Mission-29 『伏見と椎葉ともう一人』
とりあえず、俺はこの人に男だと疑われた時点でアウト。
いや、それどころか軽口で「お前男っぽいな~」的なことを言われただけでも下手な受け答えをしてしまえば終わりというわけだ。
ヤバいっ、これはマジでヤバい。
「あー、朝に私が言った嘘がわかるってやつの確認か。なんでまたいきなりそんなことしようと思ったんだよ?」
「あー…、いや…。とっ、唐突に気になりましてね」
ちなみにこれは別に嘘はついていない。
本当に気になったわけだからな。俺からしたら死活問題だし。
そして、やはり先生は俺の言葉が嘘か本当かはしっかりわかる様で俺の答えに「あー、まぁ気になるっちゃ気になるか」と納得して頷く。
「まぁ、あれだったらあとで詳しく教えてやるよ。ほんで、お前はこの後どうすんだ?」
そしてやってきた運命の分岐点。
さっきはここで『帰る』という道を選び失敗した。そして今回も『帰る』を選べば同じ展開になるのは必定。なら俺のとるべき選択肢は一択だ。
疲れてはいるけど、とりあえずさっきの二の舞だけはごめんだ。今はまずこの先生から離れないと。
「あー、この後伏見とか誘って初学食行こうかと思ってて」
これも嘘じゃない。何故なら答える前にそう決めたから。
そして、先生は「そっかそっか」と特に引っかかることもなく納得してくれた。それどころか、
「おーい、伏見。葦山が一緒に学食行こうだと」
と伏見の席までそう声をかけてくれる。
その声に「おー、私もちょーど誘おうと思ってました!」と元気な伏見の声が返ってきた。
うん、やっぱさっきと一緒で伏見は俺を誘おうとしてくれたようだ。こうやってループ前の記憶を利用するのはこれからも大事になってきそうだな。
「ここの学食はでかくてメニューも豊富だからな。楽しんでこい」
そして、俺の頭を再び出席簿でポンと軽く叩くと先生は教壇へと戻っていった。
すいませんね、先生。プリントはお一人で運んでくださいな。
てなわけで、午前で終わるはずだった俺の初日は午後へと続くことになったのだった。
「いやぁ~、気が合うねぇ。ちょうど私らも蒼を誘おうと思ってたの。ね、牡丹」
「うん、私たちお昼は大体学食だしね。それで葦山さんを案内してあげようって話になったんです」
「ハハッ、そりゃよかった。という訳で午後も世話になるね、伏見、委員長」
そして、俺の席まで来てくれた二人とそんなことを話しながら俺も椅子から立ち上がる。
これからこの二人の案内で学食へ向かうというわけだ。その後のことは…まぁ今はわからん。
「つーか二人は仲良いの?」
「うん、二年から同じクラスでね。馬が合ったのかすぐ仲良くなったんだ」
「緋音ちゃんが最初に話しかけてくれたおかげですけどね。葦山さんも今日の朝はそんな感じだったとか」
「あー、伏見から聞いたのな。そうそう、朝コンビニでな」
そんな他愛もない話をしながら教室から出ようとする俺達三人。
しかし、
「ん?」
そこで俺の眼に一人のクラスメイトの姿が止まった。
すでに自由時間となり、教室から出ていった生徒も教室内で友人と話している生徒も多い。そんな中で一人ポツンと机に座り、どこか寂しそうな表情を浮かべている。
名前は覚えていた。この個性の強そうな面々が集まっている教室で静かで地味っぽくて目立たなそうだからこそ、逆に記憶に残っていたのかもしれない。
「あー、わるい二人とも。あの子も誘って大丈夫か?」
そして、気になってしまったら放っておくのもどうかと思い、二人にそう問いかける。
俺の言葉に「ん? 誰?」と伏見が教室内を振り返りその生徒を確認すると「私は全然いーよ」と快諾してくれた。委員長もまた「私も大丈夫ですよ」と受け入れてくれる。
二人の許可が取れたところで、俺は「ちょい待ってて」とだけ言ってひとり教室内へと戻り、そしてそのクラスメイトの席の横まで歩いていった。
これはぶっちゃけただのお節介だね。
でもせっかく同じクラスになったんだから望まずに孤立してそうになっているクラスメイトとかいてほしくないしな。まぁ、これで孤立しそうになっているってのが俺の勘違いとかだったらだったら笑えるけど。
「ねぇ、渡辺さん」
「!? …え、私ですか?」
「うん、そうそう。あのさ俺たちこれから学食行くだけどさ――、よかったら渡辺さんもどうかな?」
そんなわけで、おれは自己紹介でメチャクチャ緊張してた風だったのがやけに印象に残っていた渡辺杏子さんを昼食に誘ったのだった。




