「ん、りょうかい。…てかホントにそれだけでいいの?」
「おう、俺の予想通りなら誰か反応するはずだぜ」
「ほ~。まぁよくわかんねぇけど、任されたよ。そんじゃあ一応俺が先に教室行ってんね」
「おう、任せた」
俺の頼みを快諾した彰がそう言って一足先に教室へと向かって歩いていった。
うん、頼りになるやつだぜ。
あとは俺が彰のちょい後に教室に行って昨日と同じ様な行動をとるだけ。そうすれば、きっと謎の手紙の送り主も尻尾を出してくれることだろう。
そう考えながら俺もゆっくりと歩き出そうとしたところで、
「おっ、おはようございます。葦山さん」
後ろからそんな声がかかる。
その昨日新しくできた友人の声に、
「おっす。おはよ、委員長」
と俺は前に踏み出そうとした足を止めて、その朝の挨拶に応えた。
振り返ると、予想通りそこにはビン底メガネがトレードマークの委員長が立っていた。相変わらず、と言ったら失礼だが思春期の男子には刺激の強そうな健康的なスタイルだ。
というか、制服着てこれってガチで凄いんじゃないか? グラビアの人とか顔負けだろ。
そんな風に今さらながら委員長のダイヤの原石感をひしひしと一人感じながら、
「委員長もさっき登校?」
と問いかける。
すると、委員長は「いいえ」と首を振り、
「教室をお掃除したあとに通りがかった先生のプリントを運ぶお手伝いをして、今はその帰りでちょうど教室へ戻ろうとしていたところです」
そうサラリと結構すごいことを言った。
確かにそう言われてみれば委員長は鞄なんかを持ってないな。…というか、朝っぱらから凄いね、この子は。善行を積み過ぎでしょ。
俺なんてお面付けた神様と女装について問答をしていたというのに…。
「お~、そりゃ朝からお疲れ様だな。そういや昨日言ってたもんね。いつも早く来て掃除してるって」
そんな自分と委員長の朝の過ごし方の徳の高さの違いに若干凹みながらも委員長と話しながら歩き出す。委員長も俺の横に並ぶようにして歩調を合わせてくれる。
「いえいえ、もうルーティーンのようなものですよ。逆にやらないと調子が出ないくらい」
そう言ってニコッと笑う委員長に、俺も笑顔で「…なるほどな~」と返す。
が、委員長は気付かなかったようだが俺の笑顔はたぶんメッチャ引き攣った苦笑いになっていたはずだ。何故なら、また意図せずして徳の高さの違いを見せつけられてしまったから。
――ルーティーンという言葉によって。
委員長の朝のルーティーンは、教室の掃除。それにより委員長は調子が出るし、教室を使う生徒は気持ちがいいし、良いこと三昧。
俺の朝のルーティーンは、家の鏡の前でセーラー服と完璧な女装を決め込んで『今日も可愛い、頑張れ蒼葦♪♪』。それにより俺は羞恥心を味わうし、神様が軽く引くし、悪いこと三昧。
ヤバいな、委員長に比べたら俺の今日の朝の行動はマジで何なんだよ。悲しくなってくるぜ。
…いや、自分で言っておいてだがマイナス思考はよくないな。それにより、油断とか隙が生まれて男の娘バレからのループなんてなったら笑えない。
うん、ここは自分を下げるんじゃなくて相手を上げよう。
委員長――椎葉牡丹は善人度100パーセントの心に一切の穢れの無い聖女様、そう考えよう。そうすれば朝っぱらから女装した自分を本心じゃないにせよ全力で自画自賛する葦山蒼葦という人間も捨てたもんじゃないはずだ。
「葦山さん?」
「はいっ!?」
「うわっ、びっくりした! 大丈夫ですか、急にボーっとして」
「…おっと、ごめんごめん。大丈夫、ちょいと考え事をしてただけ」
あぶねあぶね、心の中の思考に夢中でボケッとし過ぎちまったぜ。
しかしそんな俺に委員長は
「それならよかったです。あっ、でも何かあったらいつでも相談してくださいね。この時期に転校はやはり精神的にも肉体的にも負担はかかるでしょうし。私で力に慣れる事なら喜んで力になりますんで」
そう自身の両拳をグッと握り、元気づけるように言葉をかけてくれた。
その言葉を聞き終えて、何となくだが『これから一年間ここで男の娘として生活する中で様々な苦難困難が襲い掛かっても絶対にこの子には迷惑をかけたくないなぁ~』と自然に俺は思っていた。
「――そっか、ありがとな委員長」
「いえ、お礼を言われるようなことではないですよ」
そう話しているうちに教室が見えてくる。
さってと、脳をほのぼの状態から切り替えて『手紙の送り主炙り出し作戦』といきますかね。




