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Mission-48 『帰宅とピーと反省会』


「うっ~、やっぱ春でも夜は冷えるなぁ~」


 すでに夕暮れだった空は暗く染まっており、時間的にも完全に夜だ。

 その夜空の下で俺は一人満たされた腹に満足しながらとんかつ屋の前で立っていた。

 そんな俺に、


「…なんだ、待ってたのか?」


 そうドアの開閉音と共に声がかかる。

 当然ながらとんかつ屋から出てきたのは達也だ。一緒に会計をするのはお釣りやらがめんどくさかったため俺が先に会計を済ませて店の外に出ていたという訳だ。


「会計の一分くらい、待ってるに決まってんだろ。そんなせっかちじゃねぇよ」


「そうか」


「そうそう。っつーか、かなり美味かったな。初見の店にすりゃ大当たりだ。お前のお眼鏡にもかなったみたいだしな」


 先程対面に座りながら美味そうにとんかつ定食を食べる達也の顔を思い返してそう言うと、達也は特に照れたりすることなく「ああ、美味かったな」と素直にそう俺に同意した。

 ちなみに言えば、ほぼ同じタイミングで注文したメニューは届いたため食い終わったのもほぼ同じ。そんで、会計のタイミングもほぼ同じってなったわけだ。


 さてと、次はこの後どうするかだが…、 


「達也、お前って電車? それとも家が近場か?」


「近場だ。ここを真っ直ぐでその後でかい交差点を右手に曲がってそこからそこそこ真っ直ぐだ」


「そっか。じゃあ交差点まで一緒に行くか」


「いや、俺自転車だから一回駐輪場経由しなきゃないんだが…」


「ん。ならそれも付き合うよ。駐輪場なんて駅の近くだろうし。どうせすぐそこだろ」


 ここで別れんのも味気ないしな。

 それに飯食ってる時に思いついたんだけど…実は一個聞きたいことがあるんだよな、これが。


「はぁー、わかったよ。好きにしろ」


 そんな俺の提案をため息混じりながらも達也は了承してくれた。


***―――――


「つーか、お前パソコン部部長って言ってたよな。てことは機械に強いのか?」


「まぁ、人並みよりかはな」


「ほぉ~、じゃあなんか機械関係で気になったらお前に聞けばいい訳だ」


「…今の会話のどこを切り取ればそうなるんだ?」


「いやぁ~、機械に強い友達とか一人いると心強いよなぁ~」


「聞けよ」


 そんな訳で一時駐輪場まで行って達也の自転車を回収し終えた俺らはそのまま帰路につこうとしていた。

 ちなみに流石にかなりのマイペースっぽい達也と言えども、横に歩きの俺がいるので自転車には乗らずに手で押して並走してくれている。


「ったく、であんたんちは遠いのか? 交差点まで一緒ってことは学校の方向ではあるんだろ」


「ああ、お前が右曲がる交差点をちょいと真っ直ぐ行って左曲がった住宅街の中だな。そんな遠くはねぇよ」


「そうか」


 そんな世間話をしながら、俺たちは歩いていた。

 そして、そうこうしているあっという間に話に出ていた交差点が見えてきた。

 さて、あそこ行く前に聞きたいこと聞いとくかな。


 その疑問は達也に対することではない。この世界のシステムに対することだ。

 そうつまり俺が聞きたいことはというと…、


「なぁ、達也」


「ん?」


「さっき俺らがいたとんかつ屋の側の駅って何駅って言うんだっけ?」


 あの駅についてだ。

 

 俺が文字として目で見たとき、駅名はモザイクで消されていた。

 ならば音として耳で聞いた時にはどうなるのか?

 その方法を何となく思いついたのだ。そして、思いついたからには実行してみたいのが人のさがというものだ。


「はぁ?」


 その俺の疑問に達也が不思議そうに首を傾げた。

 まぁ、当然と言えば当然だろう。駅なんだからその名前は十中八九ここの地名。転校生とは言えども分かり切ったそれを訪ねるのは若干不自然だ。

 しかし、達也はそう疑問に思いつつも「そんなの決まってるだろ」と口を開いてくれた。くれた…のだが、


「――あそこは”ピ――”駅だ」


「…はい?」


「いやだから”ピ――”駅だよ、”ピ――”駅」


「…………」


 ――なるほど、そうきたか。


 達也が発した言葉。それはまるでバラエティ番組で下ネタが発せられた時の様なピー音で上書きされていた。

 見ればモザイク、聞けばピー音。マジでただの放送禁止用語じゃねぇか…。

 ごめんな、名も知らぬ土地。俺のせいでメチャクチャ卑猥な物みたいな扱いにされちまって。


「おい聞いてんのか? あそこは”ピ――”駅だ――」


「うん。わかったわかったよ。もう大丈夫だ。ありがと、達也。ほいでごめんな達也」


「? おかしなやつだな」


 とりあえず結論は得られたのでお礼と謝罪を言ってこの話題を終わらせる。

 ちなみにピーピーピーピー言ってるように聞こえるのは俺だけなのはわかっているが、それでもなんか居た堪れなかったのでお礼の後に謝罪を付け足しておいた。


 そんな訳で、とりあえず疑問の答えは出た。

 そして、ちょうどその話が終わったくらいのタイミングで俺たちは交差点に辿り着いた。

 交差点の前の信号は赤で右へと渡る信号は青。


「うっし、ここでお別れだな。じゃあな、達也」


「ああ。まぁ、なんだ…気を付けて帰れよ」


「ハハッ、おう。いいやつだな、お前」


「どこがだよ? こんくらいでいい奴認定されたら世界の大半のやつがいいやつだ」


「いや、お前はいいやつだよ。人を見る目には自信あるんだ」


「…そりゃどうも」


 それだけ言って、達也が自転車にまたがり信号を渡り出した。

 特に別れの言葉も言わずに左手を軽く上げただけのその後ろ姿を見送り、俺もまた青になった信号を渡って家に向かって歩き出したのだった。



 達也と別れて少し歩き、俺は大体十二時間ぶりくらいに我が家に帰ってきていた。

 俺しか住人がいないであろうこじんまりとしたアパートの101号室。そのドアをゆっくりと回して、室内に入る。

 そしてそのドアを閉めた瞬間、パッと暗かった室内の電気がつき同時にテレビの電源が入った。


 普通の家で体感すればそこそこの心霊現象だが、俺は不思議と驚かなかった。

 何となくあの・・は出迎えてくれるような気がしていたからだ。

 靴を脱ぎ、この世界で最初に目覚めたテレビのある部屋に進む。ついたテレビには予想通り、不思議と見慣れたセーラー服にお面姿の神様が映っていた。


「おう、神様。一日目が終わったぜ。感想のひとつでも窺っていいか?」


「ふむ、ならばさっそく反省会と行こうか。そこに座るといい」


「…俺、感想聞いただけなんですけど?」


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