Mission-37 『人手と会議とキックオフ』
「待て待て待て待て、ちょっと待て!」
そんな俺の誘いに隼平が答える前にどこからか別の声が乱入する。
その声の主は割って入るように俺と隼平の間に歩いてくる。
そして俺を見ると、
「そもそもいきなり出てきたキミは誰なんだ? 入ってくる流れが自然過ぎて中々言い出せなかったぞ」
と、ビシッと指を突き立ててくる。
見たことないから多分違うクラスのサッカー部だな。で、隼平を敬称無しのあだ名で呼んでるってことは俺らと同じく三年生だろう。
「あー、今日から三年に転校してきた葦山蒼葦だ。よろしく」
「――なるほど、転校生か。確かに話は聞いてはいたな。…それで隼とはまさか昔に会ったことのある幼なじみとかだったりするのか?」
「? なんでだ? 普通に今日初めて会ったぞ」
「は? いや、始めた合ったのにそんなに距離感が近いわけ――」
と、心底不思議そうにその乱入サッカー部が唸りながら言う。
…まぁ今日何回も言ってる気がするけど、女子の格好でありながら中身としての俺は一切取り繕ってねぇからな。いきなり会って間もない男子を下の名前で呼び気の置けない感じで話す女子生徒を見れば、そう勘ぐるのも何ら不思議はない。
さて、ここはどう取り繕ったもんだろか?
「ちなみに彼はうちの正ゴールキーパーの波木聖也。更に副部長でもあるよ」
悩んでいると、横合いから隼平が乱入サッカー部の正体をそう補足してくれた。
更にそれは補足でありながらナイスパスでもあったわけで、
「そっか。よろしくな聖也」
「…………」
「はい、こんな感じで葦山さんは初対面でも相手を自然と名前で呼ぶ癖というか習慣があるらしいよ」
そう俺が実例を示しながら答える。そして、更にそこに隼平の援護射撃が加わった。
むぅー、それにしてもやっぱ内外ともにイケメンだなこいつ。同じ男としても尊敬しちまうレベルだぜ。
そして、聖也の方も「んー、誰に対してもそうなら別に変じゃないのか…」と何とか納得したらしい、
よし、これでこのくだりは終わり。てなわけで本題へゴーだ。
「で、結局参加してもいーか?」
「うーん、別にいいんじゃないかな。それに朝に聞いた話じゃ葦山さんは運動神経に自信あるって言ってたしね」
「いや、しかしだな。女子を参加させるって言うのは…」
「でも、さっきまで涼宮さんと明寺さん呼ぼうかって話してたでしょ」
「…そりゃまぁ、そうなんだが」
再びの俺の問いに対し隼平と聖也が小会議を始める。
隼平の方は乗り気だが、聖也はまだ悩み中って感じだ。それにまた知らない人の名前が出てきたな。さん付けってことは女子か?
「その二人って誰?」
「ん? あー、二人ともサッカー部のマネージャーさんなんだけど中学まではプレイヤーとして女子サッカーをやってたらしいんだ。だから、基礎的なことはしっかりできるから穴埋めに参加してもらおうかなってさっきまで考えてたんだ」
「その子らは今どこにいんだ?」
「体育館だよ。まだ説明会自体は続いてるしね。今ここにいる一年生は最初からサッカー部に入るつもりだった子たちだけだからね。まだ悩んでて説明会全体を見て最終的に入りたいと思ってくれた一年生達とマネージャー志望の一年生達は説明会後に彼女たちが連れてきてくれることになってるんだ」
「なるほどなぁ~。うんうん、事情はわかった。つまり、まだ自分の仕事中の彼女たちを巻き込むのはあまり良くない訳だ。――よし、ここは俺で妥協しとけ」
全ての事情を聞き終えた俺は、そう纏めるとグッと親指を立てた。
隼平が「あはは、やる気満々だね」と苦笑し、聖也の方は「女子が俺って…」とこちらも恒例の俺の一人称に対する引っ掛かりを見せていた。
「うん、まぁこれだけ言ってくれるなら俺はここは葦山さんに穴埋め頼むのが良いと思うんだけど。どうかな、聖也」
「…まぁいいんじゃねぇか。自信も満々みたいだし、そこそこサッカー経験もあるんだろ」
「おっし、サンキュ。話が分かるな二人とも」
そして、なんやかんやで説得は成功。
初志貫徹で俺はサッカー部の練習に混じることに成功したわけだ。よっし、やっと体を動かせるぜ。今日は柄にもなく頭を働かせすぎたしな、これでリフレッシュだ。
「というわけで、緊急参加の三年、葦山蒼葦だ。ある意味ではキミらと同じくこの学校では一年目だから、気兼ねなく接してくれ」
そして、その目論見成功の勢いそのままに俺はざわざわしつつも先輩たちの会話には割り込めずにいたサッカー部一年生たちにそう手を上げて挨拶をする。
すると、多くの後輩たちがは「よろしくお願いします!」と礼儀正しく挨拶を返してくれた。
「ふぅー、やっぱいいね。後輩ってのは」
「まぁ、そうだな。――それで、あんたその恰好でやる気なのか?」
そんな気分上々の俺の姿を見ながら聖也がそう聞いてくる。
確かに一人だけ制服のスカート姿。その疑問は当然だろう。しかし、俺はすでに準備完了なんだ。
「安心しろ、聖也。すでにスカートの下には短パンを装着済みだ」
「ハハッ。ここに来る前から参加するつもりだったんだね、葦山さん」
「なんでお前はそんな楽しそうなのかわからねぇけど…。というか短パンはいいとして、制服とか着たままじゃ汚れるかもしれないぞ」
「あー、まぁその辺は為る様になるだろ。汚れても洗えば大丈夫だろうし」
「ガサツなやつだな…」
そんな呆れた様な聖也の声に「サバサバしてると言ってくれ」と笑って答える。
さてと、これで残る問題は、
「それであと足りないのは? 俺を加えてここに何人いるんだ?」
「21人だね」
俺の問いにそう隼平が答える。
言うまでもないがサッカーは11対11で行うスポーツだ。つまり正式に試合をするに必要なのは22人。この場では必要なのはあと一人という訳だ。
そして、
「で、どうする? やっぱ涼宮か明寺を――」
「あー、それならたぶん大丈夫だぞ」
「ん?」
「え?」
俺にはその一人に心当たりがあった。
「外の外周って時間とかじゃなくて何周とか決めて走らせてるんだろ?」
「そうだが、それがどうかし――」
「なら大丈夫だ。一人だけアホ程すっ飛ばしてたやつがいたからな。もしかしたら、そろそろ終わってここに来るんじゃないか」
その俺の言葉が言い終わるか終わらないかという瞬間に、
「しゅーりょーーーう!!」
と外周のコースからグラウンドへと示し合わせたかのように汗ダラダラ顔真っ赤、加えて疲れで虫の息の我がクラスメイトの偽イケメンこと御門彰が現れた。
それを見てニヤリと隼平に笑いかけると、隼平もまた「あー」と納得したような声を漏らす。
そして、
「おーい、彰! さっさと来い、試合始めるぞ!」
「ポジションは聖也チームのサイドバックね。はい、水分補給だけしたら試合開始だよ!」
サッカーグラウンドに22人が集まり、
「なんかグラウンドに鬼が二人いるんですけどッ!?」
そんな彰の悲鳴のような声が響き、レクレーション試合開始の準備が整ったのだった。




