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第75話 行商人と個人依頼

 ベオファウムに向かって飛行中。

 結局なんだかんだと家族に引き止められていたのもあり出発が昼近くになってしまった。この調子なら夕方には着くとは思うけど、あまり遅くなると街に入れなくなってしまう。

 これは普段街にいる人間でも、ナージュさんに発行してもらった許可証があっても変わらない。極端な話、領主様でも入れないのだ。

 飛行し続けて数時間、だいぶ日も傾いてきたがベオファウムに入るには十分間に合う。途中下を見たときに旅人の姿を見たり、街道沿いに数匹のゴブリンやウルフを見掛けもしたがスルーして飛び続けた甲斐があった。

 そう思っていた矢先、前方に馬車が見えた。

 街道の途中で止まっており何かトラブルかなと思ってよく見てみると…。


「ゴブリン?…に襲われてる!」


 馬車が止まっていたのは馬が怪我をさせられてしまったからのようだ。御者らしき人が追い払おうと剣を振るっているがゴブリンの見窄らしい盾で防がれて思うように攻撃できていない。

 助けるかどうかの判断するまでもなく私はその現場へ自身の身体を弾き飛ばした。

 到達するまでの僅かな時間で魔闘術で右足に魔力を集中。

 着地は一体のゴブリンの頭の上だ。普段は着地の際に上方向へ風の力を向けるのだが今は緊急事態のため省略。勢いそのままに予定通り少し離れたゴブリンの上に着地した。


ドチャッ


 着地と同時に足元にゴブリンだったものが弾け、辺りに肉片を巻き散らかした。

 地面がかなり凹んでしまったが、とりあえず後回しにして御者さんが相手をしているゴブリンに地魔法を放つ。


石射(ストーンシュート)


 かなり固め、そして先端を尖らせた石の弾丸を遠慮なく撃ち込んでいく。

 弱めに撃てばBB弾で撃たれるくらいのものだが、今は殺傷力を最大まで上げている。


「ガギャッ?!」

「ギャギャギャキャァァァァァッ!」


 その弾丸はゴブリンの盾だけでなく皮の鎧、更には肉体をも貫通して正に蜂の巣にしていく。

 マガジンが私の魔力という理不尽極まりないマシンガンの的にされたゴブリン達はあっという間にあと一体まで数を減らしていた。

 仲間を失ったそのゴブリンは逃走しようとしたがついでに弾丸を撃ち込みその命を奪っておいた。

 ここで逃がすと人間への恨みを募らせてホブゴブリンになったり、または別の上位種に進化することがあるのだとか。なのでゴブリンは見掛けたら基本的に全て狩ってしまうようギルドからもよく言われている。


 ひとまずゴブリンは全滅させたので、私は御者さんの無事を確認することにした。

 歩いて向かう最中に下半身についたゴブリンの血を魔法で洗い流してきちんと清潔な身なりにしたことはいうまでもない。


「大丈夫ですか?」


 私は倒れ込んでいる御者さんに声を掛けて右手を差し出した。

 彼は金色の髪を汗で顔に貼り付けているが、今まで命の危険があったためか顔色は青くなっている。

 線の細い体躯ではあるものの、知的な雰囲気のする若者だった。イケメンの部類には入るのだろうがちょっと頼りない感じがする。最近こういう細身のイケメンにしか会わないのだけど、何故か私好みの男性はなかなか出会えない…解せぬ。

 彼は顔を上げて私の手を取ろうとして、その動きを止めてしまった。


「あ、あぁ。助かったよ……って、子ども?」

「無事なようで何よりです。他の同乗者の方もご無事で?」

「……子ども…」

「あの…」


 私が言葉を促すように声を掛けると慌てた様子で話し始めてくれた。


「いや本当に助かったよ、ありがとう。君、子どもなのに強いんだね」

「はい、訓練してますから。それと…小治癒(ヒール)


 左手を突き出し彼の前に翳すと回復魔法を使った。

 左腕と左足に怪我を負っているのがすぐわかったためだ。更に馬にも回復魔法を使うとすぐによくなり、立ち上がってぶるると一鳴きした。


「…回復魔法まで使えるなんて…君は一体…?」

「私はセシル。冒険者です」

「…冒険者?子どもなのに?その歳で?」

「…冒険者に年齢制限はないはずですけど…」


 さっきから子ども子どもと助けてあげたのに随分失礼な態度の人だ。実際子どもではあるけれどちょっと礼を失していると思う。

 でもあの状況で見捨てるなんて選択肢は私の中になかったからなぁ。

 不機嫌な様子が表情に出ていたのか御者の男性は慌てたように手を振りながらようやくお礼を言ってきた。


「すまない…助けてもらったお礼が先だったね。本当にありがとう。君が来てくれなかったらどうなっていたか…」

「ゴブリンの餌になっていたでしょうね。じゃあ私は行きますから」


 こんな失礼な人に付き合う必要もない。

 早々に立ち去ってベオファウムでゆっくり休もう。何よりあまり時間を取られると街に入れなくなってしまう。


「あっ!待って!どうだい?助けてもらったお礼に街まで乗せていってあげるよ?」


 …それって体の良い言い訳にしか聞こえないんだけど?つまりは同乗させるから護衛しろって言ってるのよね?


「護衛が必要なら雇われてあげてもいいですけど…早くしないとベオファウムの門が閉まってしまいます」

「ベオファウム?何を言ってるんだい?ここから徒歩だとまだ丸一日はかかるような場所じゃないか」


 しまった。焦ったばっかりに余計なことまで言ってしまった。

 普通の人はこの場所からベオファウムまで徒歩だと一日かかるとは思っていなかった。上空からならベオファウムは既に遠くに見えていたからだ。


「ちゃんと食事も出すし、なんなら護衛費用だって払う。ね?悪い話じゃないだろう?」


 いやいや。

 護衛として私を雇うなら費用払うのは普通ですから。食事は出ないだろうけど、それは私なら腰ベルトに収納してあるので何ら問題はない。


「はぁ…わかりました。ベオファウムまで乗せていってもらいますね。途中魔物に襲われるようなことがあれば私が対処しますから」

「あぁ、助かるよ!短い間だけどよろしくね!私はブリーチ。ブリーチ・モンドだ」

「よろしくお願いします、ブリーチさん」


 結局さっきの私の失言をあやふやにして誤魔化すため相手の言い分を丸飲みすることにしたのだった。

 馬は先程回復魔法を使ったので怪我もよくなっているし、御者であるブリーチさんも問題無さそう。しかし時間はそろそろ五の鐘が鳴ろうかという時間だったので、もう少し進んで水辺の近くで野営をしようと話が決まった。

 馬車は所謂荷馬車でいろいろな物がたくさん積まれている。同じ物が大量にあるところから察するにブリーチさんは行商人をやっていると見た。


「あぁ、商品がたくさんあるから傷だけは付けないように気をつけて。空いてるところ…はないから、ここに来て座っているといいよ」


 そういうと彼は自分の座っている御者台の隣をポンポンと叩いた。

 確かにそこしか落ち着ける場所はなさそうだけど…なんか釈然としないものがある。


「随分たくさんの荷物を運ぶんですね」

「あぁ、今行ってきた村は早く収穫して加工食品として売り出す特産品があるんだ。今年の初物だからね、そりゃ奮発して買い付けてきたんだよ」


 へぇ。私のいた村にはなかったことだけど、そういうことをしている村もあるんだね。

 これは商人だからこその知恵かもしれない。

 折角なし崩し的に同行することになったのだし、いい機会だからこういう勉強をさせてもらうことにしよう。




 馬車に揺られながら街道を進むことしばらく。ようやく川が近く、少し開けた場所に着いた。

 そこは小さな小屋が建っていて、旅をする人なら誰でも休めるようにしてある場所だ。

 私も冒険者稼業をやる中でこういう所は何度か見掛けたことがある。利用するのはだいたいリードの付き添いで遠方の依頼を片付けるときだけだったが。

 ブリーチさんは馬車を停めると荷台から飼い葉を出して馬に与え、更にブラシを掛けてあげていた。立場としては護衛で雇われている身なので私は彼が用意すると言っていた食事が出てくるのを待てばいいのだけど…。


 結局暇に勝てず、私はいつも通りスキルを使って近くに魔物の有無、他の動物の有無を探り安全を確認した上で川で魚を捕って調理することにした。

 調理と言っても魚を捌いてハーブをつけて焼き、領主館でもらっておいたパンに挟んで作ったフィッシュバーガー擬きだ。

 ソースがないので塩と柑橘類の絞り汁、それとハーブで香り付けした程度のものだけど、ブリーチさんは「美味しい」と言ってあっという間に平らげてしまった。

 その後は寝るまでいくつも為になる話を聞かせてもらいながら過ごしていた。どこの村にどんな特産品があるとか、王都にある有名なお店はどんなところなのかとかそういう種類の話。

 一見勉強熱心でありつつも、王都の流行りに興味がある女の子を見せかけることはできたと思う。

 実際はどこの地方にどんな宝石が取れるか、王都にある宝飾品店はどんな感じなのかとか、そういうリサーチだったわけだけど…多分ブリーチさんは気付いてない。


「それじゃブリーチさんは商会の跡取りなんですね」

「あぁ。もちろんそんな大手ではないけどいつかは王都でも指折りの商会にして王室からも貴族からも御用商人にされるのが私の夢なんだ」


 なかなか大きな夢を見る青年である。

 私は腹黒い企みをする領主様のような人はかなり好きだけど、こういう夢に真っ直ぐな人も大好きだ。例えばユーニャだったり、リードだったり、もちろんコールだって。

 それは老若男女問わず応援したくなるし、何らかのお手伝いをしたくなる。自分にできる範囲のことでだけど。


「じゃあ王都にいったらブリーチさんの商会を一度は訪ねてみますね」

「一度と言わず何度でも来てよ!君は命の恩人だ。値段だって勉強するし、サービスだって…」

「あぁ…値段は別にいいんですよ。何なら今回の護衛もお金はいりません」

「えぇ……それは…」

「あれ?タダの方がいいんじゃないんですか?」

「いやぁ…商人仲間の間でよく言われる格言があってね。『タダと言われたら金貨を払え』って。後々になってこっちが損をすることになるから後腐れなくお金を払おうってことなんだって」


 あー、「タダより高いものはない」って日本の格言と同じってことか。

 でも残念、私にとっては適当な依頼料よりももっと大事なことがある。


「お金よりも、ブリーチさんのお店にある宝石を見たいの。私に買えるものなら買いたいし、買えなくても見るだけでもいいの」

「…そんな、ことでいいのかい?」

「私にとっては護衛一日の依頼料程度よりよっぽど価値があることよ」


 私がそういうと彼はしばらく考え込んだ後でしっかりと頷いてくれた。私が王都にいった際にはとっておきの商品を見せてくれるとまで言ってくれた。

 王都に行く楽しみが増えたのはいいことだ。

 とにかく今から楽しみで仕方ない。


 その後私のスキルで周辺警戒をするからと彼を先に眠らせた後、スキルを全開で使って広げ常時使用したまま私も眠りについた。

 気配察知や魔力感知さえ有効なら何かが近寄ってきてもすぐに対応はできる。

 残念ながら知覚限界を使ってしまうと感覚が冴えすぎてしまって寝られなくなるのが困りものだけどね。

 そんなわけで私の初、年上男性との外泊はとても好みから外れた細身のイケメン跡取りだったのだが…当然私の姿がまだ子どもだったせいもあり?色っぽい話など出るはずもなく朝を迎えることになるのだった。

今日もありがとうございました。


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[気になる点] なぜ引き受けるんだろう。  主人公「それじゃ、私は行くので」→その他「待って!」 主人公「はぁ、仕方ない」 みたいな流れが多く感じる。 しかも、主人公はメリットがないのに気づいてるのに…
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