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Mission-38 『DFとGKと馴染む三人』


 ピピーッ、と中央で隼平が笛を鳴らしゲームがスタートした。

 

 チーム分けは、隼平チームと聖也チームに分けられている。

 ちなみにハンデ枠として女子(嘘)である俺と虫の息である彰はそれぞれ別チームに分けられた。

 なお、俺が女子としてハンデ枠に分類されてしまったのはぶっちゃけズルしてるみたいで非常に申し訳ないのだが…勝負が始まったからには勝負事はいつも全力でが心情の俺としては手加減はしないつもりだ。


 俺のポジションは隼平チームのフォワード。

 キックオフは、聖也チームからなので本来は中盤でいい感じにポジショニングをしつつボールを奪う機会を窺うのがセオリーだろうが、


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 俺はキックオフと同時に相手陣地深くにランニングする様に小走りで当然ボールも持たずに切り込んでいった。

 これも隼平の気遣いだ。

 どうやら俺は守備に参加を免除してもらったようで常に前線にいて良いらしく、いい感じの所にいたらパスを貰えるらしい。

 いや~、至れり尽くせりで本当に申し訳ない。


 というわけでそのままペナルティエリアの近くまで俺は辿り着いてしまったわけだ。

 今は聖也チームのマイボール。だからディフェンダーであるサイドバックもセンターバックも少々ポジショニングを上げているため、うちのチームの誰かがボールを奪いカウンターを仕掛けようにも普通ならここじゃオフサイドになってしまうので俺にロングパスは通せない。

 ――のだが、今回は例外だった。

 何故かといえば、


「うげぇー、今激しく動いたら俺死んじゃう…」


 スポーツドリンクの入ったペットボトルを片手に思いっきりグラウンドに仰向けになる彰の姿がそこにはあったからだ。

 守備&攻撃のどちらもやる気が欠片も無いその姿は逆に清々しくさえ見える気がしないでもない。

 まぁ、あんだけのスピードであの距離走ったらこの現状も無理もないけどな。


「よう、大丈夫か?」


「…大丈夫に見えるなら、目の病気かドSだね。というかめっちゃ自然に馴染んでるけど、なんで葦山ちゃんがいるの?」


「暇でちょっくら体を動かしたかったから、混ぜてもらったぜ」


「わーお、シンプル」


 グッと親指を立てた俺に仰向けの身体を今度は横に倒し彰がペットボトルに口をつける。

 が、不意にそこで俺と彰の視線がぶつかり、キランと彰の瞳が怪しく光った。

 

 ん?

 そして、その視線の先にあったのは俺のスカート。

 …こいつ、まさか。


「うん、葦山ちゃん。あと三歩程で見える気がするんで、もっと俺に近づいてください」


 どうやら、俺の予想通りだったらしい。完全に覗くチャンスを得たと思ってやがる。

 というか、こいつは何故に隠すどころか逆に堂々とそんな要求してんだろうか。


「一応言っとくけど、下に短パン履いてるから意味ないぞ」


「わかってないなぁ~、葦山ちゃん。中身はそこまで問題じゃなくて、スカートの中ってところに意味があるんよ」


「うげっ、気持ち悪いな。そんでそう言われて近づいたら逆に頭おかしいだろ。つーか、それ相手が俺じゃなかったら悲鳴上げて逃げられてもおかしくない発言だぞ」


「本当にわかってないなぁ~、葦山ちゃん。キチンとそんな風に軽口を返してくれると思った子にしかこんなこと言わないよ。だから俺のその気遣いの心に免じて――ギャワッ!?」


 が、その言葉が終わる前に彰の尻を後ろに立つ影が軽く蹴っ飛ばした。

 ちなみに俺はそれに気づいてたけどあえて言いませんでした。

 その影の正体はというと、当然この状況でサイドバックよりも後ろにいるんだからゴールキーパーしかいない。


「なにすんのっ、聖ちゃん!?」


 仰向け→横向きからのその蹴りで→うつ伏せとなった彰が声を上げるが、


「堂々と女子にセクハラかましてるカスを蹴っ飛ばしただけだが?」


 蹴った本人である聖也の方は表情を変えずにそう告げる。


「悪びれる気なしかよっ!? そんで今日みんな俺に当たりキツくね!?」


「おー、サンキュ聖也。実はいきなりあんなこと言われて何も言い返せずに怖くて震えてたんだ…」


「はい、ダウトダウト! こっちはこっちで大嘘吐きすぎでしょ!! なにその謎の嘘!?」


 そう俺ら二人にツッコみを入れながら、ようやく彰が立ち上がる。

 …つーかこいつ、意外と元気だな。回復はえーし。


「まぁ、そんな冗談は置いとくとして」


「…そんな冗談で片付けちゃいます?」


「おう、片付けちゃいます。まぁあれだ、このすぐさまセクハラセクハラになるご時世にさっきみたいなド直球セクハラはリスキーだぞって話だ」


「うーん、そもそもさっきのをセクハラ認定は早計だよ。考えてみて、本当に覗きたかったらあんなこと言わずにチラチラッと黙って行動に移せばいい。つまり、さっきの俺の行動は自分が悪者になることで暗に『スカートの中が見えちゃいそうだよ』と伝えるというセクハラの対極――むしろ紳士の所業なんだよ」


「ふーん、こんなこと言ってますけど聖也くん」


「日ごろの行いが悪いからな。よって俺は今さっき考えた詭弁と判断する」


「はい、残念だったな彰」


 そんな取りつく島を与えない俺と聖也に「ひどいよぉ、えーん」と彰が目を大げさに両手で覆う。

 もちろん、完全な泣き真似なため涙など出ていない。

 

 と、まぁそんな感じで三人で他愛もない話をくっちゃべっていたのだが、


「おおっ!」


 そこで後ろの方で一年生のものと思しき歓声が聞こえてくる。

 見れば、隼平がボールを奪取し、こちらへとカウンターを仕掛けようしている所だった。


「――うし、じゃあサッカーに戻るか。彰、レクレーションでも試合ではあるんだからちゃんとやれよ」


「ほーい」


「葦山、お前は気楽に肩の力抜いてがんばれよ」


「ほーい」


 それを見て、聖也が俺たちに声をかけてペナルティエリア内へと戻っていく。彰もまた今まで手にしていたペットボトルを地面に置いて両手をフリーにする。


「もう体力は回復したか?」


「いや、まったく。どんだけ走ったと思ってんの。――でも、まぁ流石に女の子に一対一では負けないくらいにはなったかも♪」


 ニヤッと彰が笑い、それに俺も同じくニヤッと笑みを返す。

 

 ――よっし、じゃあやるか。


 気合いを入れ、足首を軽くだけ回すとクルリと向かい合う体勢から彰に背を向ける。

 そして少しだけ自陣へと後退したところで、


「へい!」


 片手を上げて、隼平にボールを要求する。

 隼平の位置はちょうどハーフライン辺り。二人の新入生がマークについているが未だにボールはその足元にある。

 

「おっ、いいところにいるね。なら――はいっと!」


 そんな隼平は俺の要求に気付くと、その状況から一人の一年生の股を抜いてまるで狙い澄ましたかのように俺にパスを送ってくれる。

 が、


「ごめん、強すぎたかも!」


 その真っ直ぐなパスは、結構なスピードで俺の元へと放たれた。

 少しサッカー経験のある程度の女子・・じゃ足元に収めるのも難しい程のスピード。

 しかし、


 ――これいけるな。


 その時点で俺はさらに先のことを考えていた。何故なら俺はそこそこサッカー経験のある男の娘なのだから。

 俺の後ろにはほとんど距離なく彰が張り付いているのはわかった。それに加えてこのスピードのあるボール。利用しない手はない。


「うわっ!?」


 まずはそう声を上げる。

 まるで隼平の心配そのままに素早い勢いのあるボールに対して女子が困惑する様に周囲には見えただろう。もちろん彰にも。

 その隙を突く。


 ボールをあえて受け止めずにそのスピードのままつま先の上に乗せる様にして、


「よっと」


 そのまま浮かせる。

 勢いのついたボールは前に向かう力そのままに予想通り俺の背後にいた彰の頭の上を弧を描く様にして越える。

 そして、


「ちょっ!?」


 ボールを浮かした瞬間に俺は彰を中心にして円の半径を描く様にクルリと一回転して、身体の向きを反転させる。

 そのまま彰を躱して一歩二歩と進んだ俺の前に先程浮かしたボールが落ちてくる。タイミングバッチリ。

 更に、


 ――あっ、これ打てる。


 その瞬間に俺の本能はそう告げた。

 重心の整った自分の体勢。一度地面にバウンドしたボールの位置と高さ。ゴールまでの距離と角度。彰を抜き去りドフリーとなった俺を見て驚いた様な表情を浮かべる聖也。

 その全てが俺の右足を振り抜かせた。

 そして、


「しゃー、先制点!!」


 自分でもでき過ぎなくらいに良いところに放たれたシュートは、聖也の身体に阻まれることも無くそのままゴールに突き刺さりネットを揺らした。

 

 うーん、やっぱ体動かすのは気持ちいいな♪


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