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Mission-34 『散歩と窓とニャーニャーニャー』


「ふぅ~。さってと、この後はどうするかね」


 三人と別れた後、食器を片づけて食堂を後にした俺が向かったのはトイレだった。

 当たり前だが男だろうと女だろうと男の娘だろうと生理現象は襲ってくるものだ。


 しかし、普通にトイレに向かおうとした俺だったがその途中で自分の今の状況を改めて思い出した。

 セーラー服を着ている。そして俺の今の身分は女子生徒。

 そう死ぬ前の様に普通に男子トイレに入ることなど言語道断な状態なのだ。

 かといって女子トイレに入るわけにもいかない。俺が十八年間の人生で培ってきた常識とか倫理とかマナーとか道徳とかの色々な理性がそれは絶対にしてはいけないと判断したからだ。


 というわけで少し悩んだ結果、俺が用を足したのは普通のトイレの横に設置された多目的トイレだった。

 ここなら俺が男だと不慮の事故で判明することもないし、ササッと済ませれば誰かに迷惑をかけることもない。そんな判断によるものだった。

 まぁ、悪くない選択だったと思う。

 

 問題なのは、これからの学校生活においても俺は用を足す際は常にこの多目的トイレを利用するしかないということだ。

 うーん、できる限る不自然でないように行動しないとな。

 男とバレることは無くても、怪しまれる様な行動はしないに越したことはないんだから。


 そんなことを考えながら、用を足し終えた俺は手を洗うと多目的トイレを後にしたわけだ。

 

「う~ん、帰ってもいいけど…それは何か損した気がするんだよなぁ」


 しかし、廊下を歩きながらすでに俺はこの先の行動を決めあぐねていた。

 昼飯食っちまったからには、せめてもう少し学校にいたい。この気持ちをわかってくれるだろうか?

 帰るならば、お昼を食べずにそのまま帰りたかった。しかし、一度お昼を食べエネルギーを補充してしまったからにはまだ学校で何かをしたいのだ。これで帰ったら何か損した気分になる気がする。

 というわけで、帰るという選択肢はない。

 

「とりあえず、このでかい学校に慣れる為にちょいと校内を歩くか」


 少し考え、そんな漠然とした答えを出す。

 そして、俺は当てもなく廊下をプラプラと歩き始めたのだった。



 校内を散歩する、意外とテキトーに見えて俺が選んだこの行動は正しかったのではないかと少し経って思い始めていた。

 やはり自分の足で歩き自分の目で見ることで意外と学内の構造が頭に入ってくるものだ。これはきっとこれからの学校生活に役に立つはず。

 それに今の時間は部活動をやっている生徒は説明会をやっている体育館か部活の活動場所、やっていない生徒は午後を迎える前に帰宅、新入生は全員体育館。というわけで、学内はそこそこ閑散としていた。

 

 こんだけ生徒数の多いでかい学校の校舎で昼間にここまで閑古鳥が鳴いているのは相当なレアケースだろう。

 そのおかげで俺は結構悠々自適に学内を散策できていると言ってもいい。

 いやぁ~、運がいいね俺。…いや、運良くなかったわ。だって午前中で二回死んでるし。


 そんな風に一人で色々と思いながら歩いていたところで、


「――おおっ、盛り上がってるね」


 窓の外から歓声の様な声が聞こえてくる。

 見ればちょうど歩いていた二階の廊下の窓からこれまたでかい体育館が目に入った。そして、そこからおそらく新入生のものであろう楽しげな声が溢れて俺の耳に届いてきたのだ。

 部活動説明会ってあんな楽しそうなのか? ちょっと興味でてきたな。

 

「まぁ、行けないんだけどね」


 しかしそうは思っても、流石に今からあそこの中に乱入するような気は起きない。

 立場的にも意味不明だし、進行に支障をきたしても悪いしね。

 せいぜい明日辺りに伏見とか隼平辺りにどんな感じだったのか聞くぐらいにしとこう。


「ふぅー」


 が、その楽しげな雰囲気は個人的には結構好きだし、体育館から漏れ出る歓声を聞いているだけでも時間を潰せる。

 だから休憩ついでにそこで俺は立ち止まると、空いた窓から手を出す様にしてぐだーっと寄りかかり体育館を眺めていようとしたのだが、


「ニャー♪」


「?」


 そこでまたもや別の音、というか別の声がちょうど廊下を挟んだ反対側の窓から聞こえてきた。

 確かそっちは中庭だった気がする。

 そんで中庭に猫? これまたベタだな。


 が、人というものは得てしてベタに弱いのだ。だって学校に犬とか猫とか入ってきたら大半の人がテンション上がるでしょ。

 そして何を隠そう俺も普通にそのベタに弱いタイプ。

 

「ニャー♪」


 その声に釣られて体は自然と反対側の窓へと向かっていた。

 そして窓から身を乗り出し猫の姿を見つけようとしたのだが、


「――――」


 結論を言うと見下ろした先に猫はいた。いたのだが、鳴いてはいなかった。

 鳴いていたのは、


「ニャー♪ ニャニャア♪」


 膝の上にその猫を乗せて、その頭を撫でる制服姿の女子生徒だった。

 ――いや、あながち表現的には猫が鳴いていたでも間違ってないのかもしれない。

 何故なら、


「――猫の声真似美味いな、猫寺」


「はうっ!? なにやつですか!? いかにも風寺学園の猫寺とは私のことですが…って、あれ? 葦山先輩じゃないですか、どうもっす」


 そこにいたのは朝、コンビニであった俺の後輩――猫寺柔だったのだから。


おそらくこれが年内最後の更新になると思います。

ストーリーはまだほぼほぼプロローグ部分ですがここまでお読み頂きありがとうございます♪

そして何卒来年も本作をよろしくお願いします!

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