Mission-33 『感謝とお礼と素顔の彼女』
「ごちそうさまでした」
そんなわけでその後は取り留めのない話をしながら昼食の時間は進み、俺の前の皿が空になったのは大体昼食時間終了の十分前くらいだった。
「いやぁ~、美味かった。満足満足。全メニューこのレベルならマジで昼飯は毎回ここに来るしかないな」
「マジで全部ペロリと平らげたね…」
「な、だから言ったろ。腹減ってたって」
少し驚いた様な表情の伏見の言葉に手をヒラヒラと振りながら答える。
――っと、そういや俺はこの後の時間は暇だけど普通は部活説明会があるんだよな。
「全員部活動説明会には参加するのか?」
「はい、私は文芸部部長をさせて頂いてますから」
「えっと…、私も手芸部として参加するかな」
「おー、なんつぅか二人ともイメージピッタリだな」
まさに二人ともガッチガチの文化系っぽしな。
悪い意味じゃなくてね。
「で、伏見は」
「そりゃあ私は全体の回しアンド司会よ。これでも生徒会長だしね」
「あー、そりゃそっか」
そして、予想通り俺以外の三人は部活動説明会に出席するらしい。
はて、こりゃあ俺はどうしよっかな。
出席できるのは各部活の発表者と新入生だけらしいしな。
…ん? 各部活の代表?
「てか、渡辺も代表なんだな。意外。…って、すまん。これは別に変な意味があるわけじゃなくてだな」
そこで思ったことを口にそのまま出してしまった。すぐにその失言に気付き、頬をかきながら渡辺に頭を下げる。
しかし、渡辺の方は「いえいえ…、言いたいことはわかりますよ」と苦笑すると、
「手芸部は実は去年の三年生が引退してしまってからは私含めて三人しかいなくて…、その上残り二人が二年生ですから。私が消去法で部長なんです」
「へぇー、そりゃまた大変だな。っていうか、三人でも部活として活動できるんだな」
「いや、原則的にはできないよ。部活動の認定は担当教員一人と部員五人が最低条件なの」
そこで話に伏見が割って入ってくる。
ん? 原則的には?
そしてその言葉に俺が引っ掛かったのかそこを補足する様に、
「一度部活になればその認定条件を満たさなくなっても次年の春まで有効なの。つまり今年の新入部員が二人入れば手芸部は継続、入らなかったら同好会に降格ってわけ」
「そらまたシビアだな」
「シビアでも規則なんだから仕方ないわ。ただでさえうちの学校は生徒数に比例して部活も多いからね。全部を全部と部活認定すると数がえらいことになっちゃうの」
まぁ、そりゃそうか。
でもそれを聞いちまったら渡辺がちょいかわいそうに思っちまう。どう考えても同好会よか部活の方がいいだろうしな。
――あっ、そうだ。
「渡辺。あれなら俺が新入部員の募集手伝おっか、どうせ午後は暇だし」
「それはやめといた方がいいでしょ。蒼が昔の魚屋とか八百屋の客引きみたいなハイテンションで募集して引っ込み思案な子が逆に寄り付きにくくなって逆効果になる未来が見える」
「えっ? 募集ならハイテンションで陽気の方が目立ってよくないか?」
「手芸とか好きな超文化系ガールとかは多分そういうグイグイ系の苦手な子が多いでしょ。とにかく、余計なことはやらぬが吉。大丈夫、変なことしなくても二人ぐらい杏ちゃんの誠実さで入ってくると思うよ」
「まぁ、お前がそう言うならそんなもんか。…そんでその杏ちゃんってあだ名?」
「そそっ、可愛いでしょ」
俺の思いついた作戦は伏見によって否定されてしまった。
まー、確かに伏見の言うとおり感あるしな。ここは余計に部外者がでしゃばるところじゃないか。
そして俺も特段反論はせずにすぐさま引き下がり、話題はすぐさま別のことに移った。
「それを俺に言われてもな。どうだ、渡辺?」
「…えっ、あー、うん。私的にはうれしい…かな」
「私も可愛くていいと思いますよ。呼びやすいですし」
話をそう渡辺に振ると、どこか照れた顔で口元を綻ばし頷いた。
そこに更に委員長の同意も付け加わる。
当の渡辺もかなり嬉しそうだ。うん、ならよかった。
――さてと、
「そろそろ時間かな。伏見たちは体育館だろ」
「うん。…って、ありゃ確かに時間ヤバげかも。さっさと食器片しちゃわないと」
「あー、いいよ。俺がまとめて戻しとくから。お前らは後輩たちのために頑張ってきなよ」
「ふふっ、さっすが蒼。気が利くね。よし、牡丹、杏ちゃん。ここは蒼のお言葉に甘えましょ」
そう言いながら笑うと伏見が椅子から腰を上げた。
それに続いて委員長と渡辺も「ありがとうございます、葦山さん」「えっと、じゃあすみません」と立ち上がる。
「がんばってな~」
そして、そんな三人の背中を俺は手をヒラヒラと振りながら見送った。
「さーてと、プレートと同じ形の食器を重ねちまうかな」
で、それを終えた俺はとりあえず四人分の食器を自分の前にまとめて持ち運びやすくしようとしていたのだが、
「葦山さん!」
そこで突然前から声がかかる。
「ん? 渡辺?」
そして顔を上げたそこには何故か渡辺の姿。
しかも小走りで戻ってきたのかハァハァと息を切らせている。
「どうした? 忘れ物か?」
「いえ。 あっ…いや、忘れ物といえば忘れ物ではあるけど…」
「?」
「えっと、大切なことを言い忘れてて…。――あの葦山さん、お昼誘ってくれてありがとうございました。あそこで葦山さんが誘ってくれなかったら今日も私は一人で冷たいパンを食べてたんだと思うから。だから、ありがとう」
「―――」
思いがけずかけられたその感謝の言葉にすぐにはなんと返せばいいかわからず、二三秒ほど沈黙してしまう。
だけど、それに対してその数秒で気の利いた答えを考えられるほどに俺は機転の利く人間じゃないのは自分でもわかっていた。
だから、
「ハハッ、そりゃよかった。どういたしまして」
そう思ったままの本音の答えを返した。
そんな俺のシンプルすぎる答えに渡辺がニコリと笑う。
…というか薄々気づいていたけど渡辺って結構美人だよな。普通に伏見と委員長と並んでも全然見劣りしないんじゃないか。
「…あっ、あのあと一つ」
その渡辺の笑顔を見ながらそんなことを考えていると、どうやら言い忘れていたことはもう一つあったようで再び渡辺が口を開く。
「なんだ?」
「えっと、私の気のせいだったらいいんだけど…。葦山さんが自己紹介した時に、愛姫ちゃんがね。あんまりよくない目で葦山さんを見てた気がしたんだ」
「………え?」
「だから、流石に愛姫ちゃんが葦山さんに何かするっていうのは私の気にしすぎな気はするけど…気を付けて。あの…それでもし何かあって困ったら、私でよければ相談してね」
「わかった、ありがとな。ちょっと気に留めとくよ」
「はい、じゃあ部員獲得のために行ってきます」
「おう、健闘を祈ってるよ」
俺の言葉に「うん」と元気よく頷くと今度こそ渡辺は食堂から出ていった。
ふぅー、自己紹介の時とはだいぶ印象が変わったな。いや、あれが元の感じの渡辺なんだろうな。
「さてと今度こそ食器片すか~」
そんなことを漠然と思いながら俺は再び食器をまとめる作業に戻った。
――っていうかあれ? 自己紹介終わって席につくときに聞こえてきた舌打ちってもしかして…。
渡辺に言われた言葉からそんな出来事を思い返しながら。
そして、俺の転校及び転生初日は午後の部へと突入していくこととなるのだった。




